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絢香が語る、原点=“歌を楽しむ”ことへの純粋な眼差し ミスチルや桑田佳祐ら名曲カバーから得た学び

リアルサウンド

20/5/12(火) 12:00

 絢香が『遊音倶楽部 ~1st grade~』以来、7年ぶりとなる2枚目のカバーアルバム『遊音倶楽部 ~2nd grade~』をリリースする。コンセプトは前作同様に“音楽を楽しむ”ことと “学ぶ”こと。河野圭、塩谷哲、Kan Sanoという3人のプロデューサーとどのように音楽を楽しみ、荒井由美や中島みゆき、桑田佳祐、Mr.Children、サカナクションといった尊敬するアーティストたちの名曲からどんなことを学んだのか。「大好きなアーティストの曲をカバーすることは、ただ、歌うことが好きだった原点に立ち返れる作業でもある」という彼女に、本作に収録された全10曲の制作過程について、オンライン取材で1曲ずつ話を聞いた。(永堀アツオ)

参考:ドリカム、BUMP、あいみょん、絢香、SHE’S……映画/ドラマ主題歌から生まれた新たな表現

■Mr.Childrenさんの曲はとにかく名曲だらけ

ーーまず、7年ぶりに2枚目のカバーを出そうと思った理由から聞かせてください。

絢香:前回、『遊音倶楽部 ~1st grade~』を制作したときに、シンガーとしても、ソングライターとしても、自分が思ってた以上に得るものがたくさんあって、その後の自分のオリジナルの作品に跳ね返ってくるものが大きかったんです。それからの7年間は自分の作品と向き合う期間だったんですが、久しぶりに“学び”の時間が欲しいなと思って。あとは、ありがたいことに、「『1st grade』が好きで、ずっと聴いてます」や「2枚目を作ってください」という声もたくさんもらっていたので、ちょうどそのタイミングが今だったっていう感じですね。

ーー前作ですでに“1st grade”=1年生というサブタイトルを付けてましたが、当時から続編というのは想定してたんですね。

絢香:そうですね。何年に1回っていうルールはなくても、オリジナルを作って出していくというルーティンの中で、ちょっと寄り道して遊びに行くというか。まさに、部活的な感覚でたまにやりたいなって、もう7年前から思ってましたね。

ーー倶楽部の2年生になったわけですが、選曲はどんな基準で行ったんですか。

絢香:まず1つは、幅広い世代の方に手にとって楽しんでもらいたいというところ。自分のコンサートでは毎回、お客さんに世代を聞いているんですけれども、10代から80代の方まで、本当に幅広い世代の方が参加してくれるんです。だから、どの世代の人にも楽しんでもらえる作品にしたかった。とはいえ、名曲はたくさんあるので、絞っていく作業は本当に幸せな時間でもあり、大変な時間でもあって。もし自分がカバーするならって想像した時に、自分だったらこう表現したいなっていう音の方向性が見える曲を選ばせてもらいました。あとはとにかく自分が大好きで歌いたい曲というところですね。

ーーでは、1曲ずつ選曲した理由やアレンジの方向性などをお伺いできますか。1曲目はMr.Childrenの「everybody goes ~秩序のない世界にドロップキック~」です。前作では「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」をカバーしてましたね。

絢香:Mr.Childrenさんの曲を並べて聴いて、改めて思いましたが、とにかく名曲だらけ。その中でも敢えてこの曲に決めたのは、攻めている強いメッセージやメロディライン、どこを切り取っても私の中からは生まれてこない要素ばかり。でも共感するところが沢山あった。だから、挑戦してみたかったんですよね。

ーー社会の矛盾や人間のエゴを歌った、アイロニーたっぷりの攻撃的な曲ですからね。

絢香:この曲がリリースされたのは1994年なのですが、時代が変わっても決して色あせることなく、今にも当てはまるメッセージが沢山ある。今リリースされた曲だったとしても、良い意味でかなり衝撃を受けるはず。すごいですよね。

