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STUTS、BIM、RYO-Z「マジックアワー」が纏うサマーチューンの歴史 引用とオマージュに着目

リアルサウンド

19/8/12(月) 8:00

 7月19日にリリースされた「マジックアワー」は、STUTS、BIM、RYO-Zのコラボレーションによるこの夏いちばんのサマーチューンだ。「UCC BLACK無糖」が仕掛けるタイアップ企画から生まれた一曲だが、初のコラボレーションとなるこの座組のマッチングに加え、企画の内容におもねらないクオリティでばっちりきまっている。

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 チルな雰囲気を漂わせたギターの音色に、歯切れの良いタイトなドラムが絡み合うビート。ギターで参加しているのは在日ファンクのギタリストでもある仰木亮彦、ビートはもちろんSTUTSだ。ラップに注目してみても、メロディアスでレイドバックしたBIMのヴァースも、柔和ななかにワイルドさを漂わせたRYO-Zのヴァースも、夏の夕暮れどきに最適な空気を作り出している。ミュージックビデオも、曲名通りマジックアワー(=日没前の数分間、陽の光があわく輝く時間帯)のニュアンスに富んだ光の色彩を捉えたシーケンスが印象的に仕上がっている。

 なにより注目をあつめているのは、楽曲のなかに散りばめられたオマージュの数々だろう。具体的にいえば、BIMからRYO-Zへ、RYO-Zからは日本語ヒップホップのクラシックへ。本稿では、各々のヴァースから何点かピックアップして見ていこうと思う。

 まず、BIMがヴァースの最後に滑り込ませる〈まだダメなんて焦らすなよ/ここまで来たら逃がすかよ〉というフレーズは、RIP SLYME「マタ逢ウ日マデ」でのRYO-Zのヴァースから引用したもの。「マジックアワー」のはしばしに漂うエロティックなニュアンスも踏まえつつ、今回のコラボレーターであり大先輩であるRYO-Zへのリスペクトが表明されているのがわかる。

 ちなみに、RIPのこの曲自体はクリスマスソングだが、彼らのインディーズ時代の最後を飾ったシングルであり、メジャー1枚目となるアルバム『FIVE』にも収録された重要な一曲だ。2010年には冨田恵一(冨田ラボ)によって再アレンジを施されたこともある(「マタ逢ウ日マデ2010~冨田流~」)。こうした背景を踏まえて、あえて私情を交えた深読みを許してもらえるなら、惜しくも活動休止となったRIP SLYMEへ「マタ逢ウ日マデ」と呼びかけているようにも聞こえるように思う。

 また一方、RYO-Zが自身のヴァースのなかに忍ばせた〈スキだらけのかっこで〉〈意味深なシャワー〉、また〈夏のせい〉といったフレーズは、否が応でもスチャダラパーの名曲、「サマージャム’95」を思い起こさせる。ボビー・ハッチャーソンの楽曲からサンプリングしたヴィブラフォンの涼しげな音色にのせ、BOSEとANIがかけあいながら夏の「あるある」を挙げていく、ヒップホップの枠を超えて親しまれるサマーチューンだ。「サマージャム’95」では思い出や「あるある」として語られた情景が、この曲では「まさにこれから現実化するかも」という淡い期待のなかに置き換えられているのが洒落ている。

 余談ながら、「サマージャム’95」に登場する〈意味深なシャワー〉はさらにサザンオールスターズによる1982年の「夏をあきらめて」からの引用(〈熱めのお茶を飲み 意味シンなシャワーで〉という一節がある)。さらに〈夏のせい〉もスチャダラパー自身の楽曲「クラッカーMC’S」からの再利用だ。「夏」をめぐって数珠つなぎのようにオマージュや引用が飛び出てくるのが面白い。

 「マジックアワー」自体は、言ってみればウェルメイドな、いい湯加減のサマーチューンだ。この夏のみならず、あらゆる夏に聴き継がれても良い普遍性を持っている。まさに、STUTSによる勘所をおさえたシンプルなプロデュースワークの賜物だ。

 一方で、歌詞にはコラボレーターへのリスペクトや、日本語ヒップホップのクラシックへのリスペクトが伺える引用が織り込まれてもいる。さらに、その引用の系譜を辿っていけば、「夏」をテーマにした日本のポップス史にも触れる広がりを持っていることも上で示したとおり。「企画モノの豪華なノベルティソング」にとどまらず、リスナーのファン心をくすぐるツボとヒップホップやポップミュージックの築いた歴史をうっすらと纏った洒落た一曲だ。(imdkm)

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