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映画・音楽業界ともに大きなメリット クイーン、エルトン・ジョンなど音楽映画増加の背景は?

リアルサウンド

19/9/3(火) 8:00

 ハリウッド・リポーターによると、2019年の日本の上半期の映画興行は、昨年よりも16%も上回っている。その1つの理由に挙げられたのが、音楽映画『ボヘミアン・ラプソディ』の興行的な大成功だ。昨年の11月9日に公開された同作は、映画館によってはシングアロング上映や拍手・発声・コスプレ等OKの応援上映などを行ったことで、観客が何度も映画館に足を運び、公開日からなんと27週間も上映された。そして、世界興行では9億300万ドル(985億8千万円=1ドル106円換算)の興行を叩き出し、アカデミー賞では俳優ラミ・マレックの主演男優賞を含め、4部門も受賞した。

 そんな記録的な『ボヘミアン・ラプソディ』の成功と共に、レディー・ガガ主演の『アリー/ スター誕生』、歌手エルトン・ジョンを描いた『ロケットマン』、ダニー・ボイル監督の新作『イエスタデイ』などが、次々に音楽映画として全米で公開された。そして、これから公開予定の作品では、テイラー・スウィフト出演のミュージカル『キャッツ』、スティーヴン・スピルバーグ監督のミュージカル『ウエスト・サイド物語』などがあり、さらに現在制作中の音楽映画では、ジェニファー・ハドソンがアレサ・フランクリンを演じる『Respect(原題)』、トム・ハンクスがエルヴィス・プレスリーのマネージャーを演じるタイトル未定の作品、デヴィッド・ボウイを描いた『Stardust(原題)』、ボブ・マーリーを描いたタイトル未定の作品、サーシャ・ガヴァシ監督のボーイ・ジョージを描いたタイトル未定の作品などがある。今回は、なぜこれほどまで、一挙に音楽映画の制作が動き始めたのかを追求してみたい。

 まず、その原因の一つに、音楽映画では、知名度のあるハリウッドスターが主役でなくても、劇中で使用されている音楽を主役として扱うことができる点が挙げられるだろう。例えば、今アメリカ公開中の映画『Blinded by the Light(原題)』では、ほぼ無名のヴィヴェーク・カルラを主演に据え、パキスタン人の両親を持つ移民の目立たなかった16歳の男の子が、ブルース・スプリングスティーンの楽曲に勇気付けられ、人生を変える決断をしていくという設定で描かれている。全編にスプリングスティーンの魂の楽曲が流れ、まるで彼の楽曲がキャラクターのように、主人公の思いを観客に伝達していく。これは、ダニー・ボイル監督が手がけた映画『イエスタデイ』も同様で、主役を演じたヒメーシュ・パテルは、英国のTVシリーズには出演していたが、ダニー・ボイル作品の主役を張るには、世界的な知名度は低い。だがストーリー設定を、ザ・ビートルズが消えてしまった世界で、唯一、彼らの楽曲を歌える存在になったシンガー・ソングライターを主人公にしたことで、全編に世界を席巻したザ・ビートルズの名曲が散りばめられ、改めてザ・ビートルズのすごさを痛感させられる作品に仕上がっているのだ。このようにミュージシャンの楽曲を、まるでキャラクターのように扱うことで、観客が音楽とのユニークな関係性を、映画内に見出しているのだ。

 次に、音楽が過去の自分の思い出をノスタルジックにさせてくれるという側面も、音楽映画は持っているだろう。例えば、10代に聞いていた楽曲は、その当時の記憶として色濃く残り、多くの人々は、40~50代になった今でもその音楽との感情的つながりを持っている。『ボヘミアン・ラプソディ』で描かれたクイーンのライヴ・エイドのコンサートも、実際にあの伝説のコンサートに行けなかったとしても、臨場感あふれるステージと観客との一体感が、映画内で見事に再現されているのを見ることができた。一方、映画『ロケットマン』では、過去にあのド派手な衣装を着たエルトン・ジョンのコンサートに行けなくても、彼のスタイリッシュな衣装を年代を追って、音楽と共に見ることもできた。さらに興味深いのは、映画を鑑賞したことで、エルトン・ジョン、クイーン、あるいはザ・ビートルズなどの名曲をインターネットの音楽配信サイトでダウンロードする若者が急増し、新たなファン層を増やしている傾向もあるのだ。

 さらに音楽映画には、人々の不穏な時期に現実逃避をさせてくれるケースもある。かつて世界恐慌により不況に陥ったブロードウェイには、フレッド・アステアなどの一流のダンサーがハリウッドに拠点を移し、本格的にミュージカルが製作された経緯があった。そんな不安や厳しい現実を忘れさせ、夢の世界に誘ってくれるのがミュージカルという音楽映画だ。これから公開予定のミュージカル映画では、テイラー・スウィフト出演のミュージカル映画『キャッツ』、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド物語』、さらにミュージカルで名を馳せた伝説の女優ジュディ・ガーランドを描いたレニー・ゼルウィガー主演の映画『Judy(原題)』が控えている。

 逆に、そんな幻想的な世界とは対照的に、伝記映画としてスターが抱える苦しみも忠実に描く音楽映画もある。映画『ボヘミアン・ラプソディ』ではフレディ・マーキュリーのエイズやジョン・リードとの関係性、映画『ロケットマン』ではエルトン・ジョンの薬物・アルコール依存についてもオープンに語られていた。つまり、ロックミュージシャンの浮き沈みの激しい人生が作品の主軸となっていたからこそ真実味を帯び、観客が入り込む一つの要素となったのだ。このように忠実に描いたことに関して、『ボヘミアン・ラプソディ』の最終監督を務め、『ロケットマン』でも全編メガホンを取ったデクスター・フレッチャー監督は「誰もが実話に基づくストーリーが好きで、実は小説より奇なりとも言える。観客が『本当にこんなことが起きていたのか?』と知ることに、興味を持ってもらえると思うんだ」とインタビューで語っており、等身大のアーティストとして捉えることで、彼らの魅力を倍増させている。

 上記に挙げたように、様々な要素が人々を音楽映画に惹きつけているが、ビジネス面でも音楽映画に頼っている会社がある。ソニー・ミュージックのCEO兼CMOのブライアン・モナコと20世紀フォックスの配給部門のCEO、クリス・アロンソンは、Billboardのインタビューで、近年、CDの売り上げやデジタルダウンロードでの購入が低下し、音楽界も新たに収入源を確保しようとしていた際に、音楽の伝記映画による楽曲の使用権や、音楽映画を鑑賞した観客によるデジタルダウンロードの増加が、大きな稼ぎどころになったという見解をしている。つまり映画界も音楽界も、ウィンウィンの構図ができ上がっているのだ。

 これまで数々のミュージシャンの音楽映画が手がけられてきたが、最後に一般の人々にこれから映画化してほしいアーティストについて聞いてみると、アメリカのエンターテインメントサイト、Screen Rantの統計では、1位にデヴィッド・ボウイ、2位にザ・ビートルズ、3位にジャニス・ジョプリン、4位にボブ・マーリー、5位にサイモン&ガーファンクル、6位にスティーヴィー・ニックス&フリートウッド・マック、7位にエルヴィス・プレスリー、8位にフランク・シナトラ、9位にシェール、10位にAC/DCなどが挙げられた。まだまだ、音楽映画の魅力は尽きないようだ。(文=細木信宏)

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