ーーアレンジはシンセベースが効いた、軽快でアーバンなサウンドになってます。

絢香:アレンジに関しては、このアルバム全曲を通して、オリジナルへのリスペクトを前提に、元のアレンジから外せないところと、新しい要素を入れるところのバランスを考えながら創っていきました。新しい試みができる機会でもあり、例えばコーラスにしても、今までにないコーラスラインを作ってみたり……曲に呼ばれてそういうアイデアが出てくるのもカバーならではで、楽しかったですね。

ーーこの曲にも間奏でオリジナルにはないコーラスのラインが入ってますが、続く松任谷由実さんの「ルージュの伝言」はまさにアメリカンポップス調のコーラスワークがキーになっていて。

絢香:そうですね。「ルージュの伝言」では結構な本数のコーラスを重ねていきましたが、すごく楽しかった! コーラスで曲の世界観を作っていくというのを最近の自分の曲ではあまりやってなかったけど、オリジナルでもやりたくなりましたね。実際、同時期に制作した「道しるべ」というオリジナル曲は面白いコーラスを入れてみました。

ーーちなみに「ルージュの伝言」のアレンジャーは?

絢香:この曲と「アポロ」(ポルノグラフィティ)はKan Sanoさんです。「Love Love Love」(平井堅)と「糸」(中島みゆき)がいつもツアーを一緒に回ってる塩谷哲さん。それ以外の6曲が河野圭さんです。

■(カバー楽曲への)嫉妬みたいな感情もあった

ーーそうなんですね! 1曲意外な曲がありました。それについては後でお話しするとして、このまま曲順通りに行きますね。3曲目はback numberのウインターソング「ヒロイン」です。

絢香:この曲の持つ切なさを私なりに表現するためにはどうしたらいいかなって考え、少しテンポを下げさせていただきました。アレンジは、歌の繊細なニュアンスを自然と表現できるように、「音数少なく。でもドラマチックに」がテーマでした。

ーー続く、平井堅さんはミスチルと並んで、絢香さんが昔から好きだと公言しているアーティストですよね。前作では「瞳を閉じて」をカバーしてましたし、「Love Love Love」は武道館のライブでも歌ってました。

絢香:特に「Love Love Love」は自分が中学2年の時に初めて人前で歌った曲で、思い入れの強い曲です。原点でもあるこの曲と、改めて向き合う時間は感慨深かったですね。今回は自分がいつも一緒にツアーを回るミュージシャンの塩谷哲さん(Pf)、古川昌義さん(Gt)、大儀見元さん(Per)、大神田智彦さん(Ba)という、日本でもトップクラスのミュージシャンとスタジオで一発録りをしました。全員ブースに入って一発で録ったテイクなんですが、だからこそのグルーブ感が出たなととても気に入ってます。

ーーアカペラから始まって、後半にはコーラスも入ってます。

絢香:すごく楽しかったです。みんなとスタジオで音を出した時に感じた、なんとも言えない最高の空気感を軸にしたかったから、そこに合わせてコーラスもアレンジしました。

ーーアコースティック編成の生音に続き、レベッカ「フレンズ」は管楽器と弦楽合奏が中心で、中島みゆきさんの「糸」はアコギと歌のみという最小限の音数になってます。

絢香:「フレンズ」を選曲した時に、ストリングスがリズムの中心にいて曲を展開していくアレンジにしたいというイメージがあり、アレンジャーの河野さんに伝えたら、攻めたアレンジDemoが届いて……とてつもなくカッコよくて驚きました。本当に新しい「フレンズ」になったと思います。「糸」は去年、初めてのディナーライブでギターのみで歌いました。その時のアレンジが素敵で、その世界観のまま録りたいと、古川さんにお願いしました。これも二人で一緒に録りました。素晴らしい曲に、歌いながら感動しました。

ーーどんなことが思い浮かびました?

