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(c)2021 TIFF (c) IKKI_KOBAYASHI&TOKYO

第4回:東京国際映画祭はどこへ向かうのか? ディレクターに聞く今年のポイント

映画ファンの秋の恒例行事ともいうべき東京国際映画祭と東京フィルメックスがこの秋、大きな変化を迎える。昨年から両者は同時期に開催され、連携を深めているが、東京国際映画祭は今年から会場を東京フィルメックスと同じ東京・日比谷エリアに変更。参加者は歩いて両映画祭をハシゴすることが可能になった。

さらに昨年までフィルメックスのディレクターを務めていた市山尚三氏が今年から東京国際映画祭のプログラミングディレクターに就任。第1回目のフィルメックスから2019年まで市山氏を補佐してきた神谷直希氏がフィルメックスの新プログラム・ディレクターに着任した。

映画祭のディレクターが変われば、映画祭の姿、セレクションは大きく変化する。今年の両映画祭はどうなるのか? 両者が連携することで何が生まれるのか? そして現地に足を運ぶことで得られる映画祭ならではの醍醐味とは? 気になるポイントを市山氏、神谷氏に聞いた。

今年の東京国際映画祭と東京フィルメックスは“ここ”が変わる!

東京国際映画祭プログラミングディレクター市山尚三氏(左)と東京フィルメックスプログラム・ディレクター神谷直希氏(右)

市山ディレクターは2000年の第1回からフィルメックスのディレクターを務め、映画プロデューサーとしても活動しているが、数年前からフィルメックスのディレクターを誰かに引き継ぎたいと考えていたようだ。

市山 今年のはじめに安藤さん(安藤裕康・東京国際映画祭チェアマン)から「映画祭全体を統括するプログラムミング・ディレクターをやってほしい」と依頼がありました。以前からフィルメックスについては誰か後任がいればその方にやってもらいたいと思っていました。映画祭がダイナミズムを持つためにはディレクターは変わった方がいいですし、選んでいる人間が変わらないと同じような映画が上映され続ける危険もある。だから誰かに交代することは何回か考えていたんですけど、安藤チェアマンからお声がけいただいた時にこれはひとつの機会だろうと。そこで神谷くんに声をかけたら、やってくれるということだったので、それなら安心して引き渡せる。辞めた後は知りませんというのは困りますし、だからと言ってフィルメックスのことをまったく知らない人に頼むのも難しいだろうと。だから、ずっと神谷くんがベストだと思ってましたし、神谷くんに断られたら正直、かなり困る(笑)。神谷くんが受けてくれなかったら、自分がまだフィルメックスをやっていたかもしれない。いまとなっては仮定の話になりますけど。

神谷 この1年半から2年弱、フィルメックスからは離れていましたから、お話をいただいた時は少しビックリしました。自分がディレクターをやる可能性はまったくないと思っていましたから、お話をいただけたことがまず光栄だと思いました。ただ、その責任が大きいことは依頼を受ける前から感じていましたし、生活も大きく変わるので家族に相談したりはしましたね。ただ、実際にやってみると、自分が思っていた以上にプレッシャーがかかるものなんだなと思っています。

両者とも長年に渡って世界の映画祭で作品を鑑賞し、良い作品を厳選してきた。今年の映画祭でもその姿勢は大きく変わらない。しかし、東京国際映画祭は部門を大きく見直した。これまで以上に映画ファンがじっくり観たくなる“クオリティ至上主義”のラインナップになったと感じる人も多いのではないだろうか?

市山 1990年代にずっと東京国際映画祭のプログラムを担当してきて、特別招待作品にはずっと疑問を持っていたんです。この部門は配給会社のついているものだけしか上映できなくて、それが映画祭の一番大きいメインの会場で上映されている。それがぜんぶ面白ければいいんですけど、中には「これ映画祭で上映する作品なんだろうか?」と思うものもあって、カンヌやヴェネチアで上映されたものと混在していたんです。

そのことは僕だけではなくて、いろんな方が指摘していたんですけど去年まで続いていた。でも、安藤チェアマンも「そこは変えてください」と言っていたので、今年は“ガラ・セレクション”と名前を変えて、作品をちゃんとセレクトして、上映作品数も絞って、日本での公開が決まっていなくても上映する価値があるものであれば、字幕をつける予算もちゃんと確保して上映する方針にしました。

今年のカンヌ映画祭審査員賞受賞作『MEMORIA メモリア』(アピチャッポン・ウィーラセタクン監督)
©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.

