Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

モーニング娘。以降主流になった“人員変動” メンバー加入&卒業システムがアイドルシーンに与えた影響

リアルサウンド

20/12/6(日) 6:00

 大手事務所所属からセルフプロデュースまで、地上と地下を合わせて全国に数千組が活動していると言われている女性アイドルシーン。その多くのグループが経験していることと言えば、メンバーの新加入と卒業・脱退だ。

 メンバーを頻繁に入れ替えながら第一線で長く活動しているアイドルグループの筆頭は、モーニング娘。だろう。1997年9月の結成から8カ月後の翌年5月に保田圭、矢口真里、市井紗耶香が加入し、1999年4月には初期メンバーの福田明日香が卒業。4カ月後に後藤真希が加入し、その後も石黒彩の卒業、石川梨華、吉澤ひとみ、辻希美、加護亜依の加入など、結成から3年も経たないうちに人員変動が繰り返された。

 特にメジャーデビューして間もないうちに保田圭、矢口真里、市井紗耶香を新たに迎えた展開には、メンバー、ファンも抵抗感を隠せなかった。その後の福田明日香卒業も、グループの中心格とあって大きな動揺が流れた。当時、トップクラスのアイドルグループがメンバーの入れ替えを何度も実行することは異例中の異例だった。

 一方のプロスポーツ界では、1993年に始まったJリーグでトレードや入退団が活発におこなわれ、同年にはプロ野球もFA(フリーエジェーント)という選手のチーム移籍の新たなシステムを導入。社会全体としても、従来の「生涯でひとつの会社に身を捧げて定年を迎える」という考え方に変化が生まれてきた。組織の血の入れ替えに対する意識が刷新されはじめた時代である。

メンバーの新加入と卒業・脱退は何が大変なのか?

 スポーツチームや企業で人の入れ替えがあった際、当然ながらそれぞれの役割、立場なども変わる。アイドルグループも同じで、それによってデメリット、メリットも生じる。アイドルグループでメンバーの卒業や脱退があったときのデメリットは具体的に何なのか。

 まずわかりやすいものとしては、ファンが減少する恐れがあるということ。推しメンの卒業・脱退とともに他界(そのグループを応援することを辞める)、ヲタ卒(アイドルファン自体を辞める)をするファンもいる。アイドルシーンは集客数で人気や実力の判断がなされてしまうため、ファン減少はグループとしてはかなり痛い。

 また仲間の卒業や脱退は、既存メンバーのモチベーション低下につながることもある。誰かが辞めると「自分も」と流されるメンバーも出てきたりする。プロデューサーや運営は、いかに既存メンバーの気持ちを切らさないかが重要になってくる。

 音源リリースに向けてのレコーディング、ジャケット撮影、ミュージックビデオの制作などを済ませていたら、作り直しをするかどうかの選択を迫られたりもする。最善策は、メンバー卒業と音源リリースのタイミングを合わせる形で「卒業シングル」としてリリースし、メンバーを送り出すこと。ただ、メンバーと運営の方針の違いや衝突などによる急な卒業・脱退も多く、円満に進まないのがアイドル界の現実である。卒業・脱退は多かれ少なかれ予算的なダメージがある。

 新しいメンバーがグループに入るときも、難関がある。たとえば、新メンバーが持ち歌の歌詞と振り付けをすべて覚えなければいけないこと。どんなグループでも、20分から30分のライブ時間枠をこなすために、最低5曲は持ち歌を用意している(5曲未満だと、曲間のMCがやたら長かったり、全公演のセットリストに変化がなかったり、一度のライブで同じ曲を何度も演奏したりする事態に……)。活動歴が2、3年くらいのグループとなれば持ち歌10曲以上ばかり。新メンバーは、デビュー前はレッスンや個人練習漬けの毎日を送ることになる。完成度があがるまで時間を要するため、グループの成長に遅れが出ることもある。

 誰かが加入したり卒業・脱退したりする際は、既存メンバーたちのダンスフォーメーションや歌割りにも影響が及ぶ。もし6人組のグループから2人減って4人組となり、数カ月後に3人増が決定しているパターンなら、既存メンバーは、全持ち歌において「6人組から4人組になったバージョン」と「3人増えて7人組になるバージョン」を同時進行で制作しなければならない。これはかなり大変な作業だ。

