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ドラマのトレンドは「医療」×「刑事」の複合技? “命”や“人生”を深掘りする作品の厚み

リアルサウンド

19/8/5(月) 8:00

 民放ドラマは「医療ドラマ」や「刑事ドラマ」ばかり……そんな指摘がちょっと前までは、しばしばなされていた。理由には「群像劇」が描けること、「お仕事ドラマ」であること、そして何より「ある程度の数字が見込めること」があったろう。

 しかし、その傾向は近年、ちょっと変わってきている。ご存知の通り、定番コンテンツである医療ドラマと刑事ドラマが合体した「医療×刑事の複合技」が新ジャンルとして確立されつつあるのだ。

 その流れを大きく牽引したのは、石原さとみ主演の法医学ドラマ『アンナチュラル』(2018年、TBS系)だろう。死体を解剖し、科学捜査で事件にアプローチするというスタイルは、『科捜研の女』や『相棒』(共にテレビ朝日系)を連想させた。しかし、そこで描かれていたのは、むしろ「死」や「命」、「生き方」「心」という、普遍的かつ根源的なものだったことで、多くの視聴者の心をつかんだ。

【写真】石原さとみ主演の法医学ドラマ『アンナチュラル』

 『アンナチュラル』の成功を受け、複合技のドラマは作品数も描き方のバリエーションも増えていく。例えば、山下智久がロボットハンドの義手を持つ、人嫌いでドSで寄生虫を研究する天才科学者を演じた『インハンド』(TBS系)。「医療ドラマ」から徐々に「刑事モノ」展開に寄っていったという指摘も多い、窪田正孝主演の『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)。科捜研法医研究員を錦戸亮と新木優子が演じ、ベテラン刑事としてサスペンスの帝王・船越英一郎が登場して大いに暴れまわった『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ系)もあった。

 そして、今クールでは、上野樹里が法医学者を演じる『監察医 朝顔』(フジテレビ系)、大森南朋が法医学者を演じる『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系)が放送されている。いったいなぜ今、医療×刑事の複合技なのか。

 もちろんその理由には、「医療モノ」「刑事モノ」は定番コンテンツのゆえに、やり尽くされた感、マンネリ感があることが挙げられる。そのマイナスを払拭すべく、「+α」の要素を追加することで新機軸を生み出そうという狙いはあるだろう。

 かつて「医療ドラマ」といえば感動モノやヒューマンドラマや「組織」モノが多く、「刑事ドラマ」といえばアクションやミステリーが多い印象があった。しかし、複合技にすることによって、両者の「いいとこどり」で「感動、ヒューマン、ミステリー」など様々なテイストを盛り込めるメリットもあると思う。

 実際、複合技ドラマにおいては、医療関係者たちが死因を推理する過程や、病気を発見するまでを描く作品が多い。そんな流れの中、今クールの『監察医 朝顔』と『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』を観てみると、「複合技」ゆえの魅力が発見される。

 『監察医 朝顔』は、上野樹里演じる法医学者の娘と時任三郎演じる刑事の父がタッグを組み、事件の真相に迫っていく中で、死者の人生を描く「法医学」ドラマとなっている。しかし、その一方で、震災で妻あるいは母を失った心の傷を共有する父娘の「家族再生」のホームドラマとして丁寧に繊細に描かれていることが、視聴者の心をつかんでいる大きな理由だろう。

 また、韓国の大ヒット法医学ドラマをリメイクした『サイン』の場合は、大森南朋演じる偏屈で無頼な主人公が権力に闇に立ち向かう「骨太サスペンス」だ。しかし、法医学の大森南朋と飯豊まりえ、キャリア警察官の松雪泰子と高杉真宙という2組の「バディモノ」としての楽しみ方もある。複合技にすることで、物語が多層構造になり、立体的になるわけだ。

 思えば、医療も、刑事も、古くから現在に至るまで男性中心の世界であり、ドラマに多く描かれてきたのは「群像劇」であっても「男性大勢+紅一点」の構図が多かった。それが医療と刑事という別の世界を同時に描くことにより、女性視点を与えられることも、作品に深みを与えるメリットかもしれない。

 さらに、『アンナチュラル』以降の流れで、複合技のほうが多角的な視点を盛り込めることから、「事件」を追うスリルや推理の楽しみだけでなく、「命」や「人生」を深掘りすることもできるようになってきた。

 安定コンテンツを使いつつも、どんどんニッチ化する一方に見える「医療モノ」「刑事モノ」だが、その中身の深まり方・広がり方を思うと、意味のある複合技は意外にも多そうな気がする。

(田幸和歌子)

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