絢香:自分が(第二子を)妊娠中にレコーディングした曲でもあり、お腹の中にいる新しい命を思っても感じる部分があったし、レコーディングしながら、いろんな感情が込み上げました。今回カバーさせていただいたどの曲もそうなんですけど、「本当にいい曲だな」としみじみ思いながら、どうしたらこんなにいい曲が作れるんだろうと嫉妬みたいな感情もあった。「すごい」と「ずるい」の連続でした(笑)。そういう意味でも、今回の制作はまた刺激を受けましたね。

■Kan Sanoさんは私の求めてることをすぐに具現化してくれる

ーーそのあとの五輪真弓さん「恋人よ」との落差というか、広がりがかなりダイナミックですよね。歌詞はウェディングソングから、永遠の別れへという流れで、サウンド的にはアコギのソロからフルオケになるっていう。どうしてこの曲順にしました?

絢香:名曲揃いなので、どう並べても成立するし、贅沢な曲順決めではありました。でも、今回は歌詞の世界観の繋がりというよりは、サウンドで並べました。ギター一本のシンプルで柔らかい世界観から、ストリングスが効いてる真逆の世界観へ。陰と陽という真逆の世界観の繋がりがとてもよかったし、少ない音数からフルにいくっていう広がりも綺麗で、個人的には好きな並びになってます。

ーー「恋人よ」は歌ってみてどうでしたか。かなり低いキーから始まる曲ですよね。

絢香: この曲を歌うと、まるで映画を一本観たあとのような余韻が残るんです。たった3分という時間の中であれだけの世界が作れるっていうのは、本当にすごいことだと思います。しかも、Aメロは潜り込むような低い音域から始まる曲になっていて。この辺りの音域を使うと、こういう景色が広がるんだっていう初めての体験でした。自分の声の響きとしても新しい発見でしたし、自分のオリジナル曲でもこういう音域を使った曲を作りたいなと思いましたね。

ーー続く、ポルノグラフィティの「アポロ」はどんなアプローチを考えてました?

絢香:カバーすることを決めた時に最初に自分の中にあったのは、リズムをハーフにしてアレンジするということでした。結果的にそれが女性らしさも表現される要素になっていて、よかったなと今聴いて思えています。そのアレンジの方向性を伝えるべく、Kan Sanoさんに弾き語りのDemoを送ったところから制作が始まりました。

ーー今っぽいエレクトロファンクになっていてとても刺激的でした。

絢香:ありがとうございます。 私もすごく好きなアレンジになりました。自分が今までやってきた音楽の中にはなかったようなエッセンスをたくさん持ってる方なので、Kanさんのセンスを私の音楽に足してもらってる感覚です。本当に毎回、いい刺激をいただいています。

ーーKanさんとはオリジナルとしては5枚目のアルバムとなる前作『30y/o』で出会ったんですよね。

絢香:そうですね。Kanさんは本当に物静かで穏やかで、空気感もアーティスティックなんですよね。私の求めてることを理解してすぐに具現化して下さったり、さらに良いものを提案してくださったり、やりとりに無駄がなく、そして楽しいんです。いろんな人とご一緒するということは自分の幅も広げてもらえるし、新しい世界を見せてもらえるので、これからもどんどんやっていきたいですね。

ーーそして、サカナクションなんですが。

絢香:本当にかっこいい曲。隅々まで考えて練って作られていて、何度も繰り返し聴きたくなる中毒性がある。こんなの作っちゃうなんてすごいです。サビのメロディも美しい。そんな素晴らしい曲に身を置いてみたかった、そして歌ってみたかったんです。

ーーこの曲のアレンジが河野さんだって聞いてびっくりしたんですよ。オルタナR&B、エレクトロ、ニュージャズの要素が入っているので、新進のクリエイターかなと思ってました。

絢香:河野さんは引き出しがありすぎます! 毎回Demoが届くたびに驚かされるし、感動するんですよ。「にじいろ」とこの曲のアレンジが同一人物だなんて、なかなか誰も気づかないでしょうね(笑)

■何で桑田さんの描く曲は、こんなに胸にジーンとくるんだろう

ーーオントレンドなサウンドを歌ってみてどう感じました?

