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Mrs. GREEN APPLE『Attitude』レビュー 巧みなアレンジがつくりだすバンドの“華”

リアルサウンド

19/10/13(日) 8:00

 Mrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)が10月2日にニューアルバム『Attitude』をリリースした。フルアルバムとしては4作目であり、2015年のメジャーデビュー以来高まり続けてきた人気を決定づける作品として、期待のかかった作品だ。

(関連:Mrs. GREEN APPLEと[Alexandros]の“共通点”とは? 親交あるメンバー3名による特別対談

 リリース初週、Billboard JAPANの総合チャートでは見事に1位を獲得。オリコンのデータによれば推定売上枚数は26,536枚、これはバンドのキャリアを通じて最高の成績だ。フルアルバムを並べてみると、1作目『TWELVE』(2016年1月)が初週で1万枚弱。2作目『Mrs. GREEN APPLE』(2017年1月)は約1万2千枚。3作目『Ensemble』(2018年4月)は約1万5千枚(以上はすべてオリコンのデータに基づく)。アルバムリリースごとに地道に伸ばしてきた売り上げが、ここにきて1万2千枚も飛躍したのだから、この一年半でどれだけファンを増やしたかが如実にわかる。

 まさにブレイクスルーのまっただなかと言ってよいOfficial髭男dismに続いて、より広いリスナーにリーチするバンドになってゆくことは間違いないだろう。

 Official髭男dismがどちらかというとR&Bやソウル、ジャズのフレイバーを巧みに散りばめたソングライティングを得意とするのに対して、ミセスは疾走感あふれるギターロックを主軸に据えてきた。とはいえ『ENSEMBLE』で見せたジャンルを自在に行き来するアレンジの手広さには目をみはるものがある。

 本作『Attitude』も、バンドサウンドを軸にしながら多彩なサウンドをつぎつぎと繰り出してリスナーを惹きつける。5人のアンサンブルだけではなく、打ち込みのビートやストリングスを駆使したスケール感の大きさが心地よい。音数を増やせば増やすほどかえってチープに感じられることも多い昨今、本作のサウンドはやや過剰にすぎると思われるかもしれない。しかし、ぎゅうぎゅうにアイデアがつめこまれたアレンジがまさにバンドの「華」をつくりだしていることは間違いない。

 特に注目したいのは、ボーカル・バックトラック問わずいたるところに施されたエディットだ。ギターのカッティングからざっくりと余韻を切り落としたり、スタッター(「ツツツツ…」「ダダダダ…」といったごく細かい反復)的なややノイズっぽいエディットを要所要所に挟み込んだり、あるいは楽曲全体を一時停止するかのように無音を挿入したり。本作で言えば(言おうと思えばだいたいの曲がそうではあるのだが)「インフェルノ」や「ロマンチシズム」のイントロ、「How-to」では全編に渡って堪能できる。これは単純にテクニカルな細かい話というわけではなくて、ミセスに関して言えば疾走感とケレン味があふれる急展開を演出するには不可欠な要素になっている。

 こうしたエディット感覚は、ミセス、というかメインソングライターの大森元貴にとって、メロディセンスや楽曲の構成力と並んで、大きな作家性のひとつなのではないだろうか。実際、過去のディスコグラフィをたどってみても、初期からこうしたエディットを楽曲の節々に用いてきている。『TWELVE』収録曲で言えば「藍(あお)」のイントロで小節ごとにフィルインがわりに挿入される無音や、「SimPle」で人工的に余韻が切り取られたキメのフレーズなどを例としてもよいだろう。『Mrs. GREEN APPLE』、『ENSEMBLE』……とつづけて聴き返していくと、リリースごとにサウンドの厚みも語彙の豊富さも増していくなか、変わらぬ「クセ」のようにあり続けているのがわかる。

 大森はもともと中学生のころからGarageBandを入り口に多重録音に親しみ、ミセスとしての活動においても、デモをDAWを駆使してアレンジ段階までつくりこんできた(ちなみに本作ではバンドが顔を合わせてアレンジした楽曲もあるというので、だんだんとこの作り方も変化しているはず)。というとどうしても打ち込みのビートとか、EDM的なサウンドや構成を指して「DTM的な感性が~」と言いたくなってしまうが、むしろこうした宅録経験が如実に現れているのは、エレクトロニックなサウンドの扱いよりは、録音した素材に施されるこうしたポストプロダクションの手際にあるように思う。

 と、ここまでちょっとした細部に着目しながら本作につながるミセス(あるいは大森)のサウンドが持つキャラクターについて書いてきたが、もちろんほかにも聴きどころのあるアルバムだ。持ち前のポップセンスが炸裂する楽曲のみならず、たとえば「ProPose」の2分過ぎあたりから登場する、スリリングなリズムのかけあいやディレイも駆使したリフの絡み合いには、ポストロックやコンテンポラリージャズにつながるような緊張感あふれるアンサンブルを感じ取ってしまう。渾身の一作であり、また次なる作品へつながるだろうバンドとしてのポテンシャルを改めて感じる一作でもある。(imdkm)

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