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SEKAI NO OWARI、『Eye』『Lip』で増したプロダクションの説得力 より開かれ精緻な世界へ

リアルサウンド

19/2/28(木) 7:00

 SEKAI NO OWARIが、ニューアルバム『Eye』と『Lip』を2作同時リリースした。クラシック、ロック、ダンスミュージックなど、メンバーの持つ多彩な音楽的素養が入り混じった折衷的な音楽性に加え、寓話的な物語を片手に現実の世界へと切り込んでいくアプローチはこの2作でも健在だ。というかむしろ、彼らのそうしたアプローチが、プロダクションがより緻密に大胆になったことでより説得力を増した印象がある。自分はこれまで、セカオワが描こうとしていたビジョンを誤解していたのかもしれない、と思ってしまうほどだ。

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 先述したように、楽曲の持つキャラクター自体は、これまでのセカオワが持っていた魅力の延長線上にある。いちからがらっと作風を変えたというようなことでは決してない。ストリングスなどが担うクラシカルな旋律、エレクトロハウスやEDMマナーの構成、あるいはマーチングバンドを思わせる勇壮なアレンジ等々、これら2枚のアルバムのなかに詰め込まれた要素はどれも彼らがすでにかたちにしてきたものだ。しかし、この2作において、セカオワの世界はいままでにない没入感を獲得している。

 目新しく感じられる要素としては、たとえば『Eye』収録の攻撃的なエレクトロハウス「Food」や「Re:set」、「Witch」でフィーチャーされているTB-303のアシッドサウンドだろうか。ダンスミュージックではもはや定番のサウンドながら、先述の2曲では硬質さとミニマルさが強調され、ボディミュージックやインダストリアルがリバイバルしつつある現在の空気感にもフィットしている。一方、同じ303が『Eye』のラストを飾る「スターゲイザー」(2017年のシングル「RAIN」カップリングでもある)ではメロディアスなリフで楽曲をサポートしているのも面白い。

 興味深いのは、トラップやEDM、ネオソウルといったわかりやすい「今風」のアレンジではなく、ブーンバップ、エレクトロハウス、90年代の和製R&Bなどを彷彿とさせるサウンドを採用しているところ。とりわけ『Eye』収録の「ドッペルゲンガー」や『Lip』収録の「YOKOHAMA blues」は、洒脱なコード進行にファンキーなカッティングギターやベースラインが心地よく、都会的なR&BのフレイバーがJ-POPに浸透した90年代後半(わかりやすく言えば、「夜空ノムコウ」に至るまでのSMAPなど)に思わず思いを馳せてしまう。

 このように2枚のアルバムを俯瞰してみると、セカオワは90年代以降のJ-POPを総括するかのような大仕事にとりかかっているようにも思える。そこに加わるバロック的な錯綜する旋律であったり、ケルト音楽風のフォークロア、あるいは歌詞は、日本のポップカルチャーで根強く受け継がれてきたファンタジーの世界観(ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーといった国民的RPGシリーズがわかりやすいだろうか)をJ-POPに接続しなおしているわけだ。ということは、大げさに言ってよければ、日本のポップカルチャーのいち側面の縮図としてこれらを捉えることもできるだろう。

 とはいえ、それは良かれ悪しかれガラパゴスとも揶揄されてきた日本のカルチャーをまるごと抱え込むことでもあり、彼らのこれまでの活動になかなかノレなかったリスナーは、どちらかといえばこうしたドメスティックな感覚に対して懐疑を抱いていたのではないかと思う。率直に言えば筆者もそちら側だった。

 しかし、『Eye』と『Lip』はプロダクションの率直さや、なによりメンバーそれぞれの個性がはっきりと、存分に暴れまわっている快活さは存外なほど風通しがよい。狭い空間のなかにサウンドを詰め込んで整えきってしまうのではなく、分離のよい広々とした音像にまとめているのも風通しの良さの一因だろう。どちらかといえば箱庭的だった世界の壁が崩れたような印象だ。

 SEKAI NO OWARIがこの2作でつくりだした、より開かれ、精緻な世界に没入したあとは、リスナーの側がこれらの作品のなかに込められたメッセージやメタなギミックに向き合う番だと言える。それに賛辞を送るのであれ批判するのであれ、あるいは言葉にするのであれ自分のなかに秘めておくのであれ、考えてみるだけのポテンシャルはある作品だ。(imdkm)

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