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《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020》閉幕。授賞式は女性監督の躍進を印象付ける結果に

ぴあ

最優秀作品賞を受賞したマリア・セーダル監督『願い』 (C)Manuel Claro

国内外の有能な映像作家を数多く見い出してきた《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020》が4日に閉幕した。コロナ禍の影響で映画祭自体はオンライン配信での開催となったが、授賞式に関しては例年通り、SKIPシティ映像ホールで実施。国内の入選監督が集まる中、各賞が発表された。注目の国際コンペティション部門で最高賞となる最優秀作品賞の栄冠は、ノルウェーとスウェーデンの合作映画『願い』が手にした。

過去最高数の国と地域から、過去最大本数の作品が集まった本年度の国際コンペティション。過去最高の激戦といっていい賞争いは、今回が初長編となるマリア・セーダル監督が制した。

『願い』は、突然、末期がんを告知された中年女性と、そのパートナーの男性の物語。事実婚である彼らが直面する試練と苦難、その先にかすかにみえる希望がじっくりと描かれる。セーダル監督自身の体験を元にした作品で、トロント国際映画祭をはじめ、のベルリン国際映画祭など、世界の映画祭を巡り高い評価を受けている。

コロナ禍で来日が叶わなかったセーダル監督はビデオメッセージを寄せ、「ノルウェーにある山小屋の自宅で、受賞のメールを受け取りました。この受賞は私にとって特別なことです。

というのも、自伝的な体験を作品にすることは初めてのこと。それは自分にとってチャレンジングなことでした。その作品がこのような評価を受けたということは、人としても、文化としても、国境を超えられたのではないかと感じています。たいへん勇気づけられました」と述べ、最後は日本語で「ありがとう」と感謝の意を伝えた。

審査員を代表してコメントを寄せた審査委員長の映画プロデューサー、澤田正道氏は、冒頭で「審査員全員一致でこの作品が大賞に決まりました」と語り、「ガンを告知された女性という強いコンセプトで始まりながらも、映画は、この主人公の人間そのもの、本質を描き出していく。この主人公は決して憐れみを受け入れず、ときに観客にとっても目をそむけたくなるような態度をみせる。だが、彼女の死んでいくことへの恐怖と、残されていく子どもたちへの母親としての責任が(こちらに)ひしひしと伝わってくる。まさにそこに生身のひとりの女性、ひとりの母親を見ることができる。その傍らで何もできない夫のふがいなさはとても実感できるものがある。撮り手の監督自身がこの主人公の女性と寄り添って、『生きる』ということを問いただしている気がする。監督が次になにを撮るのか興味深い」と作品を評した。

もうふたつの主要賞である監督賞と審査員特別賞は、こちらも女性、ロシアのナタリア・ナザロワ監督の『ザ・ペンシル』が受賞。2冠を手にした。

『ザ・ペンシル』は、暴力の恐怖に対抗する武器として、生徒たちに鉛筆を与えた、ある女性美術教師の物語。いかなる不条理にも圧力にも屈することなく、芸術の力を信じて己を貫くヒロインの気高き生き様が描かれる。

審査員を務めたロッテルダム国際映画祭およびロカルノ国際映画祭のプログラマー、ジュリアン・ロス氏は本作について「いまは、社会的圧力によって前に進むことがひじょうに困難な時代。この問題はロシアを含む世界各地が抱えている。そこに本作は焦点を当てている気がする」と語り、もうひとりの審査員である映画監督の三島有紀子氏は、「ほんとうに力強い作品。ロシアの社会構造と、世界中で蔓延している『みたくないものをみない』という風潮を寓話として物語に落とし込めているところがすばらしい。ナザロワ監督は『みたくないものをみていかなければならない』『わたしたちはみなければならない』ことを力強くメッセージとして伝えてくれた」と称賛のコメントを寄せた。

セーダル監督同様に来日が叶わなかったナザロワ監督は「私は日本が大好き。詩をはじめあらゆる日本の伝統的な文化を私は愛しています。ですから、日本での受賞は私にとってとても大きなことです。いつの日か日本を訪れたい」と喜びをビデオメッセージで伝えた。

国内コンペティション部門に目を転じると、長編部門がアンシュル・チョウハン監督の『コントラ』、短編部門が藤田直哉監督の『stay』がそれぞれ優秀作品賞に。国内作品を対象に、今後の長編映画制作に可能性を感じる監督に対して授与するSKIPシティアワードは、国内作品で唯一国際コンペティション部門に選出されていた『写真の女』の串田壮史監督が手にした。

今回の開催を振り返ると、コロナ禍でも起きている人間同士の分断、あるいはジェンダーの問題、社会の多様性など、いままさに目を向けるべき問題を体感する機会になったといっていいかもしれない。それほど入選作品には、今の時代を色濃く反映し、今の社会や人間の在り方を問う力作が並んだ。

審査委員長の澤田正道氏も総評で「女性監督の作品をもっと推薦すべきだという意見を映画祭でも業界でも聞く。しかし、本映画祭で改めて実感したのは、女性監督の作品がすでにしっかりと根をはってきていること、女性・男性という考えが徐々に昔のことになっていこうとしていること。近い将来、女性監督の映画、男性監督の映画という言い方自体が古く感じさせるときが近づいているような気がする。今回、受賞した2作品はいずれも女性監督です。でも、誰も女性監督の作品と意識してみていないものです。映画は性別などないこと。さまざまな人が映画という表現方法を使って世界と対峙していることを見せてくれました。

もうひとつ考えさせられたのは戦争について。今起きている戦争、過去に起きた戦争、今起こっている戦争にわれわれはどう接するべきなのか、過去に起きた戦争に対する私たちの立ち位置とはどうあるべきなのか、そういうことを映画を通して考えさせられるのはとても意義のあることだと思う。われわれのように作る側においては、このテーマを扱う際の責任と覚悟をあらためて感じさせられました」と審査を通して、今の時代を痛感した主旨のコメントを述べた。

また、コロナ禍という事態を受け本映画祭は、苦渋の決断でオンライン配信での開催を余儀なくされた。制約がつく中での開催となったが、会期中の視聴数は6000を突破。コンペティション部門のみの配信上映で、例年に比べると上映本数も少なくイベントもない中で、この数字は大健闘といっていい。

その中で審査員の澤田氏は映画祭についても触れ「いま商業的にいうとイベント性をもたない映画は公開さえ難しくなってきている。そういう状況の中で、映画祭は、シンプルに映画を映画としてみせる可能性を残している。そのことを今回の開催では実感した。この映画祭が末永く続いていくことを望む」とメッセージを寄せた。

そういう意味で、今年の《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020》は、改めて映画祭の存在意義を示す開催になったといっていいかもしれない。

なお受賞結果は以下の通りになる。

<国際コンペティション>
最優秀作品賞:『願い』 監督:マリア・セーダル
監督賞/審査員特別賞:『ザ・ペンシル』 監督:ナタリア・ナザロワ
観客賞:『南スーダンの闇と光』. 監督:ベン・ローレンス

<国内コンペティション>
SKIPシティアワード:『写真の女』 監督:串田壮史

<国内コンペティション>
優秀作品賞[長編部門]:『コントラ』 監督:アンシュル・チョウハン
優秀作品賞[短編部門]:『stay』 監督:藤田直哉
観客賞[長編部門]:『コーンフレーク』 監督:磯部鉄平
観客賞[短編部門]:『ムイト・プラゼール』 監督:朴正一

取材・文:水上賢治

《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020》
詳細はhttps://www.skipcity-dcf.jp/

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