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ゴールデンボンバー、V系の“様式美”詰め込んだ「暴れ曲」が示すもの シーンの動向から考察

リアルサウンド

18/9/26(水) 8:00

 9月13日に配信された、ゴールデンボンバーの新曲「暴れ曲」が話題を呼んでいる。

 「暴れ曲」は7月に埼玉・さいたまスーパーアリーナにて開催された『キラーチューンしかやらねえよ』のアンコールにて初披露。MCにてこの曲が生まれた経緯を鬼龍院翔は「ファンレターで、『ヴィジュアル系らしい“暴れ曲”は作らないんですか?』という意見をもらった」と説明していた。さて、熱心なヴィジュアル系ファン以外の読者はこう思うだろう「“暴れ曲”って何?」と。

 ざっくり説明すると、名前の通り“暴れるための曲”で、ヘッドバンギング(ヘドバン)や、身体を上下に揺らす“折りたたみ”(だいたいブレイクダウンする時に行われる)、ヘドバンと拳を上げる動作を同時に行う“拳ヘドバン”などを存分にできるような構成の曲を指す。バンド側がそれを望んでいるかどうかは不明だが、目まぐるしい展開の多い楽曲を、いわば“音ゲー”のように楽しんでいるファンも少なくはない。

 2014年に上梓された、南田勝也の『オルタナティブロックの社会学』(花伝社)では、オルタナティブ以降のロックは、サウンドの変化、大規模フェスの一般化、PA環境の変化etc……様々な要因で「表現の美」から、「スポーツの美」へ形を変えていると指摘している。フロアの作法が身体性をともなった「スポーツ」と化しているのは、ヴィジュアル系シーンも例外ではないということだ。

 また、鬼龍院は先述のライブMCにて、「『†ザ・V系っぽい曲†』の現代版を作った」とも発言していた。「†ザ・V系っぽい曲†」は、世間のイメージするヴィジュアル系っぽいサウンドにのせて、〈別格のバンドが地元へ来てくれるけど試験とかぶってるorz〉と“バンギャルあるある”を歌い上げ、謎の語り、急に差し込まれるガラスの割れる音など、“ヴィジュアル系あるある”も盛り込んでおり、その芸の細かさからファンから大受けし、2009年発表の曲ながら現在のライブでも定番になっている。

 「暴れ曲」も畳み掛けるようなイントロ、Aメロのデスボイス、サビ前に差し込まれるコーラス、急にキャッチーになるサビ……と、近年のヴィジュアル系“暴れ曲”の様式美が詰め込まれている。ちなみに鬼龍院自身はブログにて、この曲の制作前にアルルカン、キズ、lynch.のライブを観に行ったと述べていた(参考:翔さん、燃え尽きてる場合じゃないのよ/「キリショー☆ブログ」)。

 lynch.はゼロ年代後半から、ラウドなサウンドで多くのフォロワーを生み出してきたバンドだ(参考記事:lynch.が再び”完全体”となるーー幕張メッセ公演前に、逆境乗り越えてきた13年の軌跡を振り返る)。余談だが樽美酒研二(Doramu)もかねてからlynch.の大ファンであると公言している。アルルカンもlynch.的な激しさとキャッチーなメロディを両立させ、一時期は“ワンマンのチケットが取れないバンド”と称されたほど(参考記事:アルルカン、NOCTURNAL BLOODLUST、DOG in ThePWO…V系シーンに挑む次世代バンドたち
)。そして昨年結成され、約1年余りでZeppTokyo公演を成功させたキズ(参考記事:Far East Dizain、JILUKA、DEVILOOF……独自の進化遂げるV系シーン新進気鋭のバンドたち)。

アルルカン 「墓穴」 MV FULL
キズ 3rd SINGLE「傷痕」MV FULL
I BELIEVE IN ME / lynch.

 どのバンドも現代のヴィジュアル系シーンを語るのに欠かせない存在で、鬼龍院の目利き能力が発揮されたといえる。

 また、配信リリースと同時にYouTubeにも動画「【バンギャが】暴れ曲/ゴールデンボンバー【暴れてみた】」がアップロードされた。ちなみに先述の鬼龍院のブログでも言及されていたが、「【バンギャが】【暴れてみた】」というタイトルで、the GazettEやDEZERTなど、2010年代の“暴れ曲”を披露している人気動画シリーズがある。このゴールデンボンバーの動画は、構図、ファッションの系統から、使用しているカラオケチェーン店(おそらくはコート・ダジュールの「ステージルーム」)まで限りなく寄せてきているのも芸が細かい。尋常じゃない動きで暴れまくるゴールデンボンバーのメンバーが面白すぎることもあって(樽美酒研二に限っては、もはや下着が見えている)、公開されて間もなくYouTubeの注目動画にもランクインしていた。金爆の“ギミック”は今回も成功したのではないだろうか。

【バンギャが】暴れ曲/ゴールデンボンバー【暴れてみた】

 さて、“様式美”といえば聞こえがいいが、“暴れ曲”というフォーマットはパロディの対象になるほどに“あるある”化しているともいえる。上記のバンドらは、いうまでもなく“激しい”、“暴れられる”だけのバンドではないが、彼らのエピゴーネンがシーンに跋扈(ばっこ)しており、それがある種の形骸化を招いている事実は否定できない。

 ここで、DEZERTのボーカル・千秋が本サイトでの新作リリースインタビューで、このような発言をしていたことを紹介したい。

(DEZERT 千秋 リアルサウンドインタビュー引用)
「ライブをやってみてみんなが俺の歌を、何を歌っているのかをちゃんと聴こうとしてくれてる感じがあって。(中略)ヘッドバンギングが全員揃ってるとか、暴れっぷりがすごいとか、そういう物差しでしか見れないヤツとは話をしたくないんですよ」

 彼らは、2010年代の(本人たちがどう思っているかはさておき)“暴れる”ヴィジュアル系バンドの代表格といえる存在だ。たしかに最新アルバム『TODAY』のサウンドは、言ってしまえば、筆者も含み周囲がこれまでの彼らの武器と考えていた、ヴィジュアル系的な“暴れ”要素を潔く取っ払った仕上がりになっている。まるで「スポーツ化」を拒むかのように。勿論DEZERTがシーンの動向をどうこう(あっ!)するタイプのバンドではないのは承知の上だが(ただ、無軌道で何も考えていない素振りをしておいて聡明なバンドであることは間違いない)、稀代の“暴れ”バンドが、完全なるパロディである「暴れ曲」とほぼ同時期に、このような方向に進んだのは、興味深いと考える。

2018.08.08発売「TODAY」全曲試聴

 気がつけば2010年代も残り1年あまり。いつかこの時代を振り返った時に、今述べたような事象がシーンにとって何かのターニングポイントと呼べるものになるような予感がするのだ。

■藤谷千明
ライター。ブロガーあがりのバンギャル崩れ。8月6日に市川哲史氏との共著「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)を上梓。Twitter

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