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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

ジェフ・クーンズ

遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

映画『アートのお値段』

月2回連載

第24回

19/8/16(金)

鈴木 8月17日(土)に、現代アートとお金の関係を探るドキュメンタリー映画『アートのお値段』が公開されるけど、これがめちゃくちゃ面白いんだよね。アートを徹底的に“商品”として捉えて、誰が買っているのか。何のために買っているのか。そもそもアートって? 値段って? っていうことを、ジェフ・クーンズにジョージ・コンドにゲルハルト・リヒターなど超一流アーティストから、再評価を浴びようとしているおじいちゃんアーティスト、超有名コレクター、評論家、時代を創ってきたギャラリスト、そして時代を動かしているオークショナーっていう、現代美術マーケットの最前線に立つ人たちに、ものすごく直球の質問で切り込んでいくっていうドキュメンタリー。

遠山 私も試写会で見たけど、とても興味深い内容で、アートとビジネスの関係性について、さらにいろいろと考えさせられたね。
それにこの映画、内容はもちろんのこと邦題も面白いけど、原題の『THE PRICE OF EVERYTHING』っていうのも面白いなって思った。

鈴木 邦題は「お値段」っていう言い方がまず、いいよね。今回僕はパンフレットにも寄稿していて、その中でもちょっと書いたんだけど、『アートの値段』だとものすごく普通。でも「お値段」とすることによって、なんか裏読みできる感じがしない? 「お遊び感」というか「嫌味感」というか(笑)。

遠山 確かに。「お値段」って言い方、言葉悪いかもしれないけど、ちょっと茶化してるっていうか(笑)。それに、アートの価値(value)側に寄せてるんじゃなくて、値段(price)側に寄せてるっていうのもなかなか大胆だよね。思い切ったな、とも思った。

鈴木 そうそう(笑)。で、原題は、『THE PRICE OF EVERYTHING』。これはアイルランドの詩人であり、作家、劇作家としても活躍したオスカー・ワイルド(1854-1900)の『ウィンダミア卿夫人の扇』第三幕の登場人物の台詞からの引用なんだって。

遠山 そんなところから来てるんだ!

鈴木 もともとは“What is a cynic? A man who knows the price of everything and the value of nothing.”という台詞。“皮肉屋ってなんだろう? あらゆる物の価値を知っているが、そのいずれの価値も知らない人間のことさ”って感じだね。
経済学において、値段と価値ってすごい大きなテーマじゃない。だからこの映画は値段の話であって、価値は別のところにあるっていうことを描いてる。ただ、アートって何? アートっていくらするの? っていうだけじゃない。現代アートがオークションにおいて高値で取引されるようになったいきさつ、現状、そしてアートの真の価値って何かっていうことを、見ている人に問いかけてくる。至極真面目な映画(笑)。

遠山 本当にそうだよね、真面目だし、すごく考えさせられる(笑)。それにアートってこんな値段で買われていますよ、こんなところで売ってますよっていうのだけではなく、いかにしてこの現代アートブームが起きたか、仕掛けられてきたかっていうことも克明に記されている。

マイノリティが売れる

鈴木 映画は、オークション前の数日間の内見会(プレビュー)が終わり、いよいよオークションが開催される、という場面から始まる。そしてオークションが始まり、誰もが知るパブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホル、デミアン・ハースト、ジェフ・クーンズの作品が次々に落札されていく。その中には、当時世間を騒がせた、前澤友作さん(株式会社ZOZO代表取締役社長)が落札したジャン・ミシェル=バスキアの大きな顔を描いた作品《無題》が落札されていく場面もあったよね。

遠山 あったあった。どんどん競り上がっていく場面にはちょっとワクワクしたな。
で、冒頭の臨場感あふれるオークションシーンから、タイトルがバンッと出てきて、少し無音になるじゃない? そして急に古典絵画というか、古い絵画がスクリーンに登場する。

鈴木 そう、ルーヴル美術館にある、フランスロマン主義の画家テオドール・ジェリコーの《メデューズ号の筏》が急に出てくるんだよね。観る側はここで、アートの歴史を教えてくれるのかな? とか、なるほど、アートを知るためにはやっぱり芸術の都パリから始まるのか、とか思うんだけどそれは違って、実はジェフ・クーンズのニューヨークのアトリエという。まさしく資本主義の都の中心に我々はまだいたわけ。そしてクーンズが話し始める。

遠山 それもものすごい真顔で、ものすごい真面目に語るクーンズのわざとらしさが笑えるんだね(笑)。

鈴木 一見ものすごく穏やかで、謙虚なおじさんなんだよね(笑)。ゆっくり喋ってる。この人が超高値で売り買いされてるなんて思えないぐらい。
今回の映画で、もちろん値段と価値、アートとビジネスっていうのもすごく考えさせられたけど、マイノリティに目をつけ、そして売り出して高値にしていく。マーケットがいかに作られていくのか、ということが生々しく描かれている。ブームはしたたかに作られていく。

遠山 バスキアも、自分が売れたのはアフリカ系アメリカ人だったからじゃないか、物珍しいから注目されたんじゃないかって、すごい悩んでたんだよね。マイノリティであるがゆえにって。

鈴木 そうそう、特に80年代の彼はそういったジレンマに悩まされて、そういうこともあって、オーバードーズしてしまったりしたのかもしれない。とても不安定だった。

遠山 近年、マイノリティへの注目って本当に大きくなってる。アート業界だけじゃなくて、映画業界やファッション業界でも。ルイ・ヴィトンの新メンズ アーティスティック・ディレクターにメゾン初の黒人デザイナー、ヴァージル・アブローが就任っていうのも大きなニュースになったし。

鈴木 そういった意味では、この映画の中で、ナイジェリア出身のジデカ・アクーニーリ・クロスビーが取り上げられているよね。

ジデカ・アクーニーリ・クロスビー
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