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田中圭ブレイク、異色の朝ドラ『半分、青い。』……2018年振り返るドラマ評論家座談会【後編】

リアルサウンド

19/1/1(火) 10:00

 2018年も、各局から多種多様なTVドラマが放送された。リアルサウンド映画部では、1年を振り返るために、レギュラー執筆陣より、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの西森路代氏、横川良明氏を迎えて、座談会を開催。

参考:2018年ドラマ評論家座談会【前編】 『獣になれない私たち』野木亜紀子ら女性脚本家飛躍の1年

 『アンナチュラル』『フェイクニュース』『獣になれない私たち』と3作の脚本を手がけた野木亜紀子はじめ女性脚本家の飛躍について話し合った前編に続き、後編では、2018年大ブレイクを果たした田中圭の魅力や2019年期待の俳優・女優たち、そしてNHK朝ドラについて語り合った。

■『おっさんずラブ』と『けもなれ』、田中圭は“ブラックホール”?

成馬零一(以下、成馬):今年の顔といえば、田中圭ですが、なんであんなに人気が出たと思いますか? 僕も面白い俳優だなぁと思って見ていたのですが、うまく言語化できないんですよね。

西森路代(以下、西森):それは『おっさんずラブ』効果が大きいんじゃないですか?

成馬:うまく言葉にできない感じが面白いなぁと思っていて。『獣になれない私たち』(以下、『けもなれ』)でも、京谷(田中圭)が一番面白いじゃないですか。設定だけみると、恒星(松田龍平)の方が作り込んでいてミステリアスな男のはずだけど、画面に映っている姿を見ると京谷の方がミステリアスに見える、ブラックホールみたいなヤバい魅力があるんですよね。

西森:私もツイートで「京谷というブラックホール」ってつぶやいてるんですよ。

横川良明(以下、横川):ブラックホール……。

成馬:昔だったら松田龍平がミステリアスな役のはずですけど。『カルテット』でも、役柄の魅力としては高橋一生の方が勝っていたと思うんですよ。去年が高橋一生の年だとしたら、今年は田中圭の年ですよね。逆に今までミステリアスだった松田龍平から謎が消えかけている。『けもなれ』も恒星が一番分かるんですよね、人として理解できるというか。ステータスだけ見ると、恋人がいて家族もいて、一般企業に務めている京谷が一番分かりやすいはずなのに、一番分からない。

西森:それは変わってきたんだと思いますよ。昔だったら、恒星が分かりにくい人だったけど、野木さんの活躍とともに分かりにくかったものが主流になりつつあって、王道だったものの中にあった実はわからなかったところが浮き彫りになったのが京谷で。

成馬:だから『おっさんずラブ』も、春田(田中圭)のブラックホールにみんなが飲まれていく話なんだなって、『けもなれ』の京谷を見た後で振り返ると感じるんですよね。春田がなぜモテるかよく分からないんだけど、そのことによって、どんどんおかしな話になっていくのがすごく面白い。

西森:いたって普通の人の方がブラックホールというのは、最近すごくあると思います。『中学聖日記』の町田啓太もそうですよね。「普通」っていうことが、どんどん成立しなくなってる世の中のなかで、それを貫こうとしている人の違和感が浮き彫りになって、一方で松田龍平がどんどんまともに見えてくる。

成馬:真面目に働いていて「君を幸せにするよ」と言うような人ですよね。不特定多数の人が抱いている理想の、そして平凡な男性像みたいなものが一番おかしなことになっている。

西森:まともを貫こうとしすぎて壊れる感じが怖いですからね。みんな、ちょっと壊れるぐらいが普通じゃないですか。

横川:たぶん、自分も含めて田中圭ファンは逆で、「まっとう」とは思ってないというか。『おっさんずラブ』の春田に関しては、「あいつがモテる理由が分からない」っていう意見を聞くことがあるのですが、OL民からすると、分からない理由が分からない(笑)。魅力の塊でしかなくて、こんなのみんなが好きになるよね! って。第1話のシーンで、林遣都が来て、チラシ配りを教えてあげるじゃないですか。その時の、「やってみ」みたいな言い方や、年上だけど偉そうにもしないし、へいこらするわけでもない。人に対してフラットですよね。

西森:私も春田が人に好かれることはすごくわかるんです。ブラックホールっていう意味は、人の好意とかも全部吸い込んじゃうみたいな意味で、だからモテるっていうこと自体がブラックホール。もちろん田中圭さん本人が、というより春田や京谷という役にそれを感じるわけですけど。

