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「上映中にスマホを見る問題」の根本的な解決策は映画館の地位向上? 観客の“熱量格差”を考える

リアルサウンド

19/12/18(水) 8:00

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第41回は“映画館マナーはどこまで厳格化されればいいの?”というテーマで。少し前に「上映中にスマホを見る問題」が論争になったことを受けてです。

参考:「若者の映画館離れ」は本当か? 立川シネマシティが「次世代育成計画」に込めた思い

●映画館とクラシックホールの違い
 映画館映画の頂点『ニュー・シネマ・パラダイス』では、第二次世界大戦後まもなくから50年代の終わりごろまでのイタリアはシチリアにある映画館での鑑賞の様子が描かれます。詳細はぜひ作品をご覧いただきたいのですが、まあ自由で大らかです(笑)。映画的演出の誇張もかなりあるとは思いますが、大人も子供も大騒ぎ。これがシチリア人気質なのか、あるいは時代のせいなのか、その両方かも知れませんが、確かに「映画館」というものの長所も短所も捉えていると思います。

 演劇、コンサート、伝統芸能など、あらゆる大人数で劇場にて鑑賞する娯楽や芸術の中で、映画はもっとも気軽で大衆的なものでしょう。なにしろ同時に世界中で上映することが可能なのですから、生の人間がパフォーマンスするものとはケタ違いの多くの人に観てもらうことが可能です。ということは、多数の人に観てもらえるように作っている、ということでもあります。つまり多くの作品が芸術的というよりは娯楽寄りということです。

 映画館、特にシネコンというのは、業態定義として原則ショッピングモールと複合しているということですから、ターゲットとする客層も概ねショッピングモールの客層ということになります。入場料金の額を踏まえれば、特にビジネス的な観点からみれば、マナーにしても、販売飲食物にしても、設備や接客についても、あまり高いものを要求されても困惑してしまう、というのが率直なところでしょう。

 こういう大人数で鑑賞してもらう出し物で、もっとも厳格なマナーを要求されるのはクラシック音楽のコンサートかと思います。最近は残響コントロールなんかで機械も使うものの、原則生楽器の音のみで演奏されることもあり、かなりの静寂が要求されます。よって飲食禁止なのが普通です。演奏が始まってからは、途中入場不可、曲終わりか次の楽章の切れ目まで、遅れて座席に座ることもできません。

 チケット代も、多くは映画館の何倍かの価格ですし、ほとんどのお客様がかなり前に事前購入して、ふらっと立ち寄るというのではなく、スケジュールを組んで来るわけです。高額な料金を払い、事前に購入してまで劇場に足を運ぶ人は、クラシック音楽を普段から愛聴しているとか、自分も楽器をやっているという方がほとんどでしょう。テレビやネットで話題みたいだから、明日ヒマだし行ってみるか、で気楽に訪れることができるシネコンの観客とは大きく差があります。

 映画館は大衆的なところ、クラシックホールはハイソなところ。極端な言い方をすれば、シネコンがファミレスや居酒屋で、音楽ホールは料亭やフレンチレストランみたいなもの。マナーについてあれこれ議論はあっても、結局ここに落ち着いてしまうのではないでしょうか。もちろんクラシックコンサートでも演奏中にスマホを見る人も、おしゃべりする人もいるにはいますよ。ですが映画館に比べたらその割合はかなり低いでしょう。そういう意味です。

 なのでこのコラムでは、本編中はもちろん、予告やエンドロールでもスマホ使うな問題とか、ティーンがメインターゲットのホラー映画やヤンキーが主人公の映画で中高生が友だちと来てベチャクチャしゃべる問題とか、ガサガサ音をたてて何かを食べる問題を論じるつもりはありません。前置きだけで半分くらい来てしまいましたが、実はこのコラムの本題は「カルチャーの中での映画館の地位向上問題」です。

●熱量の格差問題
 この連載では、いろんな角度から同問題に言及してきましたが、マナー論争もまた、これが根本にあると僕は考えています。時代によって、劇場内での喫煙ができなくなったり(劇場内に「禁煙」ってサインがあるところ見かけなくなってきました)、同じ劇場に座り続けてそのまま続けて別の作品を観るのがダメになったり(これってあまり指摘されないけど実質「大幅値上げ」ですよね)、上映が始まってからの入場に厳しくなったり(名画座ですら大幅に遅れての途中入場は禁止になっています)、鑑賞マナーやルールは大きく変遷してきました。

 ビデオレンタル、衛星放送、ネット配信と、映画を観るための手段が増えてくるに従い、当然、映画館に足を運んでくださる方の熱心な映画ファン率もまた高まっています。時間つぶしやお付き合いではなく、ちゃんと最初から最後まできちんと作品を集中して観たいというファンです。

