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ビッグ・フリーダ、ドレイク、ワイファイズフューネラル……真夏のバウンシーなヒップホップ5選

リアルサウンド

18/8/5(日) 10:00

 猛暑……というか、酷暑の中、皆様いかがお過ごしでしょうか? ヒップホップ界隈は、カニエ・ウェストの5週連続にわたる関連作リリースがあったり、突如ビヨンセ&ジェイ・Zがジョイントアルバムを発表したりと、息をつく暇がないほどの盛り上がりを見せています。その中で筆者が着目しているのが、バウンスミュージックの興隆。今回は、暑い夏をさらにアツくするような、バウンシーなヒップホップチューンを紹介したいと思います。ヘビーなキックドラムに、テンポのいい跳ねるようなリズム、キャッチーなシンセ、そして主張が激しいベース音がバウンスミュージックの特徴です。もともとは80年代後半にヒットしたマイアミの2 Live Crewらが作り上げた「マイアミベース」と呼ばれるジャンルが現在に連なるバウンスミュージックの原型となり、以後、数年に一度、周期的に盛り上がってるという印象。そして、たまたまなのか、それとも大きなトレンドの波が作用しているのか、この夏のヒップホップシーンには、バウンスチューンが多く見受けられるのです。

 まず、今やバウンスの聖地とされるニューオーリンズから。アンダーグラウンドな存在だったニューオーリンズバウンスを世界中に知らしめた、“バウンスの女王”ことビッグ・フリーダが、新作EPをドロップしました。タイトル『3rd Ward Bounce』に含まれている、3rd Ward=サードワードとは、フリーダが生まれたニューオーリンズのプロジェクト(低所得者用住居)のこと。かなり派手目な「Karaoke」をイントロ代わりに、アッパーなバウンスワールドが広がります。表題曲の「3rd Ward Bounce」はローカル色もより濃く、「NO(ニューオーリンズの略称)のために、502(ニューオーリンズの市外局番)にバウンスするわよ!」と、フリーダ姐さんの力強い号令が響く佳曲。リード曲になった「Rent」は、「家賃を払わないなら出てって頂戴!」とだらしない男に向かって吠える楽曲。こんなに激しいバウンスサウンドに乗っかって家賃未払いを請求されたら何を売り払ってでも払ってしまいたくなりますよね。

Big Freedia – Rent(Official Music Video)

 90年代R&Bのフレイバーを感じさせるコーラスもねちっこい「Play」も、途中でスロウになるブリッジを挟みつつ最後まで飽きさせません。2010年頃から注目され始め、地元ニューオーリンズを中心に活躍してきたビッグ・フリーダは、近年メジャーディールを獲得し、本EPがメジャーデビュー作品になるとのこと。さらにバウンスシーンを盛り上げるべく、今後の活躍にも期待が高まります。

 フリーダといえば、ニューオーリンズカラーを押し出して制作されたMVも話題になったビヨンセの「Formation」でもその声がサンプリングされたことで話題を呼びました。

Beyoncé – Formation

 そして今年に入って、さらにビッグ・フリーダの声がサンプリングされた人気楽曲がチャートを駆け上りました。それが、ドレイク「Nice For What」だったのです。ビッグ・フリーダのシャウトが、楽曲の冒頭部分にサンプリングされており、強烈なインパクトを残しています。ドレイクからのオファーに、ビッグ・フリーダは「ドレイクのチームが私のチームに連絡して超興奮した。確認のためにトラックが送られてきたけど、自分の声が乗っかってさえいるなら、どんな仕上がりでも気にしないわ、って返したの。これはバウンスカルチャーがより広まるよう、地道に動いてきた結果。私は、ニューオーリンズのカルチャーのためにめちゃくちゃ苦労してきたんだから」と、FADER誌のインタビューに応えていました。

Drake – Nice For What

 ニューオーリンズバウンスの流れをバッチリ汲んだ「Nice For What」はチャート上でも4週連続首位を獲得し、ドレイクのキャリアを代表する、いや、2018年を代表するヒット曲に。ビッグ・フリーダの声部分と同じく、ローリン・ヒル「Ex-Factor」を大胆にサンプリングしている点も話題になりました。

 そんなドレイクが6月末に発表したアルバム『Scorpion』の中から、特にヒットしているのが「In My Feelings」というシングル。シギーという、インスタグラムなどで人気のユーザーが発明(?)した同曲の振り付けを行う「#InMyFeelingsChallange」の爆発的ブレイク(ドレイク本人を始め、ウィル・スミスまで!)も伴って、現在、世界中のチャートを席巻中です。

WILL SMITH DOES THE KEKE CHALLENGE

 この曲も、思いっきりニューオーリンズバウンスのテイストを取り入れており、ニューオーリンズを代表する人気ラッパーであり、ドレイクのボスでもあるリル・ウェインのヒット曲「Lollipop」や、同じくニューオーリンズを代表する女性ラッパーのマグノリア・ショーティーによる「Smoking Gun」のサウンドをサンプリングしています。他、マイアミを拠点とする女性MCデュオ、City Girlsの声ネタを加えており、JTとリーシャ、City Girlsそれぞれの名前もリリックにも織り込むという巧者っぷり! MVもニューオーリンズで撮影され、ビッグ・フリーダやシギー、City Girlsのリーシャ(MCネームはヤング・マイアミ)らもカメオ出演している豪華な内容です。