成馬:一見、平凡で普通に見えるものの中に、なんだかよくわからないものが宿っている。好きになるって悪いことじゃないけど、好きになったら大変になっちゃうわけじゃないですか。だから、『おっさんずラブ』も黒澤部長(吉田鋼太郎)は狂っちゃって、奥さんもその被害を受ける。どっちかって言ったら優しすぎるんですよ。『けもなれ』の京谷は元恋人で引きこもりになったからって、朱里(黒木華)をマンションに住まわせる。いいことだけど、晶(新垣結衣)からしたらたまったものじゃない。でも、本人には悪いことしているわけじゃないから、強く言えないという。

西森:『きみが心に棲みついた』は向井理が、怖い人をストレートにやっていて、それにはブラックホール感がないですよね。吸い込まれそうなんだけど、我に返れば、この人とは距離をおいて終わりにしよう、と決断できるわけですし、しかもその怖さは、やっぱり今までに見たことがある種類なので、想像がつくんですよね。

横川:なるほどなるほど。田中さんってどこまでも正直で平和的な感じじゃないですか。視聴者もそういう平和なものを愛でたいという気持ちはあるんじゃないでしょうか。バラエティなどに出た時の対応など見ていても、人を傷つけないし、落ち着いている。田中さんの愛される理由はそこにあると思うんですよね。でも、2016年は星野源、2017年は高橋一生と続いて、今年は田中圭と30代の男性が続きますよね。

■脇役から自分たちのスター俳優を見つける

西森:ブレイクした30代の俳優を見ていると、本人と合う脚本って大事だと思うんですよね。星野源さんや高橋一生さん、あとディーン・フジオカさんにしても、やっぱり役とぴったり合ったからこその人気で。スターからいいドラマを生み出そうとしてもできなくて、ドラマからしかスターは生まれないのではないかと。特に男性は。

成馬:2番手、3番手の脇役から、自分たちのスター俳優を見つけることが、今は一番楽しいのかも。『アンナチュラル』も、前情報だけ見ると窪田正孝が注目されてもおかしくなかったけど、結果的にみんなが見つけたのは井浦新だった。ここ数年、30代後半くらいの、2番手、3番手の俳優に突然脚光が当たることが常態化してるんだけど、誰が当たるかは予測できない。

西森:20代ではイケメンが求められることが多いのに、30代後半から40代になると、急にリアリティのある人を作り手が求めだしてくるので、大泉洋かムロツヨシか阿部サダヲか、という感じで浮上してくるんですよね。若手の俳優さんでも、イケメンキャラではない自分は、30代からが本領発揮できる時期と言ってる方もいました。

成馬:矢本悠馬くんはいいポジションにいるので将来楽しみですよね。今は非イケメン枠の方が俳優として美味しいんですかね?

西森:だと思います。これ、あくまでもイケメンというキャラクターを背負ってる人という意味で、イケメンじゃないと思われている人も、そっちの枠を背負っているというだけなんですけども、数の上で、イケメンのほうを背負ってる人がすごく多いので。イケメンキャラではない人が足りないからこそ、お笑いやミュージシャンからドラマに来る人が30代以降で増えるわけで。

成馬:今年は峯田(和伸)くんが『高嶺の花』で主演を務めて、石原さとみの相手役をやりましたからね。わかりやすいイケメン俳優史観が崩れてきてるのが面白い。

西森:あと、来年は満島真之介さんがおかしな感じでブレイクするかなと。『田中圭24時間テレビ』もそうですけど、NHK大河ドラマの『いだてん』もすごいんですよ。やっぱりイケメンというキャラクターだけ背負っているのでは、なかなか不安なんだと思います。実際、イケメン側の俳優さんに取材すると、いろんな意見があります、「30代になってキラキラした役をやらなくて済むようになったから楽」とか、あとはよくあるけれど、「もっと自分のイメージを崩してみたい」とか。

横川:演劇畑の人たちの活躍も、それと関連していますよね。『けもなれ』にも出ていた安井順平さんも最近よくドラマで見るようになりました。この10年くらい、小劇場出身の俳優の顔ぶれは同じなんですが、少し一新され始めたというか。来年あたりくらいから、もっと増えてきそうですね。

成馬:イケメン俳優でいうと、『宇宙を駆けるよだか』の重岡大毅(ジャニーズWEST)はよかったですよ。あと、岩田剛典もよかった。『炎上弁護人』や『崖っぷちホテル!』で、軽薄な男を演じたのですが、何かを掴んだ感がありますね。LDHの俳優たちは最近かなりいいですよね。

