Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

中村倫也、再放送ラッシュで見えた“自由自在さ” 『水曜日が消えた』では1人7役を演じ分ける

リアルサウンド

20/6/26(金) 8:00

 変幻自在にどんな役も演じ分けられる「カメレオン俳優」の域を超えて、「ミミックオクトパス俳優」「ヒョウモンダコ俳優」を自称する中村倫也。その活躍は自他共に認めるところだが、このコロナ禍で出演作ドラマの再放送ラッシュに見舞われ、改めてその圧倒的な演技力を見せつけられることとなった。

参考:『美人が婚活してみたら』中村倫也と田中圭、正反対の男性像が映し出す「婚活あるある」

 中村にかかれば、役の演じ分けという次元ではなく、全く別人格になれてしまうのだ。「演じる」というよりも、その役柄をすっかりそのまま「纏えてしまう」のが、彼が唯一無二たる所以だろう。それも不思議でならないのが、中村は「色気スイッチ」のオンオフさえも自分で切り替えられるようだ。どうしたって香り立ってしまう、隠しきれないものの代表格が「色気」という正体不明の魅力であると思うのだが、その「色気」さえも出し分けができ、自由自在に放出させたり、瞬時に消してしまえたりできるのだからこちとらお手上げである。

 YouTubeで配信されている「中村さんちの自宅から」の彼が“役を演じていない通常モード”だとすると、やはり基本的に標準装備として湿り気のある色気を宿しているのが中村本人。にも関わらず、映画『美人が婚活してみたら』では恋に奥手で童貞臭の漂う商社マン役を演じてのける。再放送された『スーパーサラリーマン左江内』(日本テレビ系)での警察官の刈野役も、色気の「い」の字もないお調子者キャラだった。

 かと思いきや、彼らとは対極の存在を『凪のお暇』(TBS系)のゴン役で見せてくれる。ヒッピー風のどこか掴めない存在で、関わる女性全てを狂わせてしまう“メンヘラ製造機”。作中では、そんなゴンの中で本気の恋愛感情が芽生え、自分自身に対峙していく過程も演じられていた。

 そして、同じくどうしたって滲み出てしまい隠し切れないものに「知性」というものも挙げられると思うが、中村の手にかかればこれもコントロール自在だ。THEインテリキャラ役だったのは『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)での公認会計士でモラハラ夫の井筒渡役。あの見るからに神経質で繊細そうな雰囲気、常にひりついた空気感までも元々の性質かのように醸し出せるのだからお見事である。

 同じくインテリはインテリでも、元ヤンの高校教師を演じたのは『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)での山下一真役。荒削りで、ワイルド、モラハラ夫とは違う意味でのドSっぷりを発揮した。

 また放送が再開された主演ドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)でも老舗百貨店の御曹司ながら探偵事務所を営む変わり者かつ切れ者を演じている。これまた独自の審美眼、美的感覚を持ち合わせたマイワールド内で生きる浮世離れした存在である。

 これだけ幅広い、というよりも正反対の存在を体現出来てしまえる彼は、役ごとに「顔も変わる」。前髪の有無や髪型、服装などの影響はあるにせよ、そんなことよりもパーツの配置具合まで違って見えるから本当に不思議だ。中央に集中的にグッと寄ったパーツ配置の時もあれば、全体的にほんわかしてパーツごとの主張が薄まる時もある。

 インタビューによると、配役が決まった際に「その役の生い立ちと自分の共通点を考える」「役と向き合い自分とリンクする部分を探す中で、自分の経験とか記憶の中に入っていく」「その役になりきって街を歩いてみる」などと語っている(引用:“本当の自分”は僕にもわからない。中村倫也、自分探しの旅路を行く|livedoor NEWS)。なるほど、憑依型ともまた違う、固定できない流動的なイメージ、何より「これが全部じゃないよ、ほんの一部だよ」と言わんばかりの底知れなさ、奥深さ、掴めなさは、こうして役を通して自分自身の中に深く入っていくことで作られているのだ。

 だから、役と彼自身の境界線が曖昧で、だからだから常に彼にはまだまだ“余白”があるんだ。そして、これだけ有名になった今なお彼自身が役を邪魔してしまうことが決してない。その余白に我々は常に魅せられている。そんな中でも、役の中で我々に一気に近づいてきてくれるような場面がある。決して全ては見せてくれない男が、“自分にだけ”見せてくれる手の内に女は滅法弱いものだ。そして、またその至幸の瞬間を覗きたくて離れられなくなる。もはやこうなると綻びまで美しく愛おしく感じられてしまうから恐ろしい。これが、女性が男性に抱いてしまう母性本能を伴った「可愛い」の正体だろう。

 「色気」と「知性」は「声色」と切っても切り離せない関係にあると思うが、中村は役柄によって声の硬さも変わる。オーディションを勝ち抜いて掴んだディズニー映画『アラジン』のアラジン役でいかんなく発揮された伸びやかな歌声も記憶に新しいが、硬水にも軟水にもなれるそのウィスパーボイス、そして声質。サラサラ流れていくせせらぎのようで後味なく、しつこさもなくただただ心地よさだけが残る。

 何度でも役を脱ぎ捨てられるのは、脱いでも脱いでもなくならない確たる芯があるからだろうし、だからと言ってその確たる芯にばかり固執せずにそれぞれの作品内で役として生き切っているからでもあるのだろう。

 そんな中村が1人7役という偉業を成し遂げてしまう現在公開中の映画『水曜日が消えた』。ミュージックビデオでしか観たことのないような設定を、ストーリーありきでやってのけてしまうのだ。かつ、この7人ともが既出のMVとは違って、非日常な特徴的なキャラクターではなく、どの人物も一般的な設定であり演じ分けが非常に困難だからこそ余計に衝撃なのだ。自粛明け、初めて映画館で観る1本目に全力でオススメしたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む