Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

超豪華ラインナップ! ディレクターが語る「東京フィルメックス2020」の注目ポイント

ぴあ

第21回東京フィルメックス

毎秋に開催される映画ファン恒例の映画祭「東京フィルメックス」が今年も10月30日(金)に開幕する。例年、フィルメックスは11月下旬に開催されてきたが、今年は会期を変更。様々な変化があるが、上映作品はこれまで以上に多様で豪華なラインナップになった。今年のフィルメックスはどう変化するのか? これからどうなっていくのか? 市山尚三ディレクターに話を聞いた。

2000年12月にスタートした東京フィルメックスは会期や会場を変化させながら昨年、記念すべき20回目を迎えたが、今年も変化を続ける。大きなポイントとして今年からフィルメックスは東京国際映画祭(TIFF)と連携。ふたつの映画祭が同時期に開催される。

「去年のヴェネチア映画祭で(東京国際映画祭の)安藤(裕康)チェアマンとお会いしたんです。安藤さんとは以前から知り合いだったので食事をすることになって、そこで出てきた話ですね。ベルリン映画祭でも改めて話をして、具体的に動き出す段階でコロナにはなったんですけど、コロナになる前から話は出ていましたし、コロナ対策でやっているわけではないんですね。だから来年以降も問題がなければ連携は続けていくつもりでいます。

最初にフィルメックスをはじめた時は、TIFFと同じ時期にやると埋没してしまうのではないかと思っていたんです。でも、あれから20年経って、メディアの環境も変わりましたし、フィルメックスも20回続けてきたので埋没することはないだろうと。それよりもTIFFと同じ時期にやることでマーケットの期間に来る人や関係者が、フィルメックスに来ている監督たちと交流する機会になるし、コネクションを広げる意味では同じ時期にやった方がいいと思ったんです。映画を観るだけなら配信やブルーレイでもいいと思うんですけど、人と人と出会うことは映画祭が保持しなければならないところ。今年はリモートでやることもありますけど、人と人が出会う場は絶対になくならないと思います」

今年はコロナ渦のため一部のQ&Aはリモートで開催されるが、ホームグラウンドの有楽町朝日ホールをはじめ会場での上映が行われ、例年以上に豪華な作品が揃った。

「今年上映される作品はどれもコロナの騒ぎが起こる前に撮影されたものが多いと思うんです。とは言え、今年は大丈夫なんだろうかと思ったことも正直に言うとあったんですけど、ヴェネチア映画祭にコンペ作品で上映したいと思える映画が次から次へと出てきたんで安心したというか(笑)。だから全然困ることもなく、逆に開催期間の関係で泣く泣く落とした作品もありました」

その中で今年は万田邦敏監督の新作『愛のまなざしを』がオープニング作品に選ばれた。

「いろんな選択肢はあったと思うんですけど、一番クローズアップしたいと思ったのが『愛のまなざしを』でした。オープング作品として上映することで注目は集まると思いますし、オープニングとして上映するに値する本当に素晴らしい作品でした。万田さんの作家性が全面に出ている映画で、ブレないで撮り続けている監督なのでオープニングに是非!とお願いしました」

さらに特別招待作品にはこれまでフィルメックスでも繰り返し紹介されてきたアモス・ギタイ、リティ・パン、ツァイ・ミンリャン、ジャ・ジャンクー、ホン・サンスら世界の映画祭で名を馳せる作家たちの作品が並んだ。

「常連監督だから、ということではなくて毎回、ちゃんと作品を観た上で良いものであれば上映したいと思っています。だから、この監督の中ではいまひとつだなと思えば上映しないこともあるんですけど、今年の作品はどれも上映するべきだと思うものでした。逆にコンペティション部門はフィルメックス初の監督の作品が多くてフレッシュな顔ぶれになったんですけど、それも結果としてそうなっただけです」

映画祭が20年続き、世界の名だたる映画作家たちとコネクションができることで良いこともあるが、“しがらみ”も生まれたりはしないのだろうか?

「監督と映画祭とのつながりがあるから上映されているな、と観客の方に思われるようなことがあったら、映画祭の信用がなくなってしまうので、そこはクオリティのあるものを上映してきました。フィルメックスの場合はそもそも日数も限られていて、選べる本数に限りがあるので“しがらみ”の入る余地がないんです(笑)。上映する枠がもっとたくさんあれば『これはいまいちだけど上映しておくか』みたいなこともあるのかもしれないですけど、フィルメックスは本数が少ないので変な映画が1本でも入ってたら目立つんです(笑)。そこは妥協できない部分ですよね。

