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女子高生の「日常系」がアニメに続きドラマでも流行? 『ゆるキャン△』『女子無駄』から考察

リアルサウンド

20/2/6(木) 6:00

 1月クールの深夜枠で、岡田結実主演の『女子高生の無駄づかい』(テレビ朝日系、以下『女子無駄』)と福原遥主演の『ゆるキャン△』(テレビ東京ほか)という2本の漫画原作&人気アニメ作品がドラマ化されている。

【写真】猫の着ぐるみで「バカ」役を演じる岡田結実

 前者はビーノ原作で、個性的なJK(女子高生)たちがただただ無駄に日常を浪費するだけの青春を送る学園コメディ。また、後者はあfろ原作で、一人キャンプを愛する女子高生・志摩リンと、キャンプ初心者の各務原なでしこの出会いから始まるアウトドアコメディである。

 この2本に共通しているのは、女子高生たちの日常をゆるく描いた、いわゆる“日常系”作品ということ。“日常系”は、「特に大きな出来事は何も起こらない不変の日常を描いたもの」で、その中でも主に「ほぼ女の子しか出てこないほのぼの世界」は、『らき☆すた』『のんのんびより』『けいおん!』『ひだまりスケッチ』『きんいろモザイク』『日常』『あそびあそばせ』『亜人ちゃんは語りたい』『ご注文はうさぎですか?』『ゆゆ式』『ゆるゆり』『亜人ちゃんは語りたい』『私に天使が舞い降りた!』など、星の数ほどの作品がある、一大ジャンルになっている。

 しかし、こうした「日常系」のドラマというと、時代を大きく遡れば、三谷幸喜の『やっぱり猫が好き』(フジテレビ系)や、木皿泉の『すいか』(日本テレビ系)、『富士ファミリー』(NHK総合)、『Q10』(日本テレビ系)、岡田惠和の『ひよっこ』(NHK総合)、『セミオトコ』(テレビ朝日系)など、特定の作り手が担ってきた印象がある。

 また、何も起こらないでウダウダ喋る男子ばかりの世界では『THE3名様』や『アフロ田中』(WOWOW)、『セトウツミ』(テレビ東京系)などがあるが、意外にも女子ばかりの日常系というと、近年はYouTubeの『放課後ソーダ日和』がすぐに思い浮かぶくらい。アニメの世界での「女子の日常系」人気を思うと、むしろなぜドラマがこのジャンルをあまり手掛けてこなかったのかが不思議なくらいである。

■『ゆるキャン△』と『女子高生の無駄づかい』の実写化のツボ

 さて、冒頭の2作はいずれも原作&アニメが非常に人気の高い作品だが、見比べてみると、原作&アニメの世界をトレースしたかのように忠実に描いているのは、『ゆるキャン△』だ。

 なにしろ原作者のあfろ自身がアウトドア好きで、作中に登場するキャンプ場や観光地は、実在するものも多数あるだけに、ロケ地などは原作&アニメそのまま。構図もかなり忠実で、おまけにメインキャストの髪型や服装などのビジュアル面や、一部キャラの声なども含めて再現度が非常に高く、原作ファンからも絶賛の声が多数挙がっている。しかも、実写では景色&キャンプ飯が、さらに臨場感あるものになるというオマケつきだ。

 一方、『女子無駄』のほうは、「バカ」役の岡田をはじめ、基本的に「残念な女子たち」を演じるキャストが美人ばかりであることに違和感を訴える声もあるものの、コメディとしての出来はかなり良い。というか、原作&アニメファンが「実写化は認めるまい」と身構えて見ても、思わずうっかり噴き出してしまうシーンが必ずある気がする。

 岡田演じる「バカ」は、原作&アニメでは異常な「モテたい」願望1点を除くと、言動はほとんど『浦安鉄筋家族』や『団地ともお』の世界にも出てきかねない「おバカ小学生男子」なのだが、岡田ががに股で無防備に立って強い目ヂカラを放って熱演している様は、むしろ原作&アニメよりも「残念」に見えて、「女子高生の無駄づかい」としては正しい。

 しかも、バカが様々なイケメンとの出会いの妄想をする数々のシーンも、短いカットなのに、いちいち着替えてメイクして、その都度「イケメン」役俳優を取り換えてロケをして、「ヘアメイク&衣装&イケメン役者&時間の無駄遣い」が甚だしい(誉め言葉である)。

 ただし、どちらの作品も、漫画やアニメならではの淡々とした独特の「間」が醸し出す面白さは、実写で表現するには難しいと感じる点がある。だからこそ、『女子無駄』のほうはコメディ要素全開であるだけに、その空気をそのまま再現しようとするのではなく、実写として翻訳した笑いにしているのは、英断ではないだろうか。

■アニメ/ドラマの「日常系」流行の理由

 ところで、アニメの「日常系」のハシリは『あずまんが大王』と言われるが、なぜ近年こんなにも流行っているかについては、『攻殻機動隊S.A.C』『東のエデン』シリーズなどの神山健司監督が「シネマトゥデイ」のインタビュー(2017年)でこう語っている。

「(観客は)自分たちからあまり距離があるような作品を観たくないんじゃないのかなと思う」
「アニメーションの視聴者層が広がって、若い世代で、以前はアニメーションを見なかった人たちも普通に見るようになってきた。震災以降、世代交代というかアニメーションを観ている人を含め、日本全体の経済の中心にいる世代が動いたような気がした」
「自分もそうだが、今はあまり重い作品、深刻なストーリーを観たくないという感覚がある」

 一方、深夜ドラマは、ゴールデン&プライム枠に比べて視聴率にあまり縛られないことから、クリエイターたちがそれぞれの個性を存分に発揮し、実験的な作品や遊び心ある作品を多数手掛けてきた。と同時に、視聴者たちに求められるのは、『孤独のグルメ』(テレビ東京系)や『深夜食堂』(TBS系)をはじめとした「飯テロ」系や、『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)のような低予算を最大限に生かしたパロディ満載の脱力系、『おっさんずラブ』シリーズ(テレビ朝日系)や『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)などの可愛い“おっさん”たちを愛でる作品など。

 それぞれジャンルは異なるものの、根本の部分で共通しているのは、「寝る前の時間に、重苦しい気持ちになる作品ではなく、頭をからっぽにして笑える、癒される、『美味しそう・キレイ・可愛い』など、五感が刺激される作品に触れたい」という思いだろう。

 実はこうした理由こそ、アニメの「日常系」が流行してきた理由と同じである。そして、ドラマの世界がこれまで潜在的にあった需要=日常系に気づいたことが、今回の『女子無駄』『ゆるキャン△』の放送につながったのではないだろうか。

 思えば昨年、大いに話題になったドラマ『俺の話は長い』(日本テレビ系)も、古典的なホームドラマの香りを漂わせつつ、アニメ的スピード感を持つ「日常系」だった。そう思うと、漫画原作の実写ドラマばかりになった今、深夜ドラマにアニメの一大ジャンル「女子の日常系」が取り入れられるのはむしろ遅いくらいで、今後ドラマにおいてもますます増えていくのではないだろうか。

(田幸和歌子)

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