西森:『jam』はすごくよくて、SABU監督が、劇団のキャラをわかったうえで、イケメンを崩してくれてたんですよね。特に崩してくれてたのが町田啓太。まっとうな人の中にあるおかしさそのもので、来年はもっと肩の力をぬいて、おかしな人もやれるんじゃないかなって。『PRINCE OF LEGEND』も面白かったですよ。『花より男子』とかも踏襲しながら、今王道のプリンス/プリンセスをやってもウケないということも分かっていて、メタ的な王子様をやっている。

成馬:イケメンドラマって行くところまで行っちゃったんでしょうね。『花のち晴れ~花男 Next Season~』も、没落王朝の話みたいで、ジャニーズ・イケメン帝国を、どうやって立て直すのかという話に見えた。それを今年デビューしたKing & Princeの平野紫耀がやっているのも、メタ的ですよね。あと、女優では、清野菜名が気になりますね。『今日から俺は!!』は出ている俳優さんはみんなアクションをがんばっていたのですが、清野菜名が突出してました。後半はアクション見せるためだけに作ってる回もあって改めてアクションが凄い女優だなぁと思いました。『今日から俺は!!』は良質なコントバラエティの伝統を引き継いでいて、俳優の活かし方が上手いですよね。『とんねるずのみなさんのおかげです』に宮沢りえが出た時のレア感みたいなのが、毎回のゲスト俳優の見せ方に感じました。福田雄一はやっぱり面白いですよね。抜くところと、力入れてるところのバランスがおかしくて、それ自体が笑いにつながっている。

西森:観る前は「ふーん」って静観してしまうところがあるんですけど、観ると絶対笑うし悔しい(笑)。福田作品には簡単には否めないんですよね。

成馬:昔のテレビはコントバラエティーが花形だったんですよ。『てなもんや三度笠』や『ドリフ大爆笑』『オレたちひょうきん族』があって、90年代には『ダウンタウンのごっつええ感じ』があった。でもそれが、2000年代に入ると減っていき、『M-1グランプリ』のようなトーナメント形式で競うものや『アメトーーク!』のようなトーク番組が主流になっていって、今やコントバラエティーは『LIFE!~人生に捧げるコント~』ぐらいしか残っていない。代わりに宮藤官九郎や福田雄一のコメディテイストのドラマが登場して、結果的にコントバラエティーの伝統を引き継いでいるんだと思うんですよね。

西森:個人的には、ネタ自体は良くなってるのに、番組やコンテストの枠組が変だという印象を受けることが多いですね。芸人も若くなってるから、良質なネタを作ってるのに、コンテストをやってる方の思惑がそこに追いついていないというか。

成馬:サンドウィッチマンのコントを見ているとディテールが細かいなぁと思うんですよ。例えば、コンビニのコントだったら、セブンイレブンとローソンとミニストップの違いまで表現できるくらいコントのリアリティが上がっている。それを支えているのは、芸人たちの演技力の高さとディテールの細かさですよね。だから、ああいうところからも今後は才能が出てくると思います。バカリズムがまさにそういう存在で、それをドラマでやったのが『架空OL日記』。実際に、サンドウィッチマンのコントを見ると、ディテールが細かいしリアリティもあってドラマっぽいんですよね。

西森:私は阿佐ヶ谷姉妹のお姉さん(渡辺江里子)の「私の落とし方発表会」が好きですね。まだまだドラマの書けそうな芸人さんもいるのかなと。でもバカリズムさんは、もう別格ですね。

■『半分、青い。』は“恋愛ドラマとしての朝ドラ”を壊した

横川:僕、あまり追えていなかったんですが、『半分、青い。』はなぜあんなにも賛否が分かれたんですか?

西森:私は『半分、青い。』かなり好きでした。主人公が好きなことを言ってるのを見て自由に感じる派と、それに付き合わされる自分を想像してしんどい派か、だと思うんです。『まんぷく』の鈴さん(松坂慶子)を見てどう思うかと一緒で、鈴さんも好きなこと言ってるけど、好きなこと言ってる人の方が楽だなって思う人は、鈴さんと鈴愛ちゃん両方好きなんじゃないかな。私は鈴さんがいないと『まんぷく』見てられないかもと思うくらいなので。

成馬:朝ドラって、去年の『ひよっこ』で進化が終わったと思ってたんですよ。あとは反復になると思っていたら、『半分、青い。』が出てきて驚きました。でもあれは、朝ドラであることよりも、脚本を担当した北川悦吏子が復活したことの方が大きいと思います。

