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Busker Buskerが一つのきっかけに 韓国路上ライブ=バスキン、歴史と流行ジャンルの変遷

リアルサウンド

19/11/1(金) 7:00

 バスキン(Busking)とは、大道芸、路上ライブ全般を指す言葉だ。日本ではあまり聞き馴染みのない単語だが、K-POPに関心のある人なら、きっと一度は聞いたことがあるだろう。この言葉を聞いて、デビュー前のアイドルの路上ショーケースや、K-POPカバーダンスを連想する方も多いのではないだろうか。

(関連:“大人数グループ”はなぜ韓国で発展を遂げた? SUPER JUNIOR、IZ*ONEら誕生背景から考察

 しかし、実際韓国で「バスキン」といえば、どちらかというと歌唱・演奏のパフォーマンスを連想する人が多いように思う。それはおそらく、この「バスキン」という言葉が韓国国内で盛んに使われるようになった一つの要因が、人気オーディション番組『SUPER STAR K3』出身アーティスト・Busker Buskerにあるためだ。

 今回は、韓国のバスキン文化の歴史と流行ジャンルの移り変わりについて、映像と共に掘り下げてみようと思う。

 1961年から20年以上に渡り続いた軍事政権の下、韓国では長らくの間バスキンや大道芸などの行為はタブー視されていた。しかし、その後の民主化・文化開放に伴い、バスキン文化も徐々に花開くこととなった。

 バスキンの聖地は今でこそ弘大と言われているが、その発祥は実は大学路なのだそうだ。1980年代後半、大学路の路上で大学生が始めたアコースティックライブが、現在のバスキンの歴史の始まりだと言われている。大学路出身のバスキンアーティストとして有名なのは、マロニエ公園で30年近くもの間バスキンを続けてきたキム・チョルミン&ユン・ヒョサンというデュオだ。

 ギャグや観客とのトークを交えながらの独特なライブを行っており、名物アーティストとして老若男女から人気を博していたのだとか。

 その後、大学路の商業化が進むにつれ、よりアンダーグラウンドな環境を求めた若者たちは徐々に大学路から弘大へと活動拠点を移し、バスキンの聖地もやはり弘大へと移動していった。1990年代末から2000年代前半にかけては、普段はライブハウスで活動しているインディーズ系バンドがゲリラ的にバスキンを行ったりしていたそうだ。

 当時弘大でバスキンを行っていたというパンクバンド・Crying Nutの代表曲「Deep In The Night」は、アマチュアアーティストによるカバー曲として、今でも耳にすることのある一曲である。

 そして2010年代。『SUPER STAR K』や『TOP BAND』などのサバイバル番組がヒットしたことをきっかけに、韓国国内でソロ歌手やバンド形式のアーティストに対するマス的な再評価が進み、「バスキン」という言葉も一気に市民権を得ることとなった。これには、冒頭にも記したBusker Buskerというバンドが多大な影響を与えている。

 「大道芸(=バスキン)をする人」を意味する単語を冠したBusker Buskerは、元々、忠清南道・天安の路上ライブ文化を作ることを目的に結成された音楽集団出身だ。彼らの名が売れたことで、「バスキン」という単語も自然と広まっていったのである。

 春先に弘大へと赴けば、今でもかなりの確率で彼らの代表曲「桜エンディング」のカバー演奏を聴くことができるだろう。

 Busker Buskerの大ヒットを筆頭に、バスキン出身という経歴は一種のステータスと化し、2010年代前半には多くのバスキン出身アーティストが大衆人気を博すようになった。例えば、『SUPER STAR K4』に出演しTOP4入りをしたホン・デグァンは、軍隊除隊後、アーティストを目指して日々弘大でバスキンを行っていたそうだ。

 「アメリカーノ」で一世を風靡した10cmも、弘大のバスキン出身アーティストとして有名だ。結成当時2人組グループだった彼らは、地方から上京後、バンド練習と商いを兼ねてしばらくの間弘大でバスキンを行っていたのだとか。

 前述した通り、特に弘大におけるバスキンはバンドやソロ歌手の演奏を主として発展してきたが、2015年を過ぎた頃から、ダンスグループによるK-POPなどのカバーダンスが目立つようになった。それまでにもバスキンとしてダンスが行われることはしばしばあり、実際に筆者も弘大などで路上ダンスをする若者を見たことは何度もあったが、フリースタイルなどのHIPHOPダンスであることが多かった。

 バスキンにおけるカバーダンスの増加は、世界的なK-POPブームの後押しに加え、『SUPER STAR K』の後を継ぐサバイバル番組として国民的人気を博した『PRODUCE 101』シリーズなどのアイドルグループオーディション番組の影響があるのではないかと思われる。

 実際、『PRODUCE 101 シーズン2』出身のJBJメンバー(2018年に解散)、キム・ドンハンは、かつて、弘大を中心に活動するDOBというカバーダンスグループに所属していた。

 また、アイドルがデビュー時や新曲発売時に行うショーケースが、「バスキン」という名目で実施されるケースも年々増えている。今年8月にデビューしたばかりのN.CUSも、弘大に次ぐバスキン名所・新村でデビュー記念のバスキンを行っていた。

 このような公開ショーケースは、以前であれば東大門・ミリオレの野外ステージなどで開催されたり、あるいは「ゲリラライブ」の名称で行われることがほとんどだったが、最近はあえて「バスキン」と呼ぶことで、インターネットやSNSでの話題化を狙っているように見受けられる。

 このように振り返ってみると、韓国のバスキンはアマチュア/インディーズ音楽シーンにおける役割を持ちつつも、マス的な流行の影響を受けたり、逆にマスプロモーションに影響を与えたりしながら、日々変化しているようだ。まだ知られていないアーティストの発掘といった観点だけでなく、大衆的な音楽の流行を追う上でも、現地でのリアルタイムなバスキンをチェックすることは非常に有意義なのではないかと思われる。

 参考に、YouTube上には弘大や新村で行われている様々なバスキンを撮影した動画を公開する「Daily Busking」というチャンネルがある。日本語字幕の付いた動画もあるので、韓国のバスキンに興味を持った方はぜひ一度ご覧になってみてはいかがだろうか。

 また、ソウルに足を運ぶ際には、ぜひ街中での生のバスキンにも注目していただきたい。(飯塚みちか)

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