 しかし、もちろん気軽な娯楽としてポップコーンをつまんで、コーラを飲みながら、肩肘はらず友だちと笑いながら観たい、という方もまだまだ少なくありません。これは熱量の格差問題、とでも呼ぶべきことです。

 この問題を解決するには、映画館に新たな業態が求められている、と僕は考えています。そう簡単ではありませんが、入場料を高額に設定した「ラグジュアリー・シアター」「プレミアム映画館」のような存在の必要性を強く感じます。このことで解決できる映画館をめぐる問題は多いはずです。

 映画館の持つ大衆性の素晴らしさを維持しつつ、熱心なファンが求める快適性やハイクオリティな上映の質も提供するという二兎を追うのは、そろそろ限界がきています。外食なら様々な状況によって、ファストフードにするのか、ミシュランの星を持っている店にするのか選べるように、映画館も選べるようになるべきではないか、と思うのです。しかもあくまでもここでいう「高級館」はシネコンであることが前提です。上映される作品はこれまで通りとさほど変わらなくていい。

 この高級館のほうでは、クラシック・コンサートと同じように、飲食禁止、1分でも遅れたら入場お断り、携帯電波のジャミング、常にスタッフが劇場内に待機して監視する等のことをすればいいのです。今よりも高額な入場料をいただければこれらは可能でしょう。この高級館が存在するということで、大衆館のほうを選んだ場合、隣でスマホをいじっている人間を見ても、まあ安い所を自分で選んだんだし、とある程度はあきらめもつくというものです。たぶん。腹立つとは思いますけど。

 例えば飛行機内でのファーストクラス、ビジネスクラスの存在が、エコノミークラスの狭さを納得させてくれているんじゃないでしょうか。もし一律だったら「飛行機の座席は狭すぎる」と問題になっていると思います。隣のテーブルの酔客の声量の許容値は、そこがチェーンの居酒屋なのか、コース1万円からの店なのかで大きく変化するはずです。

 IMAXやDOLBY CINEMAのような上映形態がある特別劇場は、この機能を果たすでしょうが、やはり建物ごと変えないと大きな効果は望めないと思います。たとえばコンセッション(売店)のフード&ドリンクだって、劇場に持ち込めないルールにするならば、抜本的な変更が必要になるからです。またロビーから「高級感」を醸し出すことが、場内マナーにも影響するからです。

●「ガチ勢」に占められる予約システム
 映画館スタッフのくせに他人事みたいに分析しているけど、お前は現状でなにかできているのか、とお叱りを受けそうなので、シネマシティのことも書いておきます。シネマシティでは、この件については、有料会員制度特典の1日先行Web予約/窓口販売が効果を上げています。もちろん常に有効ではありませんが、人気の上映の場合、この1日で席の大半が埋まることは少なくありません。そうすると、いくらかの会費を支払ってまで会員になり、わざわざ日付変わりのタイミングで予約待機をしてチケットを取るお客様「だけ」がいる上映になるわけです。

 いわゆる「ガチ勢」に占められるので、みなさん作品に向き合う姿勢が全然違いますし、大抵の場合、作品への愛と比例してマナー意識も高いので、とても幸福な劇場空間になります。そんなときは終映後、この人たちといっしょに観られた、そのことに心動かされる場合すらあります。これこそが映画館で観る喜びだと、胸が震えます。

 常には難しいですが、現時点であっても、やりようによっては、こういう空間を生み出すことは可能なのです。……マナー論争とは軸がずれてしまいましたが。

 まとめますね。映画館鑑賞がいつ入って出てもよかった暇つぶしの代表格だった時代は終わり、日時も席も指定する演劇やコンサート鑑賞に近づきつつあります。スマホでも観られるのに映画館でわざわざ観るということは、作品に真剣に向き合いたいという気持ちがあるからです。しかし、産業構造上、大衆的であり続ける必要もありますし、安価で気軽な娯楽としてあり続けて欲しいと望むお客様もたくさんいます。

 繰り返しになりますが、この相反する要望を、一形態で両方満たし続けていくには、観客の熱量の格差が大きくなりすぎた、というのが僕の結論です。映画館も、他の娯楽やサービスのように、大衆/高級の住み分けがあっていいと考えます。

 映画料金問題やマナー問題など、いくつかの問題がこのことによって大きく改善されるのではないかと思います。どなたか、僕に出資していただけませんかね?(笑)。映画ファンの度肝を抜く、あらゆることを考え抜いた最高の映画館を作るアイディアとノウハウがあります。

 You ain’t heard nothin’ yet !(お楽しみはこれからだ)

(遠山武志)

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