 2010年代の北川さんは『素直になれなくて』以降、作品数が減っていて、時代の流れとあまり噛み合ってなかったのですが、時代を巻き戻して、舞台を近過去にすると、まだ恋愛ドラマも描けるんだということを証明した。『半分、青い。』は、北川さんが今までやってきた恋愛ドラマのあの手この手を全部持ち込んだことが、結果的に朝ドラのフォーマットを崩すことにつながったのだと思います。だから、時代をどう見せてくかはすごく興味がありましたね。僕も鈴愛ちゃん好きでしたよ。どこにも所属できなかった、団塊ジュニアの恨み節を感じるというか。

西森:ロスジェネの生き方なんて、あんなもんだぜ、というか。何かやってみたけど挫折して、また次をやってみての繰り返しで。いろんなことに手を付けるのはドラマではNGだったかもしれないけど、実はリアルな人生では普通にあることですし。

成馬:ぶつ切り感が逆にリアルだったのかもしれないですね。

横川:確かに、自分の20代でやってたことが40代に繋がるかと言ったら繋がらないことの方が多いし。

成馬:律くん(佐藤健)がいるにもかかわらず、鈴愛がその都度その都度別の恋人ができるのも面白くて。1人の人と結ばれなきゃいけないという恋愛ドラマとしての朝ドラみたいなのは明らかに壊してくれましたね。あともうひとつは才能の問題。漫画家になれない理由が結婚とかではなく、単に才能がないというのがすごい。朝ドラで仕事を辞める時は、大体、旦那を支えるとか戦争といった理由なんだけど、本人の問題でしかないのが『半分、青い。』でした。

西森:鈴愛は、自分のために生きてるんですよね。そういうところは、これからの朝ドラには必要になってくるのではないかと。やっぱり、今、人のために生きてることを描くと、抑圧的に見えてしまうんですよね。だから、『まんぷく』ではその役割を鈴さんが担ってくれていると。

成馬:志尊淳も良かったですね。でも、やっぱりイケメンしかうまく使いきれていないというか、「僕って魔性のゲイなんです」というセリフも今だと難しいし、矢本くんを活かし切れてないのは少し不満ですね。

西森:志尊さんは『女子的生活』があったからこそ、スタッフ以上に、考えぬいて演じたとインタビューでも語っていましたね。

横川:北川さんの作品は90年代感を拭えないんですよね。人を傷つけたり、笑いの取り方にある鈍感さが、2010年代の終わりには全然合ってない感じがして。『高嶺の花』の野島伸司とあわせて、90年代にトップ取った人が、時代に合い切っていなかったなと。

成馬:平成のお葬式だと思えば納得できるんですけどね。あれが「今の時代の話です」と言われたらちょっと違うと思うけど。

西森:ただ、『半分、青い。』に関してはさっきも言ったとうに、抑圧的なものがなかったので、完全に古いとも言えない気もしています。私は抑圧されてる人を見る方がしんどくて、『けもなれ』の最初のガッキーとかまさにそうですよね。そのガッキーが最終回に向かって、自分で抑圧から解放されていくのが今だなと思うので。鈴愛ちゃんはキャラとしては“今”って感じがしました。

横川:鈴愛は、北川作品でいうと『ロングバケーション』の葉山南とかに持っているものは近いですよね。あの頃、可視化されてなかっただけで葉山南をむかついてた人もいるのかもしれないけど、今だとこんなにも賛否が分かれるところに面白さを感じたんですよね。昔だったらその口をつぐんでた層が、声を出してNGと言えるようになったというか。

西森:そうですね。キャラとしては奔放な感じは変わってないかもしれないですね。トレンディドラマ全盛の頃は、まだ私も、自由奔放なキャラの方をウザいと思っていたかもしれません。今は、南も好きに生きればいいやん、派ですけどね。

■2018年のドラマは社会的なテーマを扱って当たり前

成馬:社会的なテーマを扱うことが今は当たり前になってますよね。労働問題やジェンダー、あるいは外国人労働者の問題を扱ったドラマは、案外恋愛ドラマよりみんな観ちゃう可能性がある。もちろんエンターテイメントの枠におさめてはいるんですけど。

西森:『女子的生活』とかもそうですね。そういう傾向は去年よりさらに強くなったかもしれない。

成馬:去年、この座談会をした時は、宮藤官九郎の『監獄のお姫様』のように、男性の脚本家が女子の共同体を描いて、それが#MeToo運動と同時代的だったという話をしました。今年は逆に、女性脚本家の活躍が目立って、男性脚本家ではピンとくる人があまりいなかった。同時に、あまり理想化もしてなくて、そういった問題を扱うこと自体がどんどん当たり前になってきているのかなぁと思います。同時にポリコレやフェミニズムに関する意識も、加速度的にシビアになってきてますよね。

