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田中泰の「クラシック新発見」

チック・コリアの思い出

隔週連載

第2回

チック・コリアが遺した作品群の一部

2021年2月9日、ジャズ・ピアニスト、チック・コリアが亡くなった(享年79歳)。

彼のステージを最後に体験したのは、2016年5月14日にNHKホールで行われた第1835回NHK交響楽団定期演奏会だった。尾高忠明指揮のもと、日本を代表するジャズピアニスト小曽根真と共演したモーツァルトの『2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調k.365』は、ジャズ・ピアニストならではの遊び心に満ちた、楽しく美しい演奏だったことが思い出される。

1941年アメリカ合衆国マサチューセッツ州に生まれたチック・コリアは、ジャズ・トランペッターの父の影響で4歳の頃よりピアノを始め、高校卒業後名門ジュリアード音楽院に進学。1968年にハービー・ハンコックの後任としてマイルス・デイビスのグループに参加したことが飛躍のきっかけとなった。その後自らのグループ「リターン・トゥ・フォーエバー」を立ち上げて発表したアルバム『リターン・トゥ・フォーエバー』の大ヒットによってジャズ界を代表するトップアーティストとしての地位を確立する。

『ザ・ミーティング』
チック・コリア&フリードリヒ・グルダ

クラシック音楽ばかり聴いてきた筆者が畑違いのチック・コリアを認識したきかっけは、20世紀後半のクラシック界を代表するピアニスト、フリードリヒ・グルダ(1930-2000)との共演だった。バッハやベートーヴェン&モーツァルトの名手として知られるグルダは、ジャズ・ピアニストとしての顔も持っていたのだ。彼ら2人が共演した1982年6月27日の「ミュンヘン・ピアノの夏」のライブ・アルバム『ザ・ミーティング』(録音の他に映像記録もあり)には、ジャズとクラシックを代表する2人の名手が繰り広げるインプロヴィゼーションがふんだんに収められている。

チャーチルの『いつか王子様が』や、マイルス・デイヴィスの『プット・ユア・リトル・フット・アウト』に、ブラームスの『子守歌』などが収められたアルバムの刺激は半端ではない。チック・コリアの名が明確に頭に刻まれた瞬間だった。そしてこの夏の出会いをきっかけにコリアはクラシックへの興味を深め、グルダはさらにジャズへとのめり込むこととなる。

『モーツァルト:2台のピアノのための協奏曲』
ニコラウス・アーノンクール、フリードリヒ・グルダ、チック・コリア

その延長線上には2人の共演を記録したもう1枚の忘れ難いアルバムが残されている。それが1983年6月に録音されたモーツァルトの『2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調k.365』だ。グルダとコリアをソリストに迎えた指揮者とオーケストラは、後にバロック界を牽引する巨匠となるニコラウス・アーノンクール指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団というのだから素敵だ。ミュンヘンでのジャズ共演。そしてアムステルダムでのモーツァルト共演という眩いステージは、ジャンルの垣根を楽々と飛び越えた2人の天才ピアニストが交錯した奇跡のような瞬間に違いない。

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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