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重岡大毅が体現する歪んだ感情のリアリティ 『知らなくていいコト』が突きつける様々な人間の顔

リアルサウンド

20/2/26(水) 6:00

「僕はケイさんが、総理大臣の子でも、芸能人の子でも、誰の子でも愛してる」

参考:【場面写真】野中(重岡大毅)とは対称的に視聴者を虜にし続ける尾仲(柄本佑)

 『知らなくていいコト』(日本テレビ系)第1話で、主人公の真壁ケイト(吉高由里子)は、当時交際していた同じ職場の彼氏の野中(重岡大毅)から、こんな言葉をかけられた。しかしその後、野中はケイトへのプロポーズを撤回。ケイトが本当に殺人犯の子であるかもしれないという可能性がある以上、彼は結婚に踏み切ることができなかったのだ。

 本作では、週刊誌記者であるケイトの母親(秋吉久美子)が、「ケイちゃんのお父さんは、キアヌ・リーブス」という言葉を残して亡くなることにより、ケイトが自分自身と両親にまつわる過去に直面していく姿が描かれていく。ケイトはやがて、自分がキアヌの子ではなく、殺人犯としてかつて逮捕された、乃十阿徹(小林薫)の子であることを知り、衝撃を受ける。そしてケイト本人はもちろん、冒頭で述べた野中もまた、ケイトが殺人犯の子であることに衝撃を受けた一人であった。彼は、将来生まれてくる子どものことを考えると、ケイトとの結婚は厳しいと判断したのだ。

 ケイトが記者をしている「週刊イースト」は、誌の理念として「人間へのあくなき興味」を掲げている。編集長の岩谷(佐々木蔵之介)は第5話で、「一面的な顔だけでなく、(中略)人間の切実な生き様を読者に届けようとしているんだ」と語っていたように、たしかに人間は実に様々な「顔」を持っている。いつもは穏やかな笑みを浮かべていても、ときにひどく恐ろしい一面をあらわにする人もいる。人前ではひょうきんな性格でも、実は心に深い傷を負いながら生きている人だっているかもしれない。私たち人間の多面性は、決して簡単に説明できるものではなく、傍から見ると、時に不合理で、時にばかげてさえいる。

 重岡大毅が演じる野中春樹というキャラクターは、人間のこうしたあり方のやや極端な例を体現しているように思える。第1話でのケイトとの別れ際、「秘密は守ります」と誓っていたが、結局前回の第7話では、ケイトの父親が乃十阿であることを、他誌の記者に打ち明けてしまった。本作の序盤では、「愛してる」とまで口にしていた彼が、物語を通じて徐々に暗い一面を垣間見せていく様子に、観ている私たちはちょっとした怖さを覚える。

 野中のケイトに対する、複雑な感情は様々なところで顔をのぞかせてきた。例えば、仕事の面で言えば、ケイトは同僚の中でも、かなり敏腕で周りからの信頼も厚い。作中では、「連載班」に所属する野中も、彼なりに仕事に向き合っているが、仕事への情熱は「特集班」でバリバリ活躍するケイトの姿とは対照的とも言える。第4話で、ケイトたち特集班のスクープ記事によって、連載班での仕事に影響が及び、野中が悔しさから本をゴミ箱に投げつけるシーンがあった。その時の彼の表情は、どうにもならないことに対する鬱屈そのものを示していた。

 同じくケイトの元カレの尾高(柄本佑)はかつて、ケイトの親について知ってから別れた野中に「最低だな」と言い放ったことがあった。今後の放送で新事実が明らかになるかもしれないので断言はできないが、もし本当に乃十阿が殺人犯であったとしても、ケイト自身に法的に何かの罪があるわけではない。子は親を選ぶことができない。だからこそ、その時ショックを一番大きく受けたのはケイト自身であったはずだ。将来の子どもの気持ちを考えること自体を罪だとは言わない。ただそれでも、当時のケイトに対する向き合い方は他にもあったはずであり、尾高に「最低だな」と言われても致し方のないことであろう。

 たしかに、野中は暗さを抱えた人間である。でもそれは彼が持つ数ある「顔」の一つを見ているに過ぎない。プライベートではガールフレンドとご飯を食べ、村上春樹の小説を読み、学生時代には将棋部に所属していたという、ごくごく“一般的な顔”をもつ人間でもある。だからこそ、野中の姿が、本作で描かれる意味があるように思われる。野中春樹という一人の人間が抱える歪んだ感情には、人間のある種のリアリティがある。(國重駿平)

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