つんく♂がモー娘。のメンバーを何度も変動させた理由

 モーニング娘。の新加入と卒業・脱退の繰り返しは、当時としては違和感も含めて斬新さがあった。そして現在では多くのグループが、当たり前のようにメンバーチェンジを繰り返している。常時、新メンバーを募集しているグループも少なくない。全国的にアイドルグループがたくさん立ち上がり、さらに昔のようにアイドルを名乗ることへのハードルが低くなったことから(その良し悪しは別として)、「アイドル活動をやってみたい」と興味を持つ女性が増えたことも、新加入増加の要因のひとつになっているのではないか。

 アイドルとしてステージで歌い踊る気持ち良さや、ファンに支持される喜びを味わうと、そこから抜け出せなくなり、結果としてさまざまなグループを転々とするパターンもある。もちろん、自分の存在意義を求めてアイドルシーンを渡り歩く者もいる。そういったアイドル経験者はすでに一定数のファンを抱えていることから、即戦力として「自分のグループに入らないか」とスカウトする運営も多数存在する。こういったことも入れ替わりの頻繁化につながっている。

 モーニング娘。の生みの親・つんく♂は、筆者がおこなったリアルサウンドでのインタビューで、「メンバーは固定した方が良いか、それともどんどん動かすべきか」という質問に対しこのように答えている。

「作品をつくる上では、急な脱退は大変です。多人数でのボーカルユニットであるならば、メンバーの変動はアリですね。でも最近のアイドルグループの状況を見ていると、マネージメントの力量不足で引き止められなかったメンバーの補正のために、新メンバーを募集している感が否めない。「作品づくりのため」という感じがしないんです」

 つんく♂は、問題点を指摘した上で、作品づくりという点においては、メンバーの入れ替えはグループに良い効果を与える可能性があると話した。

メンバー16人が入れ替わったアイドル「マンネリ化を防いで新しいトピックス発信」

 2014年の結成から6年間で既存メンバー含め計16人が入れ替わるなど不安定ななかで活動を続け、近年では人気アイドルイベント『ギュウ農フェス』などにも出演するまでに成長した大阪の地下アイドルグループ・くぴぽ。唯一のオリジナルメンバーでもあるリーダー兼プロデューサー、まきちゃんはメンバーの入れ替えについて「ファン心理のなかにある人間本来の性質が、自分たちのグループ作りに影響しているかもしれません」と分析する。

「アイドルファンはどうしても新しいグループ、デビューしたばかりのアイドルに目が移りがちになる。というか、アイドルファンは新しいものを好きになりやすいんですよ(笑)。でも興味の対象が移り変わるのは、人間本来の性質として当然のこと。ずっと好きだったメンバーであっても、ひとりの女性を見守り続けるには根気がいると思うんです」

 メンバーを固定することで、ライブのパフォーマンスは間違いなく安定する。しかし、アイドルにおいてはこの「安定」という言葉が、時には逆効果になることもある。ある一定のラインを越えてヒットしているグループに関しては「安定」が重要かもしれないが、そこに上りつめるまでは、絶えず変革させて揺さぶりをかけた方が良いこともある。

 まきちゃんは「メンバーの新加入は、マンネリ化を防ぐためのひとつの手段でもあります。そうすることで、既存メンバーやお客さんに新しい刺激を与えることができる。新メンバーが入ったときは、ライブの集客数が増えることもあります。新メンバーをきっかけに「初めてライブを見た」という人がそのままファンになってくれて、友だちを連れてライブに来てくれたりする。活動を長く続けていると、新しいニュースって少なくなる。でもアイドルはトピックスを常に発信し続けなきゃいけない。そういう意味で、新メンバー加入は起爆剤になります」と語る。

 ただ、「今まで13人のメンバーが卒業・脱退していきました。誰かが辞めるというときは等しく傷ついています。当然、誰かに辞めてほしいなんて考えたこともないですから」と、まきちゃんは複雑な心境も口にする。それでも「その都度、新しく入ったメンバー、残ってくれたメンバーたちと一緒に頑張ろうという気持ちになる。長い目で見たとき、メンバーの入れ替えをマイナスに思いたくない。メンバーが頻繁に変わったからこそ、6年もグループを続けることができています」と前向きに活動している。

 確かにまきちゃんが言うように、メンバーの入れ替えを続けることで、半永久的にグループを持続させることが可能だ。モーニング娘。は2014年以降、グループ名に西暦下二桁を表記して、長期的に活動していく気概満々である。いつの日かロックバンド、The Rolling Stonesのような長寿グループがアイドルシーンにも現れるかもしれない。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む