それにこれまでは2年ぐらい前の映画も上映されていたりしたんですよ。というのも日本での公開に合わせると、どうしてもそれぐらい前の映画になってしまう。それは日本のお客さんから見ると別に良いことなのかもしれないですけど、外国の人からみたら「東京はなんで去年のベヴェネチアで上映された映画を今年やってるの?」ということになるので、今年は新作中心でかためていきました。この部門は第1回から手付かずだった部分なので、今年の最も大きな変化だと思います。こうした変更ができたのも、安藤チェアマンと考えている方向が同じだったことがとても大きいです。

バランスよりも“クオリティ”重視。両映画祭の作品選定のポイントは?

昨年から今年にかけて世界はコロナ禍にあり、多くの映画が公開延期や企画の見直しを迫られた。しかし、今年の映画祭のセレクトは市山氏も神谷氏も苦労はなかったどころか、豊作で選ぶのに苦労したという。

神谷 予想よりもレベルが高くて、本数もたくさんあったので“選ぶものがなくて困る”というよりは、たくさんある中でどれを上映するか考える方が大変でした。

市山 いくつか事例を聞いたのですが、去年、いくつかの映画祭が開催されなかったので、撮影は終わっていて去年に完成させようと思えば出来たものを、今年になるまで置いてあった映画がたくさんあったみたいなんですよ。だから来年はどうなるかわからないですが、今年に関しては東京国際映画祭もコンペ部門の応募が増えている。去年はベヴぇネチア映画祭も上映本数を絞ってましたし、去年は「いま完成させるのはいろいろ不利だな」と思っていた人たちが今年、映画を完成させたというのは多いのかもしれません。

神谷 もちろんコロナ禍での上映会場や上映枠の確保だったり、そもそも上映ができるのかだったり苦労はあったんですけど、作品を選ぶという意味では恐れていたことは起こらなかったです。

市山 作品を選ぶ上では、基本的にフィルメックスと同じことをしようとはまったく思っていません。これまでTIFFのコンペは名前のある監督の作品が少なかったんですけど、今年は恵まれていて、ブリランテ・メンドーサとか、バフマン・ゴバディとかアジア映画をよく観ている人なら知っている監督の作品を入れることができた。これはたまたま、その人たちの映画がよその映画祭のコンペに出ていなかったので、ここで上映することができたということですね。

バフマン・ゴバディ監督『四つの壁』 ©MAD DOGS & SEAGULLS LIMITED

コンペについては最初は地域バランスを考えたりしていたんですけど、今年はヨーロッパのエントリー作品よりもアジアの作品の方が明らかに面白いものが多かった。それは偶然なのか、強力なアジア映画が他の映画祭にひっかからずにここまで来たのかはわからないんですけど。そこで、明らかに面白いアジア映画を落として、そこそこのヨーロッパ映画を選ぶとバランスは保たれるんだけど、それは面白くないだろうと。もちろん、国際映画祭なのでヨーロッパの映画も上映するんですけど、面白いものを選ぶとアジアが少し多くなったということですね。だから“しがらみ”とか“バランス”は考えてないですし、僕がアジア映画が好きだから増えたということでもないんです(笑)。だから今年はたまたまこうなりましたけど、来年はヨーロッパ映画が増えるかもしれない。そこはわからないですね。

神谷 作品をセレクションしている時は、東京国際映画祭で何が上映されるのか知らない状態だったんですが、アジア映画に関してはフィルメックスと東京国際映画祭は共存というか、住み分けができるだろうと思っていました。というのも、東京国際映画祭は“初上映=プレミア”にこだわっている場合が多いんですけど、こちらはそこにはこだわっていないので、選んだ映画が結果的にインターナショナルプレミアになることはありましたけど、そこはこれまでのやり方を変えずに選んでいきました。

市山 東京国際映画祭で上映しても埋もれてしまうと思える作品でも、フィルメックスのコンペに出ることで賞を獲ったり、注目される場合があったりするので、東京国際映画祭とフィルメックスで取り合いになったりするのではなくて、作品にとってどの映画祭で上映されるのが一番いいのか我々も考えますし、作品のプロデューサーも考えていると思います。

だからふたつの映画祭ですごくバランスはとれていると思います。例えば今年のフィルメックスで上映される『見上げた空に何が見える?』は本当に素晴らしい作品で、今年の世界の映画祭で上映された作品を代表する1作だと思うんですけど、ベルリン映画祭のコンペに出ているので、東京国際映画祭だとコンペではなくワールド・フォーカスでの上映になる。でもフィルメックスだとコンペで上映できる。「フィルメックスで上映されるといいのにな」と思っていたら、神谷くんがちゃんと選んでいてよかったなと。カンヌ映画祭でもコンペで生きる映画と、監督週間で生きる映画ってやっぱりあるんですよ。だから最終的にはプロデューサーなり監督なりが決めるんでしょうけど、ふたつの映画祭が作品を取り合うことはないですし、逆に両方の映画祭に行くことで今年の主要なアジア映画がすべて観れる。今年はかなりそんな感じになったと思います。

