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大島幸久 このお芝居がよかった! myマンスリー・ベスト

10月の1位はシェイクスピア歴史劇シリーズ『リチャード二世』、自信に満ちた演技を見せた岡本健一に“主演男優敢闘賞”!

毎月連載

第23回

20/10/31(土)

『リチャード二世』チラシ

10月に観たお芝居myベスト5

①『リチャード二世』 新国立劇場 中劇場 (10/2)
②『真夏の夜の夢』 東京芸術劇場 プレイハウス (10/18)
③『十月大歌舞伎』 歌舞伎座 (10/6)
④ 四季『ロボット・イン・ザ・ガーデン 』 自由劇場(10/3)
⑤ こまつ座『私はだれでしょう』 紀伊國屋サザンシアター(10/9)

*日付は観劇日。10/1〜31 までに観た9公演から選出。

今月は観劇の機会が少なく、見逃がした秀作もあった。少ないながら、選りすぐりの上演を列記した。

『リチャード二世』より 撮影:引地信彦

リチャード二世』はシェイクスピア歴史劇のシリーズ最終上演、最終作品だった。12年と長期にわたる意欲的で挑戦的な企画を完結させた関係者に敬意を表する。新国立劇場でこその成果を挙げ、シェイクスピア歴史劇を連続して観ることが出来た演劇ファンには貴重な体験だった、と思う。演出の鵜山仁をはじめ我が国を代表する超一流のスタッフが結集した。俳優では『ヘンリー六世』のマーガレット・中嶋朋子、『リチャード三世』の岡本健一、『ヘンリー四世』の王・中嶋しゅう、フォールスタッフの佐藤B作、『ヘンリー五世』の塩田朋子が記憶に残る。『リチャード二世』はシリーズ常連の岡本健一がリチャード二世だが、岡本については「この人に注目!」で書く。ラングリーの横田栄司、ノーサンバランドの立川三貫、カーライルの田代隆秀の台詞が客席に良く届いた。広い舞台を隅々まで使った壮大な戦いの歴史劇は面白い。

『真夏の夜の夢』より 撮影:田中亜紀

言葉の魔術師・野田秀樹が潤色し、シルヴィウ・プルカレーテの過激な演出がシェイクスピア先生の喜劇を料理するとどうなるか。『真夏の夜の夢』は想像を超える娯楽劇になった。映像と融合し、思いも寄らない仕掛けや俳優の演技の多彩さ。どこまでも想像力を求める舞台である。「見えないものを見せる、それが芝居だ」。本質を突く台詞が出る。深い森の中では魔物も妖精も生きている。それを美しく視覚化した。息を飲む場面があった。妖精パックの手塚とおるが半ば頃、後ろ向きでひとり登場。遠くの天空を見るだけの光景が衝撃的に美しい、まさに美的なシーン。映像の森、花吹雪の中、パックの悩み、孤独が浮かんだ。

『十月大歌舞伎』チラシ

4部制の『十月大歌舞伎』は第3部。片岡仁左衛門が梶原平三景時を演じた「梶原平三誉石切・鶴ヶ岡八幡社頭の場」。歌舞伎座半年ぶりの登場。場内がパッと明るくなった。当代一の二枚目役者である。刀あらため、二つ胴、石切の3か所が見せ場。様式美に溢れる芝居はさすが。姿良し、声良し。“花の松嶋屋”は健在だった。

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』より 撮影:阿部章仁

ロボット・イン・ザ・ガーデン』。四季のオリジナルミュージカルだが、劇団では16年ぶりのオリジナルという。主人公ベンが小さなロボット、タングを修理する旅に出る。拍手する間もない早い舞台転換、振りがユニークなグラムロックのダンス。夫婦間の喧嘩と和解、ハッピーエンド。再演可能な秀作になった。

『私はだれでしょう』より 撮影:宮川舞子

私はだれでしょう』は劇中歌いっぱいの自分探し、権力と対決する覚悟を求めながら歴史を思い起こさせる物語。1幕2場は栗山民也の演出が冴えて、唸ってしまった。

★この人に注目!★

岡本健一に注目してきたのは随分と以前からのことだ。蜷川幸雄さんがやけに褒めていたのである。以来、彼を歌手ではなく舞台俳優としてのみ見てきた。ジャニーズ事務所の中で早くから舞台に軸足を置いたのは当時は異色だったが、恐らく彼は生の舞台で演技をする魅力を追究したかったのだろう。男優なら誰でも一度は挑戦したい『リチャード三世』の悪党の野心を全身全力で演じた。そして『リチャード二世』の主演。自信に満ち、また一皮剥けた舞台姿に感心した。「主演男優敢闘賞」としたい。昨年9月4日、東京ドームで行われたジャニー喜多川さんのお別れ会。出席者を見送る多くのタレントの列に並んだ彼に気付き、「頑張っているね」と声を掛けた。「ありがとうございます」と微笑した姿勢には貫禄さえ感じた。

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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