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立川直樹のエンタテインメント探偵

歌舞伎座の片岡仁左衛門、キング・クリムゾン最後の日本公演、7時間半に及ぶディズニープラス『ザ・ビートルズ:Get Back』……。キャリアの集積、費やされた時間に感じ入った1カ月でした。

毎月連載

第77回

『ザ・ビートルズ:Get Back』(C)2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.(C)2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.(C)1969 Paul McCartney. Photo by Linda McCartney.(C)2021 Disney (C)2020 Apple Corps Ltd.

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』チラシ

12月5日! 8日と9日にジョン・レノン追悼のレコード・イベントがあるのでジョンの歌を聴きながら書いている。メモの最初にあるのは、11月7日に歌舞伎座で見た片岡仁左衛門、片岡千之助の『連獅子』。人間国宝の仁左衛門の孫の千之助と共演した歌舞伎舞踊だが、想像していた通りの素晴らしさで千秋楽には歌舞伎座としては異例のスタンディングオベーションとカーテンコールが起きたという話も納得の公演だった。玉三郎とのコンビで上演した4月と6月の「桜姫東文章」も最高の舞台だったが、仁左衛門さんにはこれからも元気で歌舞伎界を引っ張っていって欲しいと切に願う。そして千之助の確実な成長ぶりも贔屓としてはうれしい。

KING CRIMSON

仁左衛門は77歳。親獅子は本興行では最高齢だとのことだが、トリプル・ドラムを含む7人編成のキング・クリムゾンのリーダーとしてステージに立ったギタリスト、ロバート・フリップの全く失われることのないカリスマ性と創造力も特筆すべきものがあった。御年75歳。僕が見たのは11月28日の東京国際フォーラムでの公演だったが、3人のドラム・ソロでスタートしたコンサートは惜し気もなく3曲目に「レッド」、4曲目に「エピタフ」を演奏するというサービス精神たっぷりのもので〈MUSIC IS OUR FRIEND〉というツアー・タイトルと、これが最後の日本公演になるということも相まってステージと“信者”ともいえる観客が一体になった忘れ難いものだった。

『ザ・ビートルズ:Get Back』(C)2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.(C)2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.(C)1969 Paul McCartney. Photo by Linda McCartney.(C)2021 Disney (C)2020 Apple Corps Ltd.

名曲「エピタフ」が収録されたクリムゾンのデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』が発表されたのは1969年。ビートルズの『アビイ・ロード』からアルバム・トップチャートを奪ったという都市伝説も生まれた衝撃作だが、11月下旬からディズニープラスで独占配信が始まった『ザ・ビートルズ:Get Back』も1969年の1月にビートルズの4人のメンバーがスタジオにこもってレコーディングを続け、1月30日には伝説の“ルーフトップ・コンサート”に至るプロセスを3話合計すると7時間半に及ぶ異例とも言えるドキュメンタリー作品である。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』3部作で、3本のメジャー長編映画を同時に監督した史上初の人物となり歴史を作ったピーター・ジャクソン。アップルコアのCEOであるジェフ・ジョーンズとプロダクション・ディレクターのジョナサン・クライドは2018年に公開された第一次世界大戦のドキュメンタリー『彼らは生きていた』でジャクソンがやってみせた画期的な映像復元に感銘を受け、同じようなことをビートルズの映像でもやって欲しいと希望して実現したプロジェクトだが、画面に映し出される4人の姿と交わされる会話、オリジナル曲をまとめていく間に演奏されるバラエティに富んだカバー曲などは文字通り“盗み見”しているような感じで、ポールの「僕達はバンドなんだよ」という言葉が胸に深く突き刺さりながら、ジャクソンが「結果的にはこれだけの長さにする必要があった」という言葉にも素直に納得できる。クリムゾンのコンサートを一緒に見に行ったギタリストのSUGIZOと土屋昌己がこれだけ緻密な演奏をするのにどのくらいリハーサルをしたんだろうね」と溜息混じりに言っていたが、物を作るには本当にそれだけの時間、またキャリアの集積というものが必要だということを2つのコンサートや食のイベントのプロデュースの仕事のために10日以上滞在していた金沢のホテルの部屋で見たロジャー・ウォーターズがピンク・フロイドの名盤『ザ・ウォール』を完全再現した迫力のライブ映像にドキュメンタリーの要素を加えた映像作品を観た時もそれを強く感じさせられたのである。

「金子國義+赤木仁『師と弟子』展」、宇野亞喜良展「少女句楽部」…“アート・ランニング”。

金子國義 / Kuniyoshi Kaneko 赤木仁 / Zin Akaki「BAMBI,VAMP,VAMPIRE」キャンバス / 油彩1995年

金沢だけでなく、富山に行ったり、東京でも過密なスケジュールをこなしていたので、アートものを観たい渇望にかられ、12月3日に東京都写真美術館で3つの写真展、Galerie LIBRAIRIE6/シス書店で「金子國義+赤木仁『師と弟子』展」、東京オペラシティ アートギャラリーで「和田誠展」と「難波田史男:線と色彩」。三菱一号館美術館で「印象派・光の系譜」、千駄木のギャラリー五辻でAy-O、最後はSCAI THE BATHHOUSEで名和晃平の「TORNSCAPE」を見るという文字通りの“アート・ランニング”にチャレンジしたのも目や耳は常にトレーニングしておかなければという気持ちの表れ。中では「師と弟子」展が小ぶりながら行ってよかったと思えるもので、あとは11月24日の開催初日に行った銀座三越本館7階ギャラリーの宇野亞喜良展「少女句楽部」も素晴らしく魅力的なものだった。「愛する〈俳句〉をAQUIRAX風にビジュアライズする作業の成果をお見せします」とコメントしている宇野亜喜良は御年87歳。その作品はとても軽やかで、かつ深遠である。サインを頂いた画集「カレイドスコープ」は開くだけで向こう側の世界に連れていかれる。

宇野亞喜良画集 Kaleidoscope(カレイドスコープ)グラフィック社刊

データ

●ステージ
吉例顔見世大歌舞伎『連獅子』
会期:11月1日~26日
会場:歌舞伎座

●コンサート
キング・クリムゾン〈MUSIC IS OUR FRIEND〉
日時:11月28日
会場:東京国際フォーラム

●CD
キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿』

●映画
『ザ・ビートルズ:Get Back』
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:ピーター・ジャクソン
出演:ポール・マッカートニー/ジョン・レノン/ジョージ・ハリソン/リンゴ・スター

●映画
『彼らは生きていた』
(2018年/英=ニュージーランド)
配給:アンプラグド
監督・製作:ピーター・ジャクソン

●展覧会
「金子國義+赤木仁「師と弟子」展」
会期:11月27日~12月19日
会場:Galerie LIBRAIRIE6/シス書店

●展覧会
「難波田史男:線と色彩」
会期:10月9日〜12月19日
会場:東京オペラシティ アートギャラリー

●展覧会
「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」
会期:10月15日〜2022年1月16日
会場:三菱一号館美術館

●展覧会
名和晃平の「TORNSCAPE」
会期:11月2日〜12月18日
会場:SCAI THE BATHHOUSE

●展覧会
宇野亞喜良展「少女句楽部」
会期:11月24日〜12月7日
会場:銀座三越本館7階ギャラリー

●BOOK
「宇野亞喜良画集 Kaleidoscope(カレイドスコープ)」
グラフィック社刊

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版)。

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