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中村倫也の明智だからこそ成立した『屍人荘の殺人』 神木隆之介×浜辺美波と“存在感”の殴り合い

リアルサウンド

19/12/23(月) 8:00

 世間からの信頼が厚い神木隆之介。「世界で最も美しい顔100人」にもノミネートされた新鋭・浜辺美波。そして、飛ぶ鳥を落とす勢いでファンを増やし続ける中村倫也。映画『屍人荘の殺人』の予告映像は、この3人によるコミカルなアンサンブルが実に印象的である。

参考:生まれながらにしての俳優・神木隆之介 『フォルトゥナの瞳』で見せる、大人の表情

 今村昌弘による原作『屍人荘の殺人』は、国内主要ミステリー賞を総なめにした異例の一作。

 神紅大学ミステリー愛好会のメンバーである葉村譲と明智恭介は、女子大生探偵・剣崎比留子の誘いを受け、映画研究会の夏合宿に参加する。謎の脅迫状が届いたいわくつきの合宿が幕を開けるが、突如として「想像を絶する異常事態」が彼らを急襲。ペンションでの籠城を余儀なくされる。そして、追い打ちをかけるように連続殺人まで発生。一変した世界の中で、彼らが直面する真相とは……。

 映画版では映画研究会がロックフェス研究会に置き換えられているが、物語の大筋は原作の通りである。万年助手のワトソン・葉村譲を神木隆之介が、自称ホームズの変わり者・明智恭介を中村倫也が、それぞれ演じている。彼らのバディ(相棒)としての空気感、軽妙な掛け合いは絶妙で、これだけでドラマをワンクールやって欲しいと願うほど。そしてここに、あくが強い女子大生探偵・剣崎比留子に扮する浜辺美波が加わるのだから、「良い意味でのカオス」っぷりは留まるところを知らない。予告映像の通り、物語はハイテンションのまま転がり続ける。

 本作には、ある「大仕掛け」が存在する。これにより物語のテンションは一変。前提が覆される極限状態の中で、本格的なミステリーが紡がれていく。あらすじの「想像を絶する異常事態」がこれにあたるが、筆者としては、何も知らない状態での鑑賞を強くお勧めしたい。よって、本稿では「大仕掛け」に該当するネタバレには触れないことにする。奥歯に物の挟まったような形容も飛び出すが、ご了承いただきたい。

 さて、そんな怪作を彩るのは、個性豊かな主要3人の登場人物である。映画版では、原作よりもその魅力がスケールアップ。小説では表現できない生身の人間が演じるからこそのキャラクター造形と、それを生き生きと体現するキャスト陣。映画版『屍人荘の殺人』の見所は、間違いなくここである。

 神木隆之介といえば、映画『桐島、部活やめるってよ』での主演が印象深い。甘いフェイスと、どこか知的な立ち居振る舞い。スッと通る声も印象的で、『サマーウォーズ』や『君の名は。』など、声優業も精力的である。

 本作『屍人荘の殺人』では、ミステリー好きながら推理においてはややポンコツな青年・葉村譲を好演。原作では一人称が「俺」のキャラクターだが、神木隆之介が演じるからか、「僕」にアレンジされている。ここまで「僕」呼びが似合う俳優もそういないだろう。

 独特な距離感を持つ明智に振り回され、剣崎に鼻の下を伸ばすその仕草は、なんとも愛らしい。予告映像でも印象的な剣崎の「やってくれたらキスさせてあげる」からの一連のくだりに象徴されるように、常にせかせかと腰が低い。まるで、葉村譲ではなく神木隆之介本人を観ている錯覚に陥るほど、そこには全く嫌味がないのだ。彼を「愛でる」タイプの作品として、安定感がある。

 そんな神木隆之介を切れ味よく翻弄する、“ゴーイング・ マイ・ ウェイ”な女子大生探偵・剣崎比留子。浜辺美波の、コメディエンヌとしての素養が炸裂したキャラクターである。『君の膵臓をたべたい』への出演が話題になり、その後も『センセイ君主』『映画 賭ケグルイ』などでキャリアを重ねる、今まさにブレイク中の新鋭である。2020年公開予定の『約束のネバーランド』でも、主演が決定している。

