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井上陽水は音楽で遊ぶーー新曲「care」にある“天然のミクスチャー感”

リアルサウンド

18/7/25(水) 18:00

 井上陽水の新曲「care」を初めて聴いたのは、春から夏にかけておこなわれた『井上陽水 コンサート2018 ROCK PICNIC』のファイナル公演(7月3日ZeppDiverCity TOKYO)だった。「“気をつけて、お嬢さん”という歌です」という紹介から始まったこの曲は、夏のムードをたっぷりと詰め込んだサウンドと軽やかなメロディがひとつになった、きわめて魅力的な楽曲だった。

 「Love Rainbow」(2009年)以来、約9年ぶりのシングルとなる「care」。ポカリスエットの「気をつけてお嬢さん」篇の新CMソングとしても話題を集めているこの曲は、独特の“軽み”と音楽的な奥深さが同時に感じられるナンバーだ。まずはサウンドメイク。飛び跳ねるような裏打ちのビート、心地よく響くホーンセクション、カラフルなシンセのフレーズなどを織り交ぜたアレンジは、レゲエ、サーフィンホットロッドなどの要素がナチュラルに共存している。このプロダクションは、ありとあらゆるジャンルを縦横無尽に網羅してきた井上陽水の特徴をはっきりと示している。先述したライブでも感じたことだが、彼の楽曲にはさまざまなファクターが反映されている。ロックンロール、フォーク、ラテン、サイケデリックロック、タンゴ、ブルース、ファンク、歌謡……と挙げていけばキリがないほど、とんでもなく豊かな音楽要素が内包されているのだ(矛盾するようですが、個人的には“井上陽水は一貫してロックンロールをやっている”と思っていますが)。それはおそらく「次はこのジャンルをやってみよう」という意図的なものではなく、陽水が生み出す歌のなかにあらかじめ存在していて、それが自然と滲み出てくるのだと思う。“天然のミクスチャー感”と呼ぶべき陽水の音楽世界。その最新型が新曲「care」ということだろう。もちろんボーカルも素晴らしい。トロピカルかつエキゾチックなサウンドを心地よく乗りこなしながら、能天気な解放感と豊かな倍音を同時に表現。これもライブを観るたびに感じることだが、一瞬で空間を自分の色に染め上げてしまう伝播力、濃密なグルーヴを含んだボーカリゼーションは、まさに唯一無二だ。

 歌詞のことにも触れておきたい。〈気をつけて お嬢さん〉というサビのフレーズが示す通り、一聴すると“夏は危ないから、気を付けてね”という(まるでアメリカのオールディーズのような)素朴なテーマなのだが、〈悪いハートのお金持ちは とーぜん夢見病〉〈世界は 夢ばかりで〉といったラインからは、現代社会に対するシニカルな視線、もっと言えば批評的なスタンスも透けて見える。“なんだかみなさん、フワフワと夢みたいなことばかり言ってるようですけど、大丈夫ですか?”というわけだ(本人に聞けば“大した意味なんてないですよ。耳触りのいい言葉を並べただけです”と言われてしまいそうな気もするが)。

 カップリング曲の「MUSIC PLAY」も絶品。最新鋭のトロピカルハウスをベースにしながら、エッジの効いたギターサウンド、厚みのあるハーモニーなどを加えたダンストラックに仕立て上げているのだ。バウンシーなメロディを響かせるボーカル、語感のおもしろさを押し出したリリック、〈FU FU FU 恋は最高〉というキャッチーすぎるサビのフレーズを含め、“らしさ”と“新しさ”を融合させるバランス感覚も素晴らしい。

 「care」「MUSIC PLAY」は7月25日のCDリリースに先がけ、すでにダウンロード・ストリーミング配信されている。従来のファンの方はもちろんだが、ぜひ、30代以下の若いリスナーにも聴いてほしいと思う。50年近いキャリアを持つ、日本の音楽シーンの巨人は、いまなお新鮮なポップミュージックを生み出し続けている。この2曲を聴けば、誰もがその事実をはっきりと確信するはずだ。

井上陽水 care (short Ver)

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■リリース情報
『care』
配信:6月8日(金)
CD:7月25日(水)¥1,080(税込)
<収録曲>
M1.care
M2.MUSIC PLAY

■関連リンク
井上陽水オフィシャルサイト

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