峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
ある怪談DVDをめぐり、怪奇現象が続く話・その①
毎週連載
第152回
今年の夏は舞台『物語なき、この世界。』に集中していたんだけど、一方でとんでもない話があって。嘘みたいな本当の話なんだけど、この連載で話しちゃって良いのかなってくらいだよ、マジで(笑)。「そんなこと、起きるの?」っていうくらいとんでもないことが実際に起こったの。
僕は昔から怪談とか怖い話が好きだったけど、まさかその当事者、近しい存在になるとは思わなかった。これ、本当にすごいから何週かに分けて話していきたいと思います。
これから話をする前に、主な登場人物と登場する物は下記の通りです。
・芦沢洋介(マネージャー)
・Yくん
・Sくん
・Wくん
・僕
・怪談の名作DVD
『物語なき、この世界。』の稽古は6月から始まったんだけど、毎日マネージャーの洋介が僕の家までクルマで迎えに来て、稽古場まで送ってくれていたわけ。車中では毎日どうたらこうたら、ああでもないこうでもない「ツイッターで誰が炎上した」「(もうひとりのマネージャーの)江口くんが最近どうだ」とか、もちろん仕事の話もしてるけど、だいたいは本当に他愛のない話ばっかりなんだ。
そんな洋介との会話の中でさ、ある名作の怪談DVDの話になったんだ。あえて、そのタイトルは伏せるけど、僕や銀杏の元メンバーがすごい好きだったやつ。それを洋介に言うと、「僕知りません、その怪談」っていうわけさ。
「バカじゃないの、お前。こんな名作を知らないなんて」「『意識低い系の俺がむしろいいんだ』みたいな、そういう態度やめとけ」っつって(笑)。「とにかく、その怪談DVDを観ろ! マジで怖いから!」っつって洋介に宿題を出しておいたの。
洋介はすぐにTSUTAYAで検索をかけたらしいんだけど、その怪談DVDがどこにもないんだって。「ないわけないよ、あんな名作。確かに20年以上前の作品だけど、絶対にDVDであるはずだわ」って言ったんだけど、見つからない。「あれ? おかしいぞ。なんであれだけ話題になって、俺らの周りでも超盛り上がった作品がTSUTAYAにないんだろう」と思って、その場では不思議に思った。
でもさ、ないならないでしょうがないじゃん。それでヤフオクで探して見つけたんだけど、7千円もするわけさ、その怪談DVD。DVDでこんな値段になってるのって、廃盤だったり、おそらくすごいファンがいるからだと思うけど、しょうがないからさ、「俺お金出すから、あのDVDを落としておけ。そして観ろ!」と洋介に買ってあげたんだ。
洋介は僕の指令通り、ヤフオクでDVDを落として、その内容を観たらしい。見た翌日、洋介は「峯田さん、あのDVDヤバいっす。マジで怖いっす」とか言ってたんだけど、さらに妙なことを言うわけ。「あのDVD、夜中にひとりで観たんですけど、観終わった後に『寝よう』と思って布団に入ったら久しぶりに金縛りに遭いました」って言うんだ。
「それってさ、怖いDVDを観た直後だから、気持ちが引っ張られて、ある種の自己暗示的に金縛りになっちゃったんじゃないの?」って言ったんだけど、洋介は「確かにそうかもしれないっす。でも、ちょっと気になることもあって……」って言うわけ。
洋介が住んでいるのはマンションの2階なんだけどさ、初夏で蒸し暑かったらしく、窓をちょっと開けて寝ていたらしいの。東京の夜中って、ちょっとしたノイズが聞こえるでしょう。遠くに走るクルマの音とかね。でも、その瞬間はヤケに静かになったんだって。「なんだこれ」と思っていたら、しばらくして遠くのほうから何か声が聞こえるんだって。
そこで洋介はよく耳を澄まして聞いてみたらしい。すると、遠くのほうで、昔の子供が歌っていたような数え歌「せっせせーの、よいよいよい♪」を女の人が歌ってるんだって。「なんだよ、こんな夜中に」と思っていたら、しばらくまた時差があって、今度はもっと近い距離で同じ女の人が「せっせせーの、よいよいよい♪」って歌ってる。
その後、いつの間にか洋介は眠り込んだらしいけど、とにかくそのDVDを観た晩は金縛りに加えて、こんな不思議なことが起きたらしいの。当初は洋介も「まぁ気のせいかな」「酔っぱらった女の人が夜中に歌ってたのかな」と思ってたみたいだけど、翌日以降も、さらにとんでもない事態が起こり続けることになったんです。(次週に続く)
構成・文:松田義人(deco)
プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。