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羊文学が今の時代に求められる理由 楽曲に宿るメッセージや歌声を踏まえ考察

リアルサウンド

20/8/27(木) 18:00

 羊文学はきみの孤独を否定しない。それは「祈り」で歌われた、〈夜の中で君が一人泣くことは/どんな訳があるとしても許されているから〉というラインが示した通り。すべてが不確かな時代の中で、羊文学はひとりで流す涙を肯定する。聴き手のパーソナルなスペースで鳴ることのできる繊細な音楽は、これからの数年、その重要さを増していくように思う。撫でるような柔らかいタッチで、楽曲全体の空間を作り上げるフクダヒロアのドラムや、ひっそりとメロディを引き立てドライブしていく河西ゆりかのベース。そして言葉よりも雄弁に情感を訴えるギターと、塩塚モエカの無色透明な歌声。そのどれもが心の隙間にそっと潜り込んでくる、さりげない優しさを持っているように思う。

「祈り」

 このバンドが登場からじわじわと支持を集めていったのは、10代特有のフラジャイルな感情を綴ったリリックと、感情の揺らぎを表すようなファズギターという音楽的な要素はもちろん、それを鳴らす3人の居住まいがいずれもアンニュイな表情を浮かべていたことが大きいのだろう。眼を覆うほどの前髪をたらして佇むフクダヒロアのビジュアルも、このバンドのカラーを印象づけていた。決して大袈裟な事を歌うわけではない、羊文学は日常の中で増えていく些細な傷に、そっと光を当てるようなバンドである。自然体で、どこか肩の力を抜いて音楽を楽しむ3人だからこそ、彼女らの歌には「頑張りすぎなくてもいい」というメッセージが宿ったのだ。メンタルヘルスの問題が世界的なトピックになるような時代の中で、それは素朴な癒しだったのではないだろうか。

 塩塚モエカの歌声は、日に日にその存在感を大きくしてきた。感情的になり過ぎない彼女の声だからこそ、多くのリスナーに分け隔てなく響くのだろう。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの新曲、「触れたい 確かめたい」に参加することが発表されたばかりだが、実際ここ数カ月ほどで目立っていたのが彼女の客演の数々だ。4月にリリースされたTOKYO HEALTH CLUBの「リピート」にクレジットされると、同じく4月にリリースされたRyu Matsuyamaの「愛して、愛され」にもフィーチャリングで参加。6月24日から配信された、君島大空と共にカバーした七尾旅人の「サーカスナイト」も記憶に新しい。彼女の声は、今多くの人の琴線を刺激しながら、シーンの垣根を超えて浸透しようとしている。

リピート feat. 塩塚モエカ
愛して、愛され feat. 塩塚モエカ(羊文学)
「サーカスナイト」

 「羊文学のギターは簡単なので、軽音部でコピーしてくれたら嬉しい」とは、昨年取材した時の塩塚の言葉である。楽曲におけるこうした明朗さも、聴き手を選ばなかった理由だろう。それはフクダが叩く、手数の少ないドラムも言わずもがな。タムをひとつにし、ライド、クラッシュ、ハイハットを1枚ずつ平らに並べるドラムセットも、音の粒を際立たせ、楽曲のよさをシンプルに聴かせるための配置だろう。ノイジーなものから澄み切ったライトなサウンドまで、キャリアを経る毎にバリエーションを増やしてきたが、どこか人懐っこい聴きやすさを残す工夫を3人は考えてきたはずだ。そしてもちろん、そのシンプルさの中にオリジナリティが宿るのである。彼女が言う「簡単なギター」とは、練習次第で誰にでも弾けるものかもしれないが、この3人が鳴らすことで他のどこにもない響きが生まれているように思う。

