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村上春樹のデンマーク語翻訳家が来日、「風の歌を聴け」上映で室井滋とトーク

ナタリー

19/9/30(月) 23:10

「風の歌を聴け」35mmフィルム版上映会の様子。左からメッテ・ホルム、室井滋。

「ドリーミング村上春樹」の公開を記念して「風の歌を聴け」35mmフィルム版の上映会が本日9月30日に東京・新宿武蔵野館で開催。翻訳家のメッテ・ホルムと女優の室井滋が登壇した。

「ドリーミング村上春樹」は、村上春樹の作品を20年以上にわたってデンマーク語に翻訳してきたホルムの活動を追ったドキュメンタリー。「風の歌を聴け」は村上が1979年に発表したデビュー小説を、大森一樹が実写映画化した青春映画だ。小林薫が主人公の“僕”を演じ、室井は“三番目の女の子”役で商業映画デビューを果たした。

「風の歌を聴け」は村上の小説として初めて映像化された作品。この日初めて本作を鑑賞したホルムは「その時代の雰囲気を伝える素敵な映画。(原作が持つ)悲しさ、若い人の寂しさがよく表現されている」とコメント。また翻訳者の立場から「翻訳は小説の本当の言葉をできるだけ正確に伝えないといけない。作家が使っている色はできるだけ同じ色で出したいんです。でも映画の場合は新しい世界を作りますよね」と評した。ホルム自身は、1995年に「ノルウェイの森」と出会ってから村上作品の翻訳に携わるようになり、その後「風の歌を聴け」の翻訳も担当している。

室井は早稲田大学シネマ研究会に所属し、数多くの自主映画に出演していた時代を述懐。PFFアワードの審査員をしていた大森が室井の出演作を観ていたことから、「風の歌を聴け」への起用につながったという。「当時の早稲田の学生は、みんな春樹さんの『風の歌を聴け』や『1973年のピンボール』を読んでいました。だから出演が決まって大感激でした」と振り返りつつ、「本の読解も人によってずいぶん違う。台本を読んでも、どのような映画になるのか、なかなか想像できなかったですね」と村上作品を映像化する際の難しさに触れた。

劇中に出てくる“三番目の女の子”が12歳のときの写真は、当時大学生だった室井が映画のために小学生のような服装をして撮影されたもの。当初は12歳頃の写真を探して使用する予定だったそうだが、室井は「衣装さんと一緒に(映画の舞台である)神戸で小学校5年生、6年生の女の子が着るブラウスとスカートを買ったんです。当時もすでに大人でしたけど、体を曲げれば着れないこともなかった(笑)。その服で鏡の前に立ったときに役をつかめたんです」と述懐。「三番目の女の子が将来どのようになってしまうのかは自分で逆算してわかっていましたから、12歳の写真を撮るのがうまくいけば役作りもうまくいくんじゃないかな、と思ってましたね」とその真意を語った。

「ドリーミング村上春樹」は、小説「風の歌を聴け」の冒頭の「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」という一節から幕を開ける。そしてホルムが「完璧」や「文章」という言葉1つひとつの解釈に悩みながら翻訳を続けるさまが映し出されていく。MCから「完璧な翻訳とは?」と尋ねられ「完璧な翻訳はないです。それはやっぱり夢」とホルムが即答する一幕も。日本語から直接デンマーク語に翻訳しているわけではなく、ドイツ語や英語といった言語を仲介してデンマーク語に落とし込んでいるという。ホルムは最後に「村上さんの小説と出会っていなかったら、長く翻訳を続けることはなかった。普通1冊を終えたら、自分とは関係なくなる。少し寂しい仕事。でも村上さんの小説はみんな大好き。彼の作品の翻訳者として知られるようになり、デンマークでも翻訳者自体の声が大きくなってきている」と語った。

ニテーシュ・アンジャーンが監督を務めた「ドリーミング村上春樹」は、10月19日より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。

(c)Final Cut for Real (c)サニーフィルム

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