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Base Ball Bear、最新作『C3』で提示するバンドの特別さ/異端さ 『C』シリーズを振り返りながら分析

リアルサウンド

20/1/23(木) 7:00

 Base Ball Bearが2020年1月22日に8thアルバム『C3』をリリースした。本作は通称『C』シリーズと呼ばれる作品群の3作目だ。作品ごとにサウンドの変貌を見せるBase Ball Bearだが、『C』シリーズは活動の節目に届けられることが多い。本稿では『C』『C2』を振り返りながら、最新作『C3』を紐解いていく。

(関連:Base Ball Bearに聞く、バンド力学 スリーピースで立ち返るサウンドの原点とこれから

 2001年、同じ高校に通っていた小出祐介(Vo/Gt)、関根史織(Ba/Cho)、堀之内大介(Dr)、湯浅将平(Gt)の4人で始動したBase Ball Bear。下北沢・渋谷を中心にライブを重ね、何枚かのインディーズ作品を経て、2006年にメジャー1stアルバム『C』が完成した。

 爽快な音像に表情豊かなメロディを乗せ、捻りの効いたコード進行とフレージングを展開する『C』の楽曲たち。キャッチーでトリッキーな“ベボベ印”のギターロック、その創成期の集大成たる4ピースサウンドは若々しくもすでに格別なオリジナリティを持つ。活動初期からNUMBER GIRL、SUPERCAR、TRICERATOPSなど、先人たちのエッセンスを咀嚼し取り入れながら、鳴らすべき音を吟味することで獲得できた彼らの基盤と言える。

 SHE、SEA、死。これら全てタイトル『C』の由来となった歌詞のモチーフだ。情景に妄想を注ぎ、想い人への気持ちを爆発させる。ソングライター・小出祐介による映像的かつ感覚的な言葉選びも、当時のバンドシーンでBase Ball Bearが異彩を放っていた要因だ。瑞々しくもどこか歪なボーイミーツガールを描いた詞世界は、あらゆる世代の放課後のワンシーンに重なる。こうしてBase Ball Bearは一定層の青春像を塗り変える存在として支持されることになった。

 ポップさを獲得しながら順調にファン層を拡大しつつ、常に自らのギターロックと向き合って検証を続けてきたBase Ball Bear。その度に生じるフラストレーションと格闘し、人生史や表現の苦悩を曝け出した作品群の先で2015年にリリースされた『C2』は、これまでにない”視点”を獲得した作品となった。

 本作の題意は「see」が由来であり、つまり“見る”ことがテーマだ。当然だと看過している出来事に対して、時に角度を変え、時にえぐるようにして新たな見方を提示する切れ味抜群の言葉を次々と投げかけてくる。これまで映画や漫画のように場面を描いてきた小出は、本作で自身の怒りや不満、主義・主張をも俯瞰で捉える筆致に辿り着いた。またサウンド面を見つめ直し、従来のギター主体のアレンジのみならず、リズム重視の音作りへと挑んだのも本作の特徴である。その深くどっしりした聴き心地は歌詞に強い説得力を持たせることにも一役買った。

 青春時代を描いた『C』と比べ、社会的な題材が増えた『C2』。それでも「文化祭の夜」「不思議な夜」といった楽曲に青春の匂いは残る。不満だらけの現実の中でも、“青春”的な心の躍動が確かに輝くのだ。そしてそれらは『C』期と異なる音と言葉のアプローチで描かれているのも印象深い。活動初期では拾いきれなかった様々な機微を表現する術を手にし、“二周目”に突入した瞬間が『C2』に記録されている。ここまでが第1章と称される期間だ。

 『C2』ツアー直前に湯浅が突然の脱退。その後は鍵盤やホーンの導入、サポートギタリストの登用など活動形態を模索する第2章が訪れる。しかし2018年からは純粋な3ピースバンドとしての演奏を追求し始める。2019年に自主レーベル<DGP RECORDS>を設立し、スタッフ含めて新体制で完成させたのが最新作『C3』だ。

 新たな活動初期とも呼べる現在の局面において、Base Ball Bearは『C』以前にも似たバンド活動への初期衝動を抱えているのだろう。そんな“音を鳴らす楽しさ”を結成から18年間で培った骨太なサウンドで具現化することで、フレッシュさと円熟味を兼ね備えた本作に結実させている。『C2』でのリズム重視の楽曲制作は、本作ではベースとドラムのフレーズからメロディを作り出すスタイルへと発展した。これが第3章を迎えた新たなBase Bear Bearの音だ。

 『C2』での批評的な視点は「試される」や「PARK」で健在だが、本作で歌詞表現はさらに進化する。「EIGHT BEAT詩」は〈スーパーカー〉や〈changes〉など、Base Bear Bearを語る上で欠かせない固有名詞や楽曲名がラップに織り込まれたヒストリーソングであり、タフな精神が息づく異質なリリックに仕上がっている。「いまは僕の目を見て」「Cross Words」といった清らかな歌が光る楽曲では、青春的な場面を切り取ったり感情を俯瞰で捉えたりはせず、対象を想う心をそのまま投影したかのような言葉を綴ることに成功した。

 終曲「風来」ではツアーと制作の日々で芽生えた旅情と生きる実感を高らかに歌う。「EIGHT BEAT詩」はもちろん、ライブ観を綴った「L.I.L」からも伝わる通り、今のBase Bear Bearにとってその歩みやスタンスを楽曲に刻むことは自然なことだ。『C3』において小出はBase Bear Bearそのものを“語るべき存在”と認識し、バンドの特別さ/異端さをシーンへと改めて提案してみせた。しかし、これは旅の通過点。獲得と変化を繰り返し、Base Bear Bearはこれからもその成果を届け続けてくれるはずだ。(月の人)

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