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菅田将暉、上白石姉妹、池田エライザ……俳優がシンガーとしても求められる理由 ミュージシャンでは出せない歌の持ち味

リアルサウンド

20/9/21(月) 12:00

 朝倉未来らプロの格闘家が、自分のYouTubeチャンネルのなかで、街の喧嘩自慢を集めて試合やスパーリングをおこなう企画が好きでよく鑑賞している。

 街の喧嘩屋のほとんどは、多かれ少なかれ格闘技経験がある者ばかり。「格闘技をかじったことがある」という経験が自信になっているのか、みんな「倒せると思う」と生意気な口を叩く。そんな荒くれ者たちが、プロのテクニックの前に成敗されるところが痛快だ。

 一方でそういった挑戦者たちの、プロ格闘技ではありえない距離の詰め方、ブンブンと振り回す豪快なパンチなど攻めに攻めまくる姿勢が見ていて楽しい。技術云々は関係ない。彼らの闘いに対する本能的なアグレッシブさは、勝敗をこえた感動を覚えたりする。

 元プロボクサーの亀田興毅・大毅に勝ったら賞金がもらえるAbemaTVの企画では、格闘技経験者を含む一般人が、元世界チャンピオンである彼らに挑戦。参加者は、パンチを浴びてダウンを喫しながらも、何度も立ち上がり、また拳を振り回す。闘い終わったら、素直に相手の強さを認めて頭を下げる。その潔さがまた良い。

 ここで一度格闘技の話題は置いておいて、今回の本題に入る。この数年、映画、ドラマ、舞台で活躍する若手俳優たちが、歌手デビューして歌声を披露する機会が再び増えている。いわゆる「俳優歌手」だ。

森崎ウィン、森七菜、上白石姉妹ら若手俳優が続々と歌手デビュー

 清原果耶は2019年、出演映画『デイアンドナイト』の役名で歌手デビューを果たし、2020年9月2日には、Coccoプロデュースのもと、初主演映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の主題歌「今とあの頃の僕ら」を自分名義でリリース。かつて劇団に所属時には歌の練習もしていたという下地もあって、清らかな歌声が特徴的だ。

清原果耶 – 1st Single「今とあの頃の僕ら 」(Music Video)

 そんな『デイアンドナイト』のプロデューサーをつとめた山田孝之も、「俳優歌手」のひとり。2002年にドラマ主題歌「真夏の天使 〜All I want for this Summer is you〜」でCDリリース。2015年にはテレビドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)のエンディング曲として、山田自身が作詞、吉井和哉が作曲した「TOKYO NORTH SIDE」を良い意味で無骨に歌い上げている。

 そんな山田孝之は、綾野剛、内田朝陽とスリーピースバンド、THE XXXXXX(ザ シックス)を2012年に結成し、7年にわたって活動した。同バンドは2019年、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演。デジタルロックをはじめとする多彩なサウンドは、コアな音楽ファンからも高く評価された。

THE XXXXXX MV「チート」

 森崎ウィンは、2020年7月にシングル『パレード – PARADE』を発表。彼はもともと、俳優デビューと同時に音楽ユニット・PRIZMAXの一員としても活動(2020年3月27日解散)。歌唱力を買われて尾崎豊にオマージュを捧げた音楽映画『シェリー』(2014年)で主演。さらに歌声は披露しないものの、クラシック音楽をあつかった映画として傑作だった『蜜蜂と遠雷』(2019年)で若き天才ピアニストに扮するなど、音楽モノとの親和性がある。

MORISAKI WIN (森崎ウィン) /「パレード – PARADE」(Official Music Video)

 ほかにも森七菜、上白石萌音・萌歌姉妹も歌手として注目度があがっている。森は新海誠監督『天気の子』(2019年)、上白石萌音は同じく新海監督『君の名は。』(2016年)や細田守監督『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、上白石萌音も細田監督『未来のミライ』(2018年)などで声優を担当。映画でみせた声の良さがそのまま歌にも生かされている。

 また、歌手として飛躍が期待されるのが池田エライザだ。池田は8月26日、地上波初歌唱となった『FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ系)で中島みゆきの名曲「時代」をギターで弾き語り。やわらかな歌声は、うっとりと聴き入らせる魅力があった。歌っているときの表情も素晴らしく、特に演奏後半の遠くを見るような眼差しが印象深い。池田は本日9月21日、『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)にも出演し、カバー曲を披露予定。今後、オリジナル曲の発表も待たれるところだ。

うまい、へたでは語れない歌声と表現

 本稿序盤で、格闘家を本業としていない者のファイトスタイルのおもしろさについて触れたが、「俳優歌手」も似た感触がある。歌のレッスンなどを経験しているがそれを本業としていないところは、「アマチュアの格闘技経験者」に近いのではないだろうか(もちろん俳優たちは、本業か否かの分け隔てはしていないだろう)。

 銀杏BOYZの書籍『ドント・トラスト銀杏BOYZ』のなかで峯田和伸は、近年の「俳優歌手」の代表格である菅田将暉と対談。峯田は文中で「本業歌手」と「俳優歌手」について話題をあげている。

 ミュージシャンはボイストレーニング、楽器練習などを日々おこない、技術を磨いてきた者ばかり。「俳優歌手」はそういう経験値では当然敵わない。しかし、ミュージシャン的な巧さでは表せないものを「俳優歌手」は持っていると言う。それは気持ちの部分。感情を前面に出して、自分という存在を赤裸々に音楽にのせて表現を試みているところに、峯田は魅力を感じると話す。

 さらに峯田は、かつてダウンタウンの浜田雅功が小室哲哉と組んだ音楽ユニット・H Jungle with tを例に挙げる。同ユニットの曲を聴いたとき、他種のタレントによる音楽進出のおもしろさを初めて感じたそうで、甲乙では判断できず、ミュージシャンでは出せない歌の持ち味を絶賛している。