今年は本当に力のある作品が揃っているので、コロナになったりはしているのですがパワーダウンはまったくしていないですし、世界の様々な問題を扱っている作品が揃っています。アゼルバイジャンとアルメニアが戦闘状態になりましたけど、今年のフィルメックスは両方の国の映画(アゼルバイジャン=メキシコ=米の『死ぬ間際』と、仏=アルメニア=ベルギーの『風が吹けば』がどちらもコンペティション部門で上映)が上映されるんですよ。それにアルメニアの映画はまさに今回の火種になっているナゴルノカラバフ地区の話なんです。映画の舞台は1990年代ですけど、描かれていることが今に結びついている。このような問題はコロナに関係なく起きていますし、まさにいま直面している問題を扱った映画だけを取り上げるつもりはないですけど、何年か経ってみると、“あの時だからあの映画が上映されたんだな”と思うことがあると思います」

また今年は原一男監督の『水俣曼荼羅』(369分)、C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム監督の『仕事と日(塩谷の谷間で)』(480分)、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の『繻子の靴』(410分)など長尺の作品が多い。

「原監督はすごい監督だと思います。『水俣曼荼羅』は監督から連絡が来て、休むことなく6時間ぶっ通しで観て、すぐに上映させてくださいと連絡しました。期待以上のものでしたね。長尺の映画は長い分、ほかの映画が上映できなくなるので、映画祭としては考えなきゃいけないんですけど。

長尺の映画が増えているのは、興行にかける作品の選択肢が増えて、2時間を超えるものであっても上映してくれる劇場は上映してくれるようになったからだと思います。90年代だったら4時間もある映画は"短いバージョンはないんですか?”って言われていたと思うんですけど、いまは長い映画を映画館できっちり観るお客さんがある程度いる。『サタンタンゴ』がヒットしていたり世の中の変化を感じます。

もちろん、ダラダラと長いだけの映画だと退屈するので、その映画が4時間、6時間必要なんだと思わせるものができるとお客さんはついてくる。その結果、今回は長い映画が3作品にもなってしまったので会場を変えたりしながら上映することになりました。上映時間だけみて頭ごなしにやめようというのではなくて、良いものであればちゃんと上映しようと。映画と配信が組むことが増えると、上映時間を気にする必要がなくなる。30分でもいいだろうし、4時間でもいい。これから映画館という制約を超えてさらに自由になっていくと思います」

東京フィルメックスは20余年の間に変化を続け、ネット配信やVR映画など、映画制作や視聴環境の変化に柔軟に対応してきた。

「今年は諸事情でできないんですけど、VR作品は面白いものがどんどん出てきているので今後もやっていきたいと思っています。クラシカルなタイプの作品しか上映しないとなると、映画祭がつまらなくなっていく。ベルリンとかヴェネチアだとテレビシリーズを上映することもあるんですよ。だから今後も面白いものがあれば上映するということになっていくと思います。

映画祭もやはり同じことをずっとやっていても面白くないというのはあります(笑)。いつも新しいことをやっていきたいですし、試行錯誤しながらやってみたけど続かないとか、これは続いたとかあると思うんですね。今年3月、フィルメックスを京都でもやったんですけど、満席になる回もあって、これからもやっていきたいと思っています。それと今年からリモートで上映することもやってみたいと思っています。コロナで一部の会場のキャパが半分になるのと、地方から東京に来られない人も多いと思うので、許可の出た作品だけの上映にはなるんですけど、地方にいてもフィルメックスの作品を観てもらえる。

この話は去年あたりから話は出ていたんですけど、去年までだと海賊版の問題も含めていろんなところから反対されたと思うんですよ。ところが今年はコロナのためにいろんな映画祭がリモートで開催して、そんなに海賊版が出回ったりすることはないことがわかったんで、今回の上映作品でもセキュリティのちゃんとしたサーバーで上映すると説明すると、ヨーロッパのエージェントはOKしてくれる。去年までだったら、ここまでのOKは出なかったと思います。

もちろん、リアルな映画祭の開催は究極的な目的ではあるんですけど、映画祭に来られない人にも作品を届ける努力をしなきゃいけないし、コロナのために配信ができることがわかったので、来年以降も続けたいなと思ってます。とは言え、最終的には映画祭は同じ場所にみんなが集まることに意義があるので、呼べるのであれば全員呼びたい。そこは変わらないです」

フィルメックスの魅力は会期や会場数をいたずらに拡大することなく、厳選された作品を観客も審査員もゲストも同じ会場で観て、ロビーで映画人たちが自然に交流し、そこから新たな作品が生まれたり、未来の映画作家が育つ土壌をつくってきた。そして今年も秋に東京フィルメックスはこれまで以上に豪華な作品を揃えて会場で開催される。そして配信を通じてさらに映画祭への参加者を増やそうとしている。映画の現在と未来が見える映画祭は今年も大きな盛り上がりを見せそうだ。

「第21回東京フィルメックス」
10月30日(金)から11月7日(土)までと11月22日(日)
TOHOシネマズ シャンテ/ヒューマントラストシネマ有楽町/有楽町朝日ホールほか
https://filmex.jp/

アプリで読む