絢香:新しい刺激はいくらでもあった方がいいですね。今回のカバーアルバム制作で改めて、「やっぱり歌うことが最高に楽しい」と純粋に感じました。私が音楽を始めたすべての始まりはその気持ちからだし、特にカバーは歌うという作業が一番軸にある。だから、歌うことがただただ好きで仕方なかった原点に立ち返れる作業でもあります。こんなサウンドのオリジナル曲があってもいいな~と歌ってて思いましたよ。

ーーじゃあ、オリジナル曲でもダンスビートとかがもっと増えるかもしれないですね。

絢香:「なんでもやってみる」ですね。ダメだったらやめればいいだけ。最近は何事に対してもそう思えている自分がいます。新しいものはどんどん取りいれていきたいですね。

ーーそして、最後が、前作ではサザンオールスターズの「真夏の果実」をカバーしましたが、今回は桑田佳祐さんのソロ曲「明日晴れるかな」になってます。

絢香:染みますね……名曲です。そこに尽きます。何で桑田さんの描く曲は、こんなに胸にジーンとくるんだろう。この曲はあまり目立った新しい要素を入れるのではなく、あえてシンプルに、この曲の歌詞の世界観とメロディの美しさをそのまま表現したいなと思って。この曲は絶対最後に入れたいと考えていました。選曲や曲順を考えていた時は今の状況なんて想像もしていなかったけど、この状況で聴くと、またさらに胸にくるものがあるなって思いました。

ーーどんなメッセージが込められてると言えばいいですか。

絢香:会いたい人に会う、行きたい場所に行く。それが当たり前のことだと思っていたけど、その1つ1つがどれだけ幸せなことだったか。それを今みんなそれぞれに感じてるわけじゃないですか。私自身、こんなに明日っていうものへの希望や願いをここまで強く思うことってなかったんじゃないかなって感じていて。だから、〈明日晴れるかな〉という一言が、今、みんなの希望に繋がるんじゃないかなって。改めて今、この曲を選曲して、歌うことができてよかったなって思います。

■状況が変わったことで自分自身の考えも柔軟になった

絢香&三浦大知 / 「ねがいぼし」 Instrumental(Rough mix)
ーーまさに最後の〈明日晴れるかな/遥か空の下〉が胸に染みました。全10曲揃って、ご自身ではどんな感想を抱きましたか。リスナーにメッセージをいただけますか。

絢香:きっと今、ほとんどの人が家で過ごす毎日だと思うんですけど、私自身も家で過ごしている中で、音楽に救われたり癒されることが多くって。だから、この1枚が、皆さんのおうち時間にそっと寄り添えるような存在になったらいいなって。私自身は、今回のアルバム制作、もうとにかく楽しかった! そして今回も学びが沢山ありました。

ーー今作の制作を経て、どんな学びがありましたか。

絢香:いろんな時代の曲が収録されてますけど、どの曲も「いいものはいい」っていう一言に尽きるんですよね。「いいものはいい」ってシンプルだけど、一番難しいところであって。作り手側としては、聴く人にそう思ってもらえるような曲を作りたいって改めて思いました。あとは、細かいところでいうと、この譜割りにこの言葉を乗せるんだとか。こういう構成で作っていくんだとか。1曲1曲に学びがあって。キー設定1つとっても、曲の表情が全然違ってくるのでオリジナル以上に慎重に決めました。そういう作業の中でまた新たな発見があって。キー、声色、声の圧や長さ。自分の声をもっともっと表現できる曲を描きたいなって思ったし、曲の展開やアレンジの方向性、コーラスの使いかた。オリジナルで試したいなっていうものがいくつか見えたことも収穫でしたね。

ーーまだ先は不透明な状態ではありますが、最後に本作を経た今後の目標を聞かせてください。

絢香:今回の取材がオンラインでおこなわれたり、SNSでも今までにやってこなかったような形で音楽を発信していたり、状況が変わったことで自分自身の考えも柔軟になったという感じがしています。いつまでこの状況が続くのかはわからないけど、今の状況でもみんなに楽しんでもらえることをどんどんやっていきたいと思っています。そして変わらず曲は書き続ける。いつかまた安心して集まれる日がきたら、ライブ会場でみんなに会いたいです。(永堀アツオ)

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