 さて、Suchmosが所属する<F.C.L.S.>からメジャーデビューすることが発表された。が、このバンドが大きな舞台に行くことに関して、驚きを持つ者はほとんどいないだろう。コロナ禍でバンドの活動が一時ストップしたとはいえ、2019年8月に行われた渋谷クラブクアトロ公演では、会場から溢れんばかりの超満員を生み出し、『ざわめき』がリリースされる前に行われた、今年1月のリキッド公演ももちろん完売。いわばここ最近の客演の多さも含め、リスナーにもミュージシャンにも求められる状況があった中でのニュースである。

 それにしても、決定的な新曲だ。視界が開けるような8ビートが鳴り響いた瞬間、きっと誰もがポジティブな意志を受け取るだろう。迷いなく前進していくような軽快なリズムと、前途を祈るようなコーラス、そして〈一人で進んで〉、〈きみはいま自由だね〉というメッセージ。「砂漠のきみへ」というタイトルは、孤独な環境にひとり立つ人々の自由を肯定する言葉に他ならない。歌詞の中に出てくる、思わず流れる〈涙〉を肯定するラインも、「祈り」から地続きにあるものだろう。これはポップでガーリーな作風を見せた『きらめき』と、初の四つ打ちの「サイレン」やポエトリーを含んだ「人間だった」など、溌剌なアプローチを見せた『ざわめき』を経過した彼女達に相応しい、快活で眩いばかりロックンロールである。

羊文学「砂漠のきみへ」Official Music Video

 恐らく羊文学の中でも、特にドラムとベースが際立っている楽曲と言えるだろう、重厚感のある「Girls」もまた新鮮だ。YouTubeドラマ『DISTORTION GIRL まっすぐいかない青春』の主題歌に決まっている1曲で、いつも以上にハイトーンな塩塚の声も、どこか性急さを持っている。迫ってくるボトムとヘヴィな音で疾走していくギターの掛け合いは、多くの人が聴きたかった新たな一面ではないだろうか。そして、タイトルは「Girls」である。作品の世界観を踏まえて書かれた楽曲かもしれないが、友人とBUMP OF CHICKENのコピーをしようとしたところ、「女だからダメだ」と言われた学生時代の経験が最初の原動力になっていた塩塚である。”女子高生のまっすぐ行かないリアルな日常を描いた”内容とのことで、もしかしたら彼女の原体験にある想いも、いくばくかは反映されているのかもしれない。ヘヴィなサウンドの上を切り裂いていくような、〈惹かれあい すれ違い/睨み合い 黙らない〉というリリックも、彼女らしいザラついた感覚が光っている。

「Girls」

 先日行われたオンラインツアー『羊文学 online tour “優しさについて”』で見えたのは、やはりその距離の近さだろう。それはメンバー3人のステージ上での物理的な距離、について言っているのではない。活動の初期から親しんできたBASEMENTBARと、その所縁のあるライブハウスを会場に選び、PAや照明のスタッフもここ数年活動を共にしてきた面々で固定。こんな時代だからこそ、まずは気の置けない人と誠実なクリエイティブを行う。恐らくこの感覚こそ今多くの人が共有している価値観ではないだろうか。

 とびきりキャッチーなメロディを持ったクリスマスソング「1999」のリリース以降、羊文学は着々と音楽性の幅を広げてきた。そしてそれは、「変化」と言えば確かに変化だが、きっとその時々の気分に忠実に、自然体のまま歌を作っていっただけなのだろう。隠さない本能と飾らない素顔、そして次第に広くなっていくステージ。新しく公開されたアーティスト写真の3人を見れば、少しはマシな未来を信じられる気がしてくる。

■黒田隆太朗
編集/ライター。1989年千葉県生まれ。MUSICA勤務を経てフリーランスに転身。
Twitter(@KURODARyutaro)

■リリース情報
羊文学『砂漠のきみへ / Girls』
8月19日(水)配信限定リリース

■関連リンク
羊文学オフィシャルウェブサイト
羊文学Instagram
羊文学オフィシャルTwitter
F.C.L.S.オフィシャルサイト

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