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桑田佳祐、「SMILE~晴れ渡る空のように~」初披露で深まる歌の意義 ブルーノート無観客配信ライブで届けた切なる願い

リアルサウンド

21/3/10(水) 12:00

 どんな状況でも音楽を届けたいという強い意思、コロナ禍によって変貌するこの国への思い、そして、ダメージを負っている人々に対する真摯なエール。桑田佳祐はこの夜、歌という表現の奥深さと凄みをたっぷりと堪能できる、圧巻のステージを繰り広げた。

 桑田佳祐が3月7日、無観客配信ライブ『静かな春の戯れ〜Live in Blue Note Tokyo〜』を開催した。“約4年ぶりのソロライブ”、“初のブルーノート東京公演”など数多くのトピックがあった今回の公演で桑田は、自らのミュージシャンとしての本質を露わにしながら、どこまでも大衆に寄り添い、市井の人々を励ます歌をたっぷりと聴かせてくれた。

 世界中がコロナ禍に襲われた昨年以降、桑田は積極的なアクションを継続してきた。昨年6月25日には誰よりも早く、大規模無観客配信ライブ『サザンオールスターズ 特別ライブ 2020 「Keep Smilin’ 〜皆さん、ありがとうございます!!〜」』を、大晦日には、無観客年越しライブ『サザンオールスターズ ほぼほぼ年越しライブ 2020「Keep Smilin’〜皆さん、お疲れ様でした!! 嵐を呼ぶマンピー!!〜」』を行い、“これぞサザンオールスターズ!”と快哉を叫びたくなるエンターテインメント性に溢れたステージを展開。日本中のファンを喜ばせると同時に、困窮する音楽関係者へのエールと、医療関係者、エッセンシャルワーカーへの感謝や労いを表明してきた。今回のソロ公演では、華美な演出を排除し、視聴者と“1対1”で向き合うようなパフォーマンスによって、楽曲に込められた思いやメッセージをより強く感じることができた。サザンのド派手なステージとは好対照の、シックに洗練された(桑田いわく“少々、大人の雰囲気”の)ライブだったと言えるだろう。

 配信のなかで桑田は、「今の時代だからこそ、(ライブの規模を)拡張するばかりじゃなくて、人肌を感じる距離で」演奏することの大切さ、そして、「未来を生きる人たちへのエールというのかな。歌うことによってつながっていきたいなと」という思いを語っていた。その姿勢を端的に示していたのが、ライブ後半で初披露された「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」だった。

 この曲は昨年、民放共同企画『一緒にやろう』応援ソングとして書き下ろされた。『一緒にやろう』とは、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて様々な取り組みを行っていたプロジェクトであり、「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」は、それに伴うイベントや企画を盛り上げる役目を果たすはずだったのだが、周知のとおり、コロナ禍により東京オリンピックは延期。しかし、「コロナ禍でも、(『SMILE〜晴れ渡る空のように〜』を聴くと)元気になれる気がすると言ってもらえて。アスリートのみならず、皆さんにエールが届くように初めて歌わせていただこうと」(桑田)ということで、この日の初披露に至った。

 原曲はきらびやかなシンセサウンド、エレクトロ系のトラックを取り入れた現代的なポップチューンだが、この日は生楽器を主体したオーガニックなアレンジで演奏。音数を抑えたサウンドによって、桑田が紡ぎ出す言葉のパワーをダイレクトに感じ取ることができた。特に印象的だったのは、〈私とあなたが 逢うところ/ここから未来を 始めよう〉〈世の中は今日この瞬間(とき)も/悲しみの声がする/次の世代に/何を渡そうか?!〉というフレーズ。前述の通りこの曲は、東京オリンピック2020を見据えて制作された楽曲なのだが、その時点で桑田は、アスリートへのエールや勝利への願いだけではなく、異なる背景を持った人々が出会うことの大切さ、そして、“華やかなイベントの陰には、悲しみを抱えた人たちがいる”という事実を描き出していた。コロナ禍により、世界中が途方に暮れるなか、この曲が持つ意義はさらに深みを増し、際立っているように思う。そこにあるのは“この状況をみんなで乗り越え、より良い未来につなげたい”“他者に思いを馳せ、分断を超えて、新たな連帯を生み出したい”という切なる願い。真っ直ぐな思いを込めたボーカル、バンドメンバー、スタッフとともに奏でた“Woh oh oh oh〜”という力強いコーラスを含め、「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」はまちがいなく、この日のライブのハイライトだった。

 その他にも、このライブで桑田が示したものは数多くある。ソロ楽曲、KUWATA BANDの楽曲を含めたセットリストからはソロアーティストとしての軌跡を追体験できるような醍醐味があったし、「ソバカスのある少女」(ティン・パン・アレイ)、「かもめ」(浅川マキ)、「灰色の瞳」(加藤登紀子&長谷川きよし)、「君をのせて」(沢田研二)といった昭和40年代、50年代の名曲のカバーからは、日本語の歌の可能性を追求し続ける、桑田のルーツを感じ取ることができた。その他に個人的に心に残ったのは、〈この国に生まれたら それだけで「幸せ」と言えた日が懐かしい〉という歌詞が響いた「グッバイ・ワルツ」、〈現在(いま)がどんなにやるせなくても/明日は今日より素晴らしい〉と歌う「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」。桑田はまちがいなく日本のポップミュージックを代表する存在であり、コロナ禍以降も未来への希望を歌い続けているが、一方で彼は、行き場のないやるせなさ、憤りといった負の感情もしっかりと描いているのだ。人生はとんでもなくつらく、苦しい。そのことから目を背けないからこそ、(「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」に象徴される)桑田の前向きな歌は、我々の心を強く捉え、生きる力を与えてくれるのだと思う。

■公演概要
『桑田佳祐「静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~」』
配信日時:2021年3月7日(日)19:00~
見逃し配信期間:2021年3月14日(日)23:59まで
チケット料金:¥4,500(税込)

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