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星野源『Same Thing』レビュー 『POP VIRUS』以降のビジョンと新たな刺激を求めて

リアルサウンド

19/10/29(火) 7:00

 星野源が10月14日、4曲入りEP『Same Thing』を全世界配信リリースした。前作『POP VIRUS』(2018年12月)以降、約10カ月ぶりの新作となる『Same Thing』には、Superorganism、PUNPEE、Tom Mischといった国内外の気鋭のアーティストが参加。星野の「『Same Thing』というEPは僕にとって、遊びであり、挑戦であり、音楽家としての叫びです。恐ろしいほどのワクワク感と共に『音楽人生、まだこんなに面白いことがあるのか』と楽しい刺激を常に感じながら制作した最高の4曲です。お楽しみに」というコメントからもわかるように、本作の制作を通して彼は、アーティストとしての新たなモチベーションを手にしたようだ。

(関連:星野源、『POP VIRUS』の可能性 “イエローミュージック”から“ポップ”への移行が意味するもの

 「恋」「Family Song」「アイデア」を含む5thアルバム『POP VIRUS』は、星野源にとって最初の到達点だったと言っていい。前作『YELLOW DANCER』で試みた“現行のソウル、R&BとJ-POPの融合”というテーマをさらに押し進め、現在進行形の洋楽のトレンド(特に斬新なリズムのアレンジ、中低域を強調したサウンドメイク)と重なりながら、日本独自のポップミュージックへと昇華させた『POP VIRUS』は、幅広い層のリスナーを楽しませると同時に、マニアックな音楽ファンを唸らせる理想的な広がり方を見せた。本作を携えた全国5大ドームツアー『星野源 DOME TOUR 2019「POP VIRUS」』でもエンターテインメント性とコアな音楽性を共存させたステージを展開。星野源は完全に日本を代表するアーティストとなった。

 しかし、星野が目指していたのは(おそらく)“日本を代表するアーティスト”になることではない。そうではなくて、できるだけ純粋に音楽を楽しみ、ワクワクし、それをオーディエンスと共有することこそが、音楽家としての彼の動機であり、活動の規模が拡大していくことは”結果”でしかないのだと思う。そして、新作EP『Same Thing』は“『POP VIRUS』以降”の星野のビジョンを示すものであり、彼が再び新たな刺激を求めて動き始めたことの証左なのだ。

 EP『Same Thing』の収録曲を改めて紹介したい。まずは表題曲「Same Thing(feat. Superorganism)」。ロンドンを拠点に活動、ボーカルのOrono Noguchiをはじめ、イギリス、日本、オーストラリア、ニュージーランドなど多国籍のメンバー8人によるバンド・Superorganismとの共作によるこの曲は、英語詞による作詞と作曲を星野、編曲はSuperorganismが担当している。00年代以降のインディーポップの流れを汲みながら、遊び心に溢れたアイデアをふんだんに取り入れたサウンドメイクは、まさにSuperorganism節。軽やかで解放的なメロディと〈I’ve got something to say To everybody, Fuck you〉というリリックの対比も鮮烈だ。

 「さらしもの(feat.PUNPEE)」にはラッパー/トラックメイカーのPUNPEEをフィーチャー。ピアノ、トランペット、ビートによるシンプルかつドープなトラックのなかで描かれるのは、孤独を抱えながら音楽をはじめ、いつの間にか多くのリスナーを得たことに対する戸惑いと喜び。“さらしもの”というワードで自らを表す批評性の高さ、そして、叙情的な手触りの星野のラップが印象に残るヒップホップナンバーだ。

 Tom Mischとのコラボによる「Ain’t Nobody Know」も明らかに新機軸。ソウル、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカなどをルーツに持ち、卓越したギタープレイ、なめらかなボーカルによって現代的なポップスに導くTom Mischのスタイルは星野源の音楽性とも大いに重なっているが(ふたりの交流は今年の夏の対談がきっかけだったという)、この楽曲のトラックは、冒頭のギターフレーズ、ベースライン、キックの音色を含め、Tom Mischのテイストに寄っている。一方、日本語による歌詞は完全に星野源ワールド。〈卑劣が肩を叩けば 笑顔が唾の代わりさ〉に象徴される、ダークな心象風景をポップに描き出すフレーズは、まさに彼の真骨頂だ。

 4曲目には弾き語りによる「私」を収録。悪意に塗れ、希望を持てないまま生きるのではなく、おもしろいことをしたいという思いを綴ったこの曲からは、現在の彼の心情が伝わってくる。

 これまでの楽曲では、作詞、作曲、編曲、サウンドプロデュースをひとりで担ってきた星野源。そのことによって星野は、自身の独創性を明確に示すと同時に、J-POPという特殊なフォーマットをアップデートさせてきた。その次のアクションとして彼が選択したのが国内外のアーティストとのコラボレーション(またはコライト)だった。しかもコラボ相手は、現在のグローバルポップの最先端にいるアーティストばかり。ひとりの音楽世界を突き詰める制作方法から一転、異なるバックグラウンドを持ったクリエイターとのセッションは、彼自身にも大きな刺激と影響を与えたはずだ。実際、本作『Same Thing』に収められた楽曲は、これまでの作品とまったく手触りが違う。端的に言えば、“いまの海外のシーンとリンクしている”ということになるのだが、そこからは彼が貪欲に新しい音を吸収していることが実感できる。ただ、この作品だけで“星野源が完全にモードチェンジを果たした”と断定するのは早いだろう。これからの彼がどんな楽曲を提示するかによって、次のビジョンはさらに明確になるのだと思う。

 もうひとつ指摘しておきたいのは、“コラボレーションを通し、自らの新たな音楽性を模索する”以上に、“コラボ相手の良さを引き出す”ことに重きが置かれている(ように感じる)ことだ。根底にあるのは、“自分が好きな音楽、アーティストをリスナーと共有したい”という願い。そのモードは、10月14日に放送された『おげんさんといっしょ』(NHK総合)にも垣間見られた。今回の『おげんさんといっしょ』では星野とゲストの藤井隆、松重豊が好きな音楽を語り合うパートがたっぷり設けられていた。藤井はDead Or Alive、松重はTom Misch、Louis Coleなどを紹介。さらに星野がNHK教育テレビのドラマ『さわやか3組』オープニング曲を紹介したのだが、このコーナーからは“時代やジャンルに関係なく、素晴らしい音楽を多くの人と共有したい”というメッセージが感じられた。またセッションパートでは、PUNPEEとともにSTUTSの「夜を使いはたして feat. PUNPEE」特別バージョンの演奏も。星野はギターとコーラスを担当し、主役はあくまでもPUNPEEとSTUTSというスタイルをとっていた。「世界で一番カッコいい音をいま出してる自信がある」というコメントも印象的だったが、これはつまり、「自分の存在をアピールするのではなく、“カッコいい音”を聴かせたい」という意思の表れだったのだろう。

 EP『Same Thing』のリリースと前後して、ワールドツアー『星野源 POP VIRUS World Tour』(上海、ニューヨーク、横浜、台北)の発表、ストリーミング解禁、Netflixでツアー映像公開と、世界のマーケットを視野に入れた動きを続けている星野源。『Same Thing』で打ち出した方向性は賛否両論を巻き起こすだろうが、J-POPというフォーマットにこだわり、自身のオリジナリティを追求してきた彼は、2020年以降、日本と海外の垣根を超え、すべてをフラットに捉えたうえで、さらに純度の高い音楽を生み出すことになりそうだ。そのスタンスは、相変わらず内向きな日本の音楽マーケットにも大きな刺激をもたらすことになるだろう。(森朋之)

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