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『よこがお』 (C)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

カメラは“女優”を見つめ続ける。深田晃司監督が語る『よこがお』

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19/7/31(水) 7:00

『淵に立つ』『海を駆ける』の深田晃司監督の新作映画『よこがお』が公開されている。本作で深田監督は『淵に立つ』にも出演した筒井真理子を主演に迎え、彼女が主人公を演じることを想定して脚本を執筆した。映画史には魅力と実力を兼ね備えた女優を中心に据えた“女優の劇”と呼びたくなる作品群が存在するが、本作もひとりの女優、その女優が演じる女性の変化を見つめ続ける作品になった。

映画史にはしばしば、そのタイトルと女優が結びつけて語られることがある。深田監督は「女優のために捧げられた映画というのはありますよね。高峰秀子さんの『放浪記』もそうかもしれないですし、田中絹代さんの『西鶴一代女』もそうですけど、女優を撮り続ける映画はいつか自分もつくりたいなとは思っていました」と振り返る。

そんな折、深田監督は『淵に立つ』で筒井真理子と仕事をして「またこの人と仕事がしたい」と思い、本作では脚本が完成する前の段階から出演を打診。彼女が主演を務めることを前提に脚本が執筆された。「少し極端な言い方になりますが、映画にとって必要なのは魅力的な被写体でしかないので、その人がプロかどうかは関係ないですし、人間ではなくて動物でもいいのかもしれない。だから(アッバス・)キアロスタミとかはあえてプロの俳優を使わないで、そこにある新鮮さを重視している。でも、やはり職業俳優にしかできない役もあると思っていて、今回の主人公をここまで描くことができたのは、筒井さんであればここまで描いても演じてくれるだろうと思ったからです。先ほど出た『西鶴一代女』もそうですけど、撮る側と写る側の信頼関係がないと、あそこまで思い切ったことはできないと思うんですよ」

溝口健二監督が田中絹代を主演に迎えた『西鶴一代女』は、御所に務めていた女性が転落していく様を描いた名作だが、『よこがお』も筒井真理子演じる主人公・市子が翻弄され、転落していく物語だ。訪問看護師の市子は献身的な仕事ぶりで周囲の人々から信頼を集めていたが、ある事件が起こったことで彼女が築き上げてきた信頼や生活は崩れていく。やがて、すべてを失った彼女は、自らを“リサ”と名乗って復讐を企てる。

「筒井さんが主演に決まって脚本を考えてく中で、ひとりの女性がどんどん社会的なダメージを負っていく中で変遷していく話をやりたいと思いました。人間は半分は動物で、半分は社会的な生き物ですから、社会的な立場が変われば、そこにある表情も変わってくるはず。それをちゃんと演じるには技術と経験があって、変化を自分の中に取り込める人でないといけない。筒井さんに主演をお願いできることになったので、ここまで振れ幅のある役が描けた。下手な俳優さんなら怖くてなかなか書けないですよね」

本作では主人公・市子が翻弄され、転落していく過程で、事件や、加害者と被害者の関係など様々な要素が描かれるが、本作においてそれらは本質ではない。この映画では常にひとりの女性の“変化”が中心に描かれ、カメラは市子=筒井真理子を執拗なまでに追い続ける。「名作なので名前を出すのもおこがましいですけど、ジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』みたいに(主演の)ジーナ・ローランズが何か物語を進めていくわけではないけど、彼女の中に流れていく時間を追っていくだけで映画が成り立っている。そういうものになればいいなと思っていました」

これまでの深田作品ではひとつの作品の中に、流れ方や速度の違う“複数の時間”が描かれていた。主人公の感じる時間、相手役の捉える時間、そのすべてを飲み込むほどゆっくりと流れる自然や世界の時間……。しかし、『よこがお』では深田作品で初めて“ひとりの時間”だけが描かれる。

「確かにそうですね。これまでの自分の映画は“関係性”の映画だったんです。関係がどう変化していくかの中でお客さんに想像してもらう。だから『ほとりの朔子』なら朔子は空白で、周りにいる人のドラマなんですけど、この映画は“女優の劇”という言葉に集約されるのかもしれないですけど、関係性はすべて市子を中心に動いていく。ひとりの女優を被写体の中心に据えるのは初めてですし、自分の中では新しい挑戦と言えるのかもしれません。ひとりの人間の中に流れる時間は一定ではないですよね。バリバリ働いている時と、その後では時間の流れ方が違う。そういう時間の“伸縮”みたいなものが、すべて市子を基準に描かれているんだと思います」

観客は本作を通して、筒井真理子演じる主人公・市子を見つめ続ける。彼女の立っている場所、関係性、流れる時間は刻一刻と変化していき、その表情も変化していく。しかし、タイトルの『よこがお』がそうであるように、観客はそのすべてを見ることができない。“よこがお”はいつも半分が隠れている。

『よこがお』
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