Drake – In My Feelings

 そして、こうしたニューオーリンズバウンスの波は若者の間でもキているようです。ニューヨークに生まれ、現在はフロリダを拠点としている新鋭ラッパー、ワイファイズフューネラルがリリースしたアルバム『Ethernet』(MC名によく合った、ぴったりのタイトル!)からのリード曲として発表された「Juveniles」は、ワイファイとともに、XXL誌の「10 FRESHMEN」企画に選出されたYBNナミアーを迎えたバウンスチューン。

Wifisfuneral Feat. YBN Nahmir “Juveniles” (WSHH Exclusive – Official Music Video)

 なんとここでは、ニューオーリンズを代表し続けるヒップホップレーベル、キャッシュ・マネー・レコーズに所属する地元の人気ラッパー、ジュヴィナイルの「Back That Azz Up」を思いっきりサンプリングしています! この楽曲、1998年に発表されて以来、ケツ振りチューンの殿堂入り楽曲と言っても差し支えないほどで、特徴的なライミングやトラックは幾度となくサンプリングされたり引用されたりしている超定番アンセムなんです。最近ではお騒がせMCのシックスナイン(6ix9ine)も「KEKE」でそのまんまフロウを引用していました。実は私も今年の6月にニューオーリンズへ行ってきたばかりなのですが、ニューオーリンズの中心部にあるバーボンストリートの酒場で、DJがこの「Back That Azz Up」をプレイし、その間MCがステージ上に女の子を呼び込み即興のケツ振りオーディションを開催しているほどでした。ちなみにワイファイくんは1997年生まれとのこと。ネタ元の楽曲が生まれたのとほぼ同じ頃です。しかも「Juveniles」のアツいところは、「Back That Azz Up」のアウトロ的に使われているリル・ウェインのラインを引用してバースをスタートさせているところなんですよね。思わず「そこかよ~!」とニヤリとしてしまいました。この辺りは、プロデューサーのジャリル・ビーツによる仕掛けなのでしょうか。『Ethernet』に収録されている「25 Lighters」は、ヒューストンラップのクラシックである同名曲を引用していますし、色々とサウス偏重心をくすぐられてしまいます(このフレーズはケンドリック・ラマーも「Backseat Freestyle」で引用していましたね)。

DJ DMD ft. Lil’ Keke & Fat Pat – 25 Lighters

 そして、新鋭たちによるバウンスチューンをもう一曲紹介させてください。以前もこのコーナーで紹介したことのある大所帯クルー、Brockhamptonの新曲、「1997 Diana」も、バウンシーなテイストが溢れ出ています。

1997 DIANA – BROCKHAMPTON

 クルーのリーダー格であるケヴィン・アヴストラクトのバースでも「ニューオーリンズのバイブスを振りかけると、クイーンみたいな香りでしょ」との表現が。ちなみにケヴィンは同性愛者であることを公言しています。なので、キングではなくて“クイーン”という表現なのですね。そして、前述したビッグ・フリーダもまた同性愛者の男性で、ゲイだということをカミングアウトし、LGBTQコミュニティにおいて尽力している人物です。Brockhamptonは、少し前にリリースした一連のシングルシリーズ「1999 Wildfire」でも、主に2000 年代前半にヒットを飛ばしたサウスシーンの名プロデューサー、ジャジー・フェイを招いており、完全に当時のバイブスを再現していました。さらに余談ですが、シリーズ作の一作「1998 TRUMAN」では1999年にドクター・ドレーがエミネムを迎えて放ったヒット曲、「Forget About Dre」が引用されています。それぞれのタイトルは、各年の映画やテレビ番組にも言及したもの。これから発売される彼らのメジャーデビューアルバム『The Best Years Of Our Lives』に期待が高まります。

 最後に紹介したいのは、シアラの新曲「Level Up」。

Ciara – Level Up

 この曲、FUN.が2009年に発表したヒット曲「We Are Young」の“Kyle Edwards & Dj Smallz 732 Jersey Club Remix”というリミックス楽曲をサンプリングしており、かなりバウンス感のある一曲に仕上がっています。シアラはシングルと同時に、本曲のMVもリリース。すでにフックの特徴的なダンスを真似する「#LevelUpChallange」が広まっているので、おヒマな方は挑戦してみては。

 と、夏のお祭りシーズンにぴったりなバウンスチューンを紹介させて頂きました。ビーチで、プールサイドで、クラブで、はたまたエアコンが効いた部屋の中で、皆さんも良きバウンスシーズンを過ごされますよう! 以上、暑中見舞いと代えさせていただきます。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
Twitter 
blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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