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太賀×石川慶監督『十年』対談 「太賀くんはこの世代ピカイチだとずっと思っていた」

リアルサウンド

18/11/2(金) 10:00

 香港で社会現象となったオムニバス映画『十年』(2015年製作、日本公開2017年)をもとに、日本、タイ、台湾それぞれで、自国の現在・未来への多様な問題意識を出発点に、各国約5名の新鋭映像作家が独自の目線で10年後の社会、人間を描く国際共同プロジェクト『十年 Ten Years International Project』の日本版『十年 Ten Years Japan』が11月3日より公開となる。本プロジェクトでは、エグゼクティブプロデューサーとして参加した是枝裕和監督によって、脚本のオリジナリティ・クオリティ・将来性から選ばれた5人の新鋭監督たちが“十年後の今”を描く、5つの物語が展開される。

 今回、リアルサウンド映画部では、『十年 Ten Years Japan』より、徴兵制が導入された日本を舞台に、広告代理店で働く若者(太賀)と、戦争で父を失ったベテランデザイナー・天達(木野花)のやり取りを描いた『美しい国』の石川慶監督と、主演の太賀にインタビュー。是枝監督からのアドバイスや、10年後の日本像、撮影の裏側まで話を聞いた。

参考:その他写真はこちら

ーー今回、『十年 Ten Years Japan』に参加したきっかけを教えてください。

石川慶(以下、石川):この『十年 Ten Years Japan』の発端である、香港の『十年』を僕も観ていたんです。若手の映画作家が集まって、映画を作って、社会現象になるという成り立ち自体がすごく映画的だし、いいなと思っていた時にちょうど声をかけていただきました。だから迷いもなく「やります」とお返事をして、プロットを出させてもらいました。

ーーキャスティングもご自身で?

石川:そうですね。太賀くんに関しては、企画書の段階からイメージキャストでずっと書いていて、なかなか難しいだろうなと思っていたらなぜかOKしていただけて(笑)。

ーー太賀さんは、オファーをいただいたときの心境は?

太賀:すごく嬉しかったです。石川監督にも「なんで出てくれたんですか?」とか言われるんですけど(笑)、むしろ迷う理由がなかったというか。石川監督と一緒に映画を作れることはもちろん、この『十年 Ten Years Japan』という企画に魅力を感じたのもありますし、脚本がとても面白くて素敵だったというのもあって、「すぐにやりたい」と事務所にも伝えました。

ーー今回、是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーとして参加しています。是枝監督のプロデュースによる変化はありましたか?

石川:是枝監督と面談をして、脚本を見ていただいて、本当に細かくアドバイスをいただきました。例えば最初、木野花さんの役はデザイナーではなく、画家という設定だったんです。藤田嗣治がすごく好きで、共感するところもあったので、画家をモチーフにしていたんです。そうしたら、是枝監督が「画家っていうのはどうなんだろうね?」と。「古風な感じがして、それもいいけれど、もうちょっと現代的な感覚にならないか」という話をして、グラフィックデザイナーという設定になりました。それは一例なんですけれど、すごく核心を突いたアドバイスをたくさんいただきながら進んでいった、という感じです。

ーー是枝監督のアドバイスから学んだことはありますか?

石川:是枝さんは元々ドキュメンタリーをやられているのもあってか、キャラクターに対してもテーマに対しても、すごく誠実な方でした。押し付けがましくないというか。政治的なテーマを扱うにしても、自分の意見を表明するんじゃなくて、なるべく「自分の話」として書くようにという話をされていました。太賀くんの役柄に関してもアドバイスをもらって、どういう風に語ればちゃんと伝わるのかを教えてもらいましたね。

ーー太賀さんが演じた渡邊は、広告の営業マンという設定です。

太賀:僕が演じた渡邊は、自分の仕事や行い、振る舞いに疑問を持っていないエリートです。そういった人間が、木野花さん演じる昔ながらのデザイナーに触れ合って、初めて自分の至らなさ、無自覚さに気がつく。その気づく前と後のグラデーションを、約20分間の上映時間で魅力的に提示するという作業は、僕としても楽しくて。

石川:太賀くんの話を聞いていて、この渡邊というキャラクターは、結果的にすごく恐ろしいものに加担しているかもしれないけれど、そこは全然考えずにやってほしいという話を太賀くんにしていたことを思い出しました。あくまでも広告代理店の社員として仕事に邁進している、誰にでも当てはまるキャラクターとして演じる中で、最後に無自覚さに気づくことに意義がある。僕が映画を撮ったりするように、誰しもいろんなことをやって、出来上がったものが、結果的に誰かを傷つけることもあるわけじゃないですか。特別な人の話じゃなくて、誰にでも当てはまるようにしたいというすごく難しいことを太賀くんに要求していたのを覚えています。無自覚さというと、至らない人間を描いているように響いてしまうんだけど、そういう話ではなく、「普通にやっていたら気づかないこと」があるんじゃないかということですね。

ーー今回「10年後の日本を描く」というある種のコンセプトが決まっている中で、徴兵制・無自覚さをテーマにしようと思ったきっかけは?

