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岩田剛典、俳優としてさらなる高みへ 『AI崩壊』『空に住む』“ハマり役”得た2020年

リアルサウンド

20/12/26(土) 8:00

 三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEやEXILEのパフォーマーのみならず、俳優としても着実にキャリアを積み上げつつある岩田剛典。近年は映画での活躍が目立っている彼だが、この2020年を経て、これまで以上に自身の路線を掴みつつあるように思う。

 『ハイロー』の愛称で親しまれる『HiGH&LOW』シリーズ(2015年〜)での印象もいまだに強い岩田。しかし、アクションが大きな見せ場である同シリーズだけでなく、ここ数年はさまざまな座組に参加し、“映画俳優”の一面をのぞかせるようになってきた。2018年には、中村文則による小説を原作としたミステリー映画『去年の冬、きみと別れ』で主演を務め、“謎めいた”青年役を好演。いまいち感情を読み取ることのできないこのキャラクターは、観客をミステリーの袋小路に迷い込ませ、岩田のハマり役となったのではないかと思う。それはまさに、「こんながんちゃんが見たかった!」という具合いにである。その後の『Vision』(2018年)では、河瀬直美監督のもと、ジュリエット・ビノシュや永瀬正敏といった国際的に活躍する演技者たちと対峙。岩田もまた“演技者”としての闘いがはじまった感触を、いち観客ながら筆者は得ていた。

 そんな流れがありながらも、アイドル的な一面も残してはいたように思う。少女マンガが原作の『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(2018年)では杉咲花とともに胸が苦しくなる恋模様を展開させ、同じくマンガ原作の『町田くんの世界』(2019年)では、超新人の細田佳央太をはじめ、太賀(現・仲野太賀)、池松壮亮、北村有起哉、佐藤浩市らという最若手からベテランまでの演技者たちと肩を並べた。ここまでに記してきた一連の作品を振り返ってみると、そこには岩田の俳優としての順応性の高さが刻まれているのではないかと思う。

 そうしておとずれた2020年。まず年明けには『AI崩壊』が公開された。同作は、“AI(人工知能)”が社会を管理する世界を描いたもの。医療人工知能が暴走をはじめたことで、その開発者である男(大沢たかお)が追われる身となり、岩田は彼を追うサイバー犯罪対策課のトップの男・桜庭誠を演じた。つねに冷静沈着で、鉄仮面のような面立ちが印象的な桜庭。ここで筆者は、岩田が自身トレードマークでもある笑顔を封じたときにこそ、彼はその真価を発揮するのだと気がついた。とはいえ、“無表情”をこしらえれば良いというものではもちろんない。『去年の冬、きみと別れ』での謎めいた青年役もそうだが、その表情の下にある“何か”を岩田は演じなければならない。いや、演じるというよりも、“滲ませる”という方が正しいだろう。

 そしてそれは、続く『空に住む』でのミステリアスな青年役にも見受けられた。同作は、喪失感を抱えたまま浮遊するように生きるヒロイン(多部未華子)が、仕事や恋愛の間で揺れながら、自己を再発見・獲得していく物語。岩田は、恋愛面でヒロインに揺さぶりをかける人気俳優・時戸森則に扮した。ヒロインは、たまたまタワーマンションで生活することになったことをのぞいては、ごく平凡な女性。そんな彼女の前に現れたのが、“向こう側”の人間だと思っていた人気俳優の時戸なのだ。岩田の発するキザなセリフにキザな仕草。一歩間違えれば“イタイ男”なのだが、これを魅力的な存在に仕上げた。先に述べたような、表情の下にある“何か”を滲ませることによってだ。柔和な笑顔と、他者を刺激する言葉は“ズレ”を生み、それがヒロインにとって魅力として映るのには大いに納得できた。

 岩田はポーカーフェイス的に感情を表に出さず、“滲ませる”、あるいは観客に“感じさせる”才能がずば抜けている。これに特化したキャラクターを『AI崩壊』『空に住む』で演じ、“ハマリ役”の路線を得た。そしてこれがあるからこそ、『新解釈・三國志』で演じたナルシスティックな趙雲役など、彼の表現力の高さを証明する一端にはなっているのだと思う。2021年には、現時点での彼の素晴らしさ(得意どころ)が溢れた主演作『名も無き世界のエンドロール』が公開されるので、これはぜひ期待して欲しい。

※河瀬直美の「瀬」は旧字体が正式表記。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『空に住む』
公開中
出演:多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、高橋洋、大森南朋、永瀬正敏、柄本明
監督・脚本:青山真治
脚本:池田千尋
原作:小竹正人『空に住む』(講談社)
主題歌:三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「空に住む〜Living in your sky〜」(rhythm zone)
プロデューサー:井上鉄大、齋藤寛朗
配給:アスミック・エース
製作:HIGH BROW CINEMA
(c)2020 HIGH BROW CINEMA
公式サイト:soranisumu.jp

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