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立川直樹のエンタテインメント探偵

本條秀太郎の三味線で“暑い夏をぶっとばせ!" ー『第13回 俚奏楽研究会』

毎月連載

第4回

(写真:岡部 好)

 暑過ぎる。テレビも新聞も連日報道していたが、〈2100年の気象情報〉のようなシーンが映し出されたりすると、何だか近未来SF映画を観ているような気分になってしまう。祇園祭の花傘巡行・後祭が暑さが危険だということで中止になったのをはじめ、全国でいろいろなイベントが中止や延期になったが、それは日本だけでなく、熱波は北半球で猛威をふるった。

 そんな暑さの中で出かけた民謡から端唄まで幅広い分野の三味線音楽を追求する本條秀太郎とその一門の『第13回俚奏楽研究会』公演。自身で作詞・作曲した『通り雨』から『ゑ歌留多』まで8つの演し物を、唄と三味線で聞かせてくれた本條秀太郎の存在を知ったのは、もう随分と前に世田谷パブリックシアターで、サイモン・マクバーニー演出で上演された『春琴』の舞台(これは本当に素晴しいものだった。今までに観た芝居の中で間違いなく10本の指に入る)でだったが、それ以来ずっと気になっていた人のパフォーマンスは、今は亡きナット・キング・コールのヒット曲『暑い夏をぶっとばせ』がパッと頭に浮かぶほど見事な暑気払いになるものだった。
 舞台の下手にセットされた着物に歌詞が映し出されるのも邦楽に日頃それほどなじみのない人間にとってはありがたいし、三味線はもとより鼓や太鼓の囃子の音の響き方も実にナチュラル。1971年に日本音楽の新しい流れとして創作されたという“俚奏楽”の“俚”という文字は“都”に対する“鄙”を指し示していてて、“俚”を田・土・人と分け読み日本民族音楽としての三味線音楽と考えているとのことだが、どの演目も素晴しく魅力的で、研究会・同好会よりもっと広げるべきだと心から思ったのである。
 そして三味線や箏といった邦楽器の製造個数が1970年から2017年の47年間で8割以上減少しているという話を聞くと、我々は今こそ守るべきものをきちんと守るべきではないかと思う。

中野裕之監督『ピース・ニッポン』、ボブ・ディラン『追憶のハイウェイ61』

 それは邦楽だけではなく、映画や音楽、美術などエンタテインメント全体に言えることで、今年の11月から12月に久々に来日公演が実現するキング・クリムゾンのロバート・フリップがかつて口にした「大量生産大量遺棄される音楽とは一線を画したところにいたい」という言葉が本当に心に響くのである。
 そう、黒澤明の『乱』に代表される映画や舞台の衣装デザインで知られるワダエミさんの「消えていきそうなもの伝えたい」という言葉や、CM、映画、ドキュメンタリーなど多岐にわたる映像を撮り続けている中野裕之さんが8年の歳月をかけて、日本の精神と絶景を撮り続けて映画化した『ピース・ニッポン』の冒頭で言っている「日本を知らない子供たちと、日本を忘れかけている大人たちに……」という言葉は、改めて“伝承”ということの重要さを考えさせてくれる。

『ピース・ニッポン』(C)2018 PEACE NIPPON PROJECT LLC

 3コードのブルースもわからずに自分達のやっている形だけの音楽をロックだと言っている人たちの撒き散らしている害毒。ロクに絵も描けないのに「美術をやっています」と言っているような人たちには6月23日から7月22日まで石川県立美術館で開催されていた『若冲と光瑤~伊藤若冲とその画業に魅せられた石崎光瑤の世界~』を見せたかったし、偶然WOWOWで観ることができた映画『ハンズ・オブ・ストーン』の中で、老いたトレーナー役のロバート・デ・ニーロが「ボクサーたちは金と名誉のために戦うようになった」とつぶやく姿は、妙に心に残ったのである。

 とにかく、フェイクニュースという言葉が日常化してしまったくらいに、今は本物と偽物が混在している時代。実体のないものがリアルなものを駆逐している感さえあるが、そんな情況の中で、“ソニーミュージックグループ自社一貫生産アナログレコード洋楽第2弾”として発売されたボブ・ディランの1965年の不朽の名盤『追憶のハイウェイ61』の響き方は完璧に感性を覚醒させてくれる。

作品紹介

『第13回 俚奏楽研究会』

公演日:2018年7月21日
会場:紀尾井小ホール

『第13回 俚奏楽研究会』チラシ

『ピース・ニッポン』(2018年・日本)

2018年7月14日公開
配給:ファントム・フィルム
監督・製作・脚本:中野裕之 脚本:柴崎明久
音楽:岡野弘幹
出演:渡辺大/及川さきの

『ピース・ニッポン』チラシ (C)2018 PEACE NIPPON PROJECT LLC

ボブ・ディラン『追憶のハイウェイ61』

発売日:2018年7月18日
価格:3800円(税抜)

『追憶のハイウェイ61』CDジャケット写真/ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)。

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