 そういえばCoccoも、プロデュースした清原果耶の歌声について、「包み隠さず、何もごまかすことなく放たれる彼女の歌声」と公式コメントを発表していた。

 反町隆史の「POISON 〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜」(1998年)は、「俳優歌手」が醸し出す独特さの最たる例ではないだろうか。当時の反町のワイルドな風貌と雰囲気、そしてドラマ『GTO』の役柄でもあるアウトローな教師像も相まって、歌声の良し悪しではくくれないものになった。社会や大人への反発、疑問をこめた歌詞面も含めて、反町らしさがむき出しとなった曲だ。

 織田裕二にしても、「OVER THE TROUBLE」(1994年)、「All My Treasures」(2007年)、「Love Somebody」(2008年)といった人気曲で見せる陽気さは、パーソナリティをつとめる『世界陸上』(TBS系)で見せる元気の良さ、選手や競技に対するあふれんばかりの興奮、番組中にも関わらず絶頂を迎えるテンションの高さなど、彼本来の性格と通じるものを感じる。

 役者の仕事はいわずもがな、何者かになりきることである。もちろん芝居をする上で、実際の経験を生かすこともある。でも基本的には自分という個の存在を打ち消して、そのキャラクターとして作品のなかで生きることに徹する。そういった俳優たちの知られざるパーソナリティが、歌になったとき、声、歌唱時の表情や動きに自然とあらわれるのだ。

楽曲提供のアーティストも豪華

 「俳優歌手」のパーソナリティや新たな一面を引き出す上で重要なのは、やはり楽曲だ。ちなみに楽曲提供をしているアーティストの面々もとても豪華。

 2019年3月に歌手デビューした高橋一生の曲「きみに会いたい-Dance with you-」は、エレファントカシマシの宮本浩次が作詞作曲。アクティブなダンスチューンで、宮本がバックコーラスとして参加している部分は特に聴きごたえがある。ミュージックビデオでは、ギターを弾きながら熱唱する高橋が映し出されており、俳優時とはまた違った色気が漂っている。

高橋一生「きみに会いたい-Dance with you-」 Music Video Full Version

 菅田将暉とCreepy Nutsによる「サントラ」は、筆者が2020年のJ-POPシーンでもっとも高く評価している楽曲だ。俳優とミュージシャンという仕事が意味するもの、それぞれの現場の光景や取り組み方、そこから生まれる葛藤や苦悩、未来像。菅田は自分の感情を何かにぶつけるように歌い、R-指定も菅田の想いに呼応する。DJ松永のプレイも勢いにあふれている。歌詞についても非常に理知的なのだが、そういったロジカルな部分を忘れてしまうくらいエモーショナルな楽曲で、なおかつ俳優、ヒップホップユニットとしてのそれぞれの存在感が際立っている。

Creepy Nuts × 菅田将暉 / サントラ【MV】

 菅田といえば、米津玄師とのコラボレーションも有名だ。米津は、2018年3月8日放送『news zero』(日本テレビ系)のなかで、「デュエットという形で曲を作り、音楽家として違うところにいけたような気がした」と菅田との共演について振り返っている。

 米津はかつてハチ名義でボカロPとして活動し、自作曲をボーカロイドの声に託していた。しかし、2010年代でもっとも重要な役者のひとりである菅田将暉の声と身体を通して、「灰色と青(+菅田将暉)」(2017年)という傑作曲を生み、「まちがいさがし」(2019年)をプロデュースしたことは、米津のヒストリーと菅田の肉体性の関連をまじえてじっくり考察したくなる。

菅田将暉 『まちがいさがし』

菅田将暉の曲は、彼が歌うことで成立できるものばかり

 ただ、「俳優歌手」がクローズアップされつつあるなかで、知名度や話題性に頼り、「一定数売れるから」という感じで人気俳優を歌手デビューさせ、またアーティストが本人と何の脈絡のない楽曲を提供することだけは避けてほしいところだ。

 楽曲を提供するアーティストたちは、歌い手となる俳優たちをリサーチすることが大切だ。どんな考え方をしているのか、どのような現状なのか。場合によってはそれまでの出演作、芝居を見ることも必要になるだろう。自分自身の音楽の世界観を発揮しながら、しかしあくまで自分が歌う曲ではないので、本位的になりすぎず、俳優のイメージに寄り添って曲を作る。むしろアーティストの方が演技をする感覚でその俳優になりきって、曲を作っていかなくてはいけないのでは。

 先述の米津は、映画やドラマでいうところのアテ書きのような形で菅田のために曲を作ったそうだ。米津は、菅田の人物的に興味を抱き、また自分では出せない声に着目し、「菅田将暉じゃないと歌えない曲」を書き上げた。そういった過程のなかで米津自身「音楽家として違うところにいけた」と進化を実感できたのだ。Creepy Nutsとの「サントラ」も然りだが、菅田の曲の多くは、彼が歌うから成立する要素が強い。

 清原果耶の「今とあの頃の僕ら」も見事である。清原演じる主人公の名前がつばめで、映画では空を見上げる場面が象徴的に登場する。作詞作曲のCoccoは、劇中の清原の演技とつばめのイメージを、楽曲に丁寧に落とし込んだ。「空」「鳥」「星」といったワードも散りばめて、清原が歌う意味をしっかりと含めた。

 俳優たちはおそらく、たとえどんな曲であっても、その世界観をうまく演じることができるだろう。でも私たちが聴きたいもの/見たいものは、音楽を通して浮き出てくる素顔や新しい顔だ。歌で本音を聴かせてほしい。それが「俳優歌手」に期待することである。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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