 ドラマ『賭ケグルイ』(MBS/TBS系)からの一連のシリーズにおいて、その振り切った演技が強い印象を残した浜辺美波。本作『屍人荘の殺人』では、コミカルな女子大生探偵を熱演している。原作でもやや突飛なキャラクターとして描かれた剣崎比留子だが、映画版ではその何倍も「濃く」アレンジされている。

 人形のように整った顔立ちに、小柄で華奢な容姿。そこに他者を寄せ付けない圧のある態度が加わるため、にわかにアンバランスな魅力が香り始める。腕を振り回し、仰々しく推理を披露し、白目を向いて変顔を決める。劇中の神木隆之介でなくても、ついつい視線を奪われる、そんな注目の的である。

 このように、本作の登場人物たちは、演技・演出ともに強めに誇張されている。ともすれば「記号的」「テレビ的」とも揶揄されそうな、危ういバランス。

 しかしそれらは、前述の「大仕掛け」を成立させるための塩梅なのだ。「想像を絶する異常事態」。それが突如として物語に放り込まれた時、多くの観客は戸惑いを隠せないだろう。そんな時、視聴意欲の指針として機能するのが、強めに誇張された愛すべきキャラクターたちなのだ。世界が変わっても、変わらぬ「濃さ」を放つ。そんな彼らの存在感こそが、「想像を絶する異常事態」の以前と以降に連続性をもたらしていく。

 だからこその、中村倫也である。映画版『屍人荘の殺人』におけるキャラクターの存在感、それを誰よりも武器にしているのが、中村倫也による明智恭介なのだ。

 2005年に映画『七人の弔』でデビューを果たした中村は、大河ドラマ『軍師官兵衛』や舞台『HISTORY BOY』などで活躍。中でも、朝ドラ『半分、青い。』のマァくん役、ドラマ『凪のお暇』(TBS系)安良城ゴン役が大きな話題となった。彼が醸し出す、独特のアンニュイな雰囲気、自然と周囲を弛緩させる中毒性のあるオーラは、唯一無二のものである。

 茶髪に眼鏡の明智恭介というキャラクターは、原作・映画版ともに、『屍人荘の殺人』の象徴的存在である。腐れ縁のように付き従う葉村との、奇妙な友情関係。そこに「尊さ」があるからこそ、物語はよりドラマチックに進行していく。それもあってか、映画版では原作より大幅に出番が増えている。原作よりもはるかに、明智というキャラクターが意義を持って立ち回るのだ。

 なぜ、明智の出番が増えたのか。それはおそらく、演じるのが中村倫也その人だからである。彼自身、非常に手ごたえを感じたであろう明智というキャラクター。傍若無人な変人でありながら、誰よりも真実を探求する艶のある視線。仏頂面で他人に接したかと思えば、葉村を意地悪な笑顔でイジってくる。極めつけはキュートな指パッチン。何をしでかすか予測がつかない中型犬のような魅力は、中村倫也の演技プランならではの代物だ。

 情報を仕入れずに鑑賞した人は、物語中盤の明智に訪れるある転機に驚くことだろう。彼の出演シーンが「思ったより少ない」と嘆く人もいるかもしれない。しかしどうだろう。「中村倫也の活かし方」は、「出演シーンを多くする」ことと、必ずしもイコールではないはずだ。彼が画面に映ることだけが、彼の魅力を伝える方法だろうか。否、中村倫也が持つ特殊な存在感こそが、この『屍人荘の殺人』という物語を成立させているのは明白である。

 「出演していないシーンでも存在感を発揮し続ける」なんて芸当は、そう易々とできるものではない。彼の存在感への信頼あってこそのキャスティングであり、それに、中村倫也自身がこれでもかと応えているのだ。物語がその存在感を道標に進行していくことは、言うまでもない。

 生き生きとしたキャスト陣の奮闘、あるいは熱演が、観客を「想像を絶する異常事態」に導いていく。なぜ連続殺人は起きてしまうのか。犯人の意図はどこにあるのか。神木隆之介の親しみやすさが浜辺美波のコミカルさと融合し、その関係性の背骨として中村倫也がドンと構える。彼らにニヤリとさせられること間違いなしの映画『屍人荘の殺人』、その「存在感」の壮絶な殴り合いは、ぜひ銀幕で見定めていただきたい。(結騎了)

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