押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
『卒業』みたいな“コーチ映画”っていいよね
月2回連載
第1回
Q.
随分昔に観た映画なんですが、ティーンエイジャーの男女が恋に落ち、人里離れた所でふたりだけで暮らし、子供を出産し、ふたりで育てるという内容で、風景がとてもきれいだったんです。この映画のタイトル、分かったら教えてください!
─── この連載では映画にまつわるさまざまな疑問について、押井さんにお答えいただくわけですが、連載第1回目は、押井さんの著書『映画の神は細部に宿る』を読んでくださったファンの方からの質問です。
この手の映画は、それこそゴマンとあるよね。松山善三の『名もなく貧しく美しく』だって聾唖の夫婦がひっそりと暮らしている。でも、まあ「風景がとてもきれい」とあるからまず違うだろうし……そうだな……『フレンズ』じゃないの? ティーンエイジャーが駆け落ちしてふたりで暮らし子供をもうけていたから。
─── 71年の英国映画『フレンズ~ポールとミシェル~』ですね。アニセー・アルビナが出ていて、この後人気者になった。監督はルイス・ギルバード。『007は二度死ぬ』の監督です。「風景はきれい」なのはフランスのアルル地方を舞台にしているからでしょうね。なんと音楽はエルトン・ジョン。結構豪華ですね。
僕も相当昔、観たから詳細はまるで覚えてないけど、当時はなぜかこういう映画が多かった。ティーンが恋して結婚し、子供を生むという展開。『青い珊瑚礁』(80)だって似たようなものだし、一歩間違えば『耳をすませば』(95)だってそうなっていた危険性がある(笑)。中学生なのに「結婚しよう!」だもん。
─── 当時の日本で大ヒットした『小さな恋のメロディ』(71)も小学生の子供が「結婚しよう!」でしたから。
僕は当時から、そういう映画には懐疑的だった。ディズニーアニメの『白雪姫』や『シンデレラ』みたいに、「ふたりは結婚して幸せに暮らしました。めでたしめでたし」で十分じゃん。なぜ、子供まで生まれた話にするのかってこと。
─── ニューシネマに突入したからじゃないですか? セックスの表現に対し寛容になったから、ティーンをそういう状況においてもいいだろうと考えた、とか?
そうなの? 僕は「めでたしめでたし」でいい。子育てして、さらに幸せになったというのは蛇足ですよ。そもそも“結婚して子供ができて幸せ”という価値観が分からない。ほら、ニューシネマの話になったからというわけでもないけど、マイク・ニコルズの『卒業』(67)。ダスティン・ホフマンがキャサリン・ロスを結婚式から奪略し、ふたりしてバスに飛び乗る。あのラスト、どう解釈した?
─── ハッピーエンドとは思いませんでした。ふたりとも「やらかしちゃった。これからどうしよう」という呆けたような表情をしていましたからね。そういう点でもニューシネマなのでは?
僕もそう思った。でも、それは少数派だよ。多くの人がハッピーエンドだと解釈しているんじゃない? とりわけ、若い頃に観るとそう見える。ドアに十字架で閂をかけ、ふたり手に手を取って教会から走り去る。そのときのふたりの顔は確かに輝いているが、ニコルスはその後、バスに飛び乗って、疲れたような表情のふたりを付け加えている。なぜなら、未来を考え困惑している様子を伝えたかったから。
僕はこのラストが気に入っていて、『うる星やつら オンリー・ユー』(83)でパロディにしている。あたるがラムと駆け落ちするんだけど、その後には絶えずケンカをし続ける現実が待っているわけだ。
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