石川:10年後何があるかなと考えると、東京オリンピックがありますよね。例えば映画の企画も、東京オリンピック前に公開するのか、後に公開するのかでは内容も全然違います。そして東京オリンピックを考えると、やっぱり広告代理店が絡んでくる。10年のスパンで、広告代理店の人が意識的に世論を操作しようとしたら、徴兵制なら世論調査で過半数を超すことはできそうだなってちょっと思ったんですよ。別に徴兵制がいいとか悪いとかという話ではなくて。

ーードラマ『連続ドラマW イノセント・デイズ』、映画『愚行録』の制作を経て、石川監督は何か変化を感じましたか?

石川:ちゃんとコミュニケーションをとりたいという思いは、昔に比べると強いかもしれないですね。こういう話だからこそ、見やすく作りたいなというのはちょっとありました。眉間にしわを寄せながら観るんじゃなくて、気軽に観た後に「でもあれどういうことだったんだろう?」って後で思ってもらえるような作品にしようと。

ーー時間が限られている中での制作だったとお伺いしています。

太賀:衣装合わせが初日で、次から撮影で2日間でしたね。

石川:でも、今思うと、撮影2日だったんだと思うくらい……。

太賀:濃密でしたよね。時間もないですし、僕も僕なりに『美しい国』のことを考えてきて、自分が持ち寄ったものを現場で表現しました。石川監督のビジョンを、言葉というより色んな角度からのアイデアや演技で、映画にしていく作業は2日間ですが、とても贅沢だなと思いました。タイトなスケジュールの中、『美しい国』の中でもすごく重要な、木野花さんと縁側で話すシーンも丁寧に石川監督は演出してくださって。ああいうタイトな現場でもちゃんと撮りたいものを撮るという、石川監督の作品に対する姿勢がすごく誠実だなと思いました。

石川:でも、その代わり予定していたカット数がどんどん少なくなっていって……(笑)。

太賀:そうでしたっけ?(笑)

石川:カット数云々よりもこの芝居を見たい、という雰囲気があったんですよね。後ろからしか撮っていないあのシーンも、前にカメラがまわる予定はしていたんだけれど、その準備で時間がかかるぐらいだったらもうこの角度で芝居が見たいな、と。

太賀:「もういいです! このまま行きましょう!」みたいな(笑)。すると、こっちも気合いが入りますし、ぐっとモチベーションが上がるというか。

石川:あとやっぱり木野花さんが良かったですよね。

太賀:素晴らしかったですね。

石川:僕もまだまだ未熟なので、現場の雰囲気を包み込んでくれるような大きさが木野花さんにはありましたね。

ーー木野花さんと太賀さんのやり取りも撮影期間が2日とは思えないほど、心が通じ合っているように感じました。

太賀:嬉しいです。実際の時間軸でいうと半日ですよね、きっと。

石川:そうですね。

太賀:半日しか出会っていない人間同士がああやって心を通わせるというのは、一緒にゲームするシーンがなければ難しかったと思います。

石川:ゲームのシーンの木野花さん良かったよね。あの動きはなんなんだろうっていう(笑)。

太賀:正解が分からないですからね(笑)。あんなゲームも知らないし(笑)。

ーー現場の雰囲気はいかがでしたか?

太賀:本当にスマートだったような気がします。座組はよくやられている方たちなんですか?

石川:いや、初めましての人もいるし、そうでない人もいるけれども、基本的には横のつながりというか、友達とか「今度1回やってみようよ」と言っていた人たちに集まってもらって。だから、いつもやっている商業分野の作品に比べたら、仲の良い人たちで集まってやったという感覚は現場にもあったかなと。

太賀:監督の吸引力みたいなものはすごくあったと思います。キャストも、迷いなく自分の思う芝居を提示できたというか。後は演出していただいて……っていう。

石川:最近この作品を観直して思い出したんですが、最初は音楽を入れようとしていたんですよ。短編ってやっぱり一気に観る人のテンションを上げないといけないので、音楽で後押しする必要があるだろうと考えていたんです。でも、最終的に音楽を使わずに17分見せきれたのは、太賀くんと木野花さんの会話が意味のやり取りじゃなくて、間柄として成立していたからだと思います。あれは完全に役者の力です。僕がどうこうできるものじゃないので。

ーー石川監督が太賀さんをキャスティングされたのも、それができるという期待から?

石川:そうですね。太賀くんはこの世代ピカイチだとずっと思っていたので。いつか仕事したいという願いが叶った感じですね。

太賀:光栄です。

ーー太賀さんはこの映画を通して伝えたいことはありますか?

太賀:『十年 Ten Years Japan』のコピーとして「未来とは、今を生きること」とありますけど、確かにそうだなと思っていて。この『美しい国』という作品も10年後のことを見据えていますけど、この映画が、観てくださる人にとっても何かを考えるきっかけになってくれれば。

ーー石川監督はいかがですか?

石川:10年後の話をしていますけど、10年後のことって今もう起こっていることなので、未来の話をしているつもりはあまりなかったです。そのあたりの思いは、最後の太賀くんの表情に全部出してもらいました。

(取材・文=島田怜於/写真=宮川翔)

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