西森:そうですね。だからこそ野木さんが今を代表する脚本家なんだと思います。でも、去年の話からすると、今年でここまで進むとは正直思わなかったですね。いい意味でですけど。

ーーそんな中、1月から始まる『ちょうどいいブスのススメ』のタイトルへの突っ込みも多かったですね(※編集部注:座談会の後日、タイトルが『人生が楽しくなる幸せの法則』に変更)。

成馬:僕が2位に挙げたNetflixの『宇宙を駆けるよだか』はまさに美醜の問題を扱ったドラマで、入れ替わりものの学園ドラマなんですよ。かわいくて性格の明るいヒロインが、太っていて陰気なクラスメイトと容姿が入れ替わるところから物語が始まるのですが、実は背景に貧困の問題もあって容姿の美醜と心の美醜は関係するのか? という問いかけがずっと続くハードなドラマとなっている。『ライアーゲーム』『人は見た目が100パーセント』の松山博昭さんが監督を務めていて、後半になるほどゲーム的になっていくのも面白かったです。今は、こういった作品は今の地上波ではできないですけど、Netflixならできるんですよね。美醜の問題やるんだったら、この作品ぐらい突き詰めてほしいと思います。

西森:『ちょうどいい~』は、タイトルを変えたところで、女性が他人のための「ちょうどいい」自分、扱いやすい自分を目指したほうが、サバイブしやすい=幸せなんですよ、ということを描くんだなということが見えてしまっているので、どっちにしろ抑圧なんですよね。もちろん、それは導入にすぎなくて、そこをとことん見据える、とかだったらいいなと思いますけど、たぶんないですよね……。

成馬:美醜の問題って、10代の若い子にとってはすごく切実な問題じゃないですか。でも、今の地上波では10代向けの若者ドラマがどんどん減っている。その代わりWEBドラマが受け皿となっていて『放課後ソーダ日和』のような傑作も生まれている。今年は、ネットドラマの傑作が多かったのですが、2019年は、その流れが静かに加速していくのではないかと思います。

■若いクリエイターの活躍

成馬:今年は若いクリエイターが活躍した1年でしたよね。『おっさんずラブ』の貴島彩理さんは90年代生まれの28歳で、一番若い人がヒット作を出した。それがテレ朝の深夜から出てきたというのが面白いですよね。プロデューサーは、今はまだ60年代生まれが強くて、70年代生まれ以降の名物プロデューサーは少なかったのですが。今年は世代交代の兆しが見えましたね。一方今面白い脚本家は野木さんを筆頭に70年代生まれに集中している気がします。昭和と平成、インターネットが普及する以前と以降の社会の変化を知っているから今の社会が描けるんだと思います。さらに下の世代になると、何か表現したいと思った時に、スマホ1台あれば、ユーチューバーみたいに自分で撮って編集できるので、1人で脚本をじっくり書こうという方向には意識がいかないのかなぁと思います。全部1人で作る感覚が当たり前になってくると、才能のあり方も変わっていきますよね。そういう人は少人数で作れるWEBとは相性が良いので、今までとは違う作品を生み出すことを期待してます。

横川:そこで言うと、個人的に期待しているのが松居大悟ですね。福田さんは、やっぱりすごくサービス精神があって、45分をどう見せるかをちゃんと考えて作ってくれているなと。今ドラマの楽しみ方も細分化していく中で、『今日から俺は!!』や『ぎぼむす』みたいに、みんなが見れるコンテンツを誰が作っていくか。作品性が高いものを作る一方で、ちゃんと20%ぐらい視聴率が出て、みんなで楽しかったよねと言えるコンテンツを作ってくれる人が、僕はちゃんといてほしい。松居大悟はもともと演劇の人で、彼のつくる映画はやや間口が狭いところがある気はしますが、『バイプレイヤーズ』はちょうどいいバランス感だったと思うんです。プロデューサーやディレクターとの相性もあると思うのですが、数年後そういう存在になってくれるのかなと期待しています。

西森:私も若い人が入ってくることはいいと思います。『恋のツキ』も演出が若い人が多かったそうですが、映像にしても、リアリティにしても、ちょっと今までとは一線を画すものだったなと思います。あと、それを起用する人が、ちゃんとその人のいいところをわかってないと生かせないので。『恋のツキ』は、そこがうまくいったんだと思いますけど、そういう責任は上の世代には出てくると思います。(取材・文=若田悠希)

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