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『いだてん』阿部サダヲ×桐谷健太、同じ志のために別々の道へ 激動の「昭和」が始まる

リアルサウンド

19/7/29(月) 12:30

 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第28回「走れ大地を」が7月28日に放送された。田畑政治(阿部サダヲ)の魅力や「昭和」という激動の時代の始まりがひしひしと伝わってくる、登場人物たちの台詞が印象的な回となった。

参考:『火焔太鼓』『富久』『替り目』、宮藤官九郎が『いだてん』に仕掛けた“落語”を解説

SNSで最も注目を集めていたのは、塩見三省演じる第29代総理大臣・犬養毅の台詞だ。犬養はかつて新聞記者として西南戦争に従軍した経験があり、新聞記者からの取材に気さくに応じる人物だった。そんな犬養の前で、あいもかわらずマイペースにスポーツの話ばかりする政治。そんな政治に、塩見演じる犬養の目は穏やかだった。

「いかなる場合も武力に訴えてはならん。人間同士、向き合って話せば分かり合えるんだよ」

 満州国の承認に反対する犬養は、取材をする政治の前でこう言った。平和的解決を望む犬養はこうも呟く。「スポーツは、いいな。戦争は勝つ方も負ける方もつらく苦しい。だがスポーツは、勝っても負けても清々しいものだ」。政治は臆することなく「勝たなくちゃダメです」と返したが、その勢いのある言葉に犬養は笑顔を浮かべた。

 常に話し合いを重んじたという犬養。五月一五日、若い兵士たちに銃を向けられた犬養は「話せばわかる」と彼らに語りかけ、重傷を負ってもなお「今撃った男を連れてこい、よく話して聞かすから」と言った。塩見は犬養を重厚かつ温和に演じた。歯に衣着せぬ発言をする政治に対しても、自らを撃った青年に対しても、対話する姿勢を向けた犬養の死は、日本が歩むことになる苦難の始まりを示唆しているようにも見える。

 また政治と関わりの深い河野一郎(桐谷健太)と松澤一鶴(皆川猿時)の台詞も忘れてはならない。政治の力を認め、政治のことを誰よりも信頼している2人の台詞からは、激動の時代を生き抜き、東京にオリンピックを招致することになる政治の魅力が伝わってくる。

 政治の同僚である河野は、満州事変をきっかけに報道の無力さを痛感し、政界の道へ進むことに。「新聞は俺に任せろ」と返す政治に「お前はスポーツでもやってろ」と笑った河野。しかし、その後の言葉には重みがあった。

「スポーツが盛んなうちは国は大丈夫だ。俺は政治をやる。お前はこの国のスポーツを頼む」

 いつになく真剣な表情の河野と、彼の言葉をしかと受け止めた政治の表情が頭に残る。「陸上VS水泳」の話題になるたび政治とぶつかってきた河野だが、「スポーツを愛する」志は同じだ。河野はぶつかり合いながらも、同志である政治を信頼していた。2人は別の道に進むことになるが「同志」として関わり続けるのではないだろうか。

 一方、松澤の台詞は、激動の時代をブレることなく突き進むであろう“まーちゃん”の魅力に説得力を与えるものとなった。代表選手から外され、政治に怒りを向ける高石勝男(斎藤工)に、松澤は反論した。

「例え泳げなくとも、それを補って余りある魅力がある。だからまーちゃんのためなら一肌脱いでやろうって思うんだよ!」
「まーちゃんのことほっとけない、そう思わせる“なにか”が、田畑政治にはある!」

 松澤を演じる皆川の演技はコミカルだが、演じる皆川の目には迷いがない。政治への強い信頼を感じさせるその目によって、笑いあるシーンの中であっても、松澤が政治に信頼を寄せているのが分かる。そして、政治にある“なにか”が結局何なのか分からなくとも、政治の「人を動かす力」は十分伝わってきた。

 登場人物たちの台詞から、激動の時代とそんな時代を生き抜く政治の魅力が描かれた第28回。今回描かれた「五・一五事件」をはじめ、今後も史実に基づいたシリアスな展開が続くはずだ。だが、政治が体協理事を「嫌、嫌、嫌!」と断る姿や、高橋是清(萩原健一)に木靴で頭を小突かれる姿など、コミカルなシーンが随所に盛り込まれるおかげで物語が重たくなりすぎない。笑いを散りばめながらも、史実から決して目を背けない大河ドラマに心打たれた視聴者も少なくないだろう。(片山香帆)

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