東京フィルメックス・コンペティション作『見上げた空に何が見える?』

街を歩きながら映画を観て、映画祭に参加する醍醐味

映画祭は単なる“映画上映”でも、映画館で行われる“特集上映”でもない。映画が上映され、観客と映画人が同じ場所に集まり、そこで交流が生まれたり、マーケットが開催されて作品が海外から入ってきたり、自国の映画が国境を超えるきっかけになったりもする。映画ファンにとっては一般公開されないかもしれない映画を堪能したり、フィルムメイカーに質問する機会や、街でばったり映画人に出くわす可能性もある。近年は緊急措置的に映画祭をオンラインで開催することも増えているが、東京国際映画祭も東京フィルメックスもリアル開催にこだわっている。さらに両映画祭は来年以降、これまで通り、海外のゲストや観客を迎えることも視野に入れているようだ。

市山 今年は会場に来れない海外の方もいるので、海外の映画祭プログラマーだったりバイヤーの人たちにはオンラインで映画を観られるようにしています。本当は会場に来てもらえるのが一番いいですし、2年前までは来年の前半に開催される映画祭のプログラマーが東京に来て作品をピックアップしたりもしていたので、それが今後も実現していけばいいと思いますし、フィルメックスも同時期に開催されるようになったことで、そこでの上映作品も一緒に観てもらえたらいいんじゃないかなと。なので、ここを起点にして日本映画が海外に広がって行く。それは映画祭のひとつの使命だと思うんです。ただ日本の人に映画を観せますというだけではなくて、そこで上映されることで映画が海外に広がって行くのが大事だと思います。

神谷 今年はカンヌやベルリンがオンラインでも作品を観ることが出来たので、オンラインで観たわけですけど、会場で観るのとはまったく違う体験だったんですよ。会場で観ると観客の反応も直に感じることができますし、観客がリアクションしていれば良い映画というわけではないですが、上映後のリアクションも見ることができる。だからオンラインで観たことで改めて、映画祭の会場で観るのとはまったく別の体験なんだとわかった。やっぱり映画祭は実際に会場でやらないとな、と思いましたね。

市山 オンラインは便利で、会場に行けない人も家で観られるという点では本当にいいんですけど、上映中の場内の雰囲気だったり、上映後の会場の雰囲気のようなものは味わえないわけですよね。あとは会場に行けば知り合いに会ったりして、上映後にお茶を飲みに行ったり、いろんな話をしたりできる。だからオンラインと映画祭はまったく別の体験だと思います。今年は東京国際映画祭とフィルメックスは同じ日比谷が会場ですし、会場もそれなりに散らばっているので、街を歩きながら映画を観ている感覚を楽しんでもらえると思います。今年から有楽町の駅前に掲示を出したり、フラッグを立てたりすると聞いているので、街を歩きながら映画祭に参加している気分が味わえて、その人たちの反応が広がれば、ただ映画館で映画を観ているわけではなくて、映画と映画の合間にお茶を飲んだりすることも含めて映画祭なんだと感じる人が増えてくるんだと思います。

それに是枝裕和監督の呼びかけで始まった“アジア交流ラウンジ”も今年は海外からゲストは来場できないですけど、来年以降はゲストや監督やマーケットの業者、フィルメックスでやっている(人材育成プログラム)タレンツ・トーキョーの若手の参加者や講師もラウンジに行けば会うことができるようにしたいと思っています。僕も釜山映画祭に足を運ぶのは、映画を観るというよりも、そこで人にあって次の企画の話をするためだったりするんです。東京がそういう場所になってくれるといいと思いますし、「あそこに行けば、監督だけじゃなくて、いろんな人に会えるから行ってみよう」と思ってもらえるようになったら、映画祭としてうまくいくようになるんじゃないかと思っています。

“アジア交流ラウンジ”ではアピチャッポン・ウィーラセタクン×西島秀俊などトークイベントを開催 ©Kick the Machine

観客と映画の作り手が同じ場所に集い、一緒に映画を観たり、会話したりする中で、映画が世界に広がったり、新たな作品が誕生するきっかけができる。今年、新生する両映画祭は新たな風を吹かせ、新たな観客を日比谷の街に迎え入れることになりそうだ。

開催概要

第34回東京国際映画祭

期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月)

会場:シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、有楽町よみうりホール、東京ミッドタウン日比谷、日比谷ステップ広場、東京国際フォーラム、TOHOシネマズ 日比谷(千代田区)ほか

※映画祭公式サイトにて、メルマガ会員向け抽選販売、先行抽選販売に続いて、10/23(土)に一般販売開始。詳細はこちら

(c)2021 TIFF

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