Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

神木隆之介や石田ゆり子、当時14歳の高橋一生も ジブリ作品の意外な声優起用を振り返る

リアルサウンド

20/7/25(土) 12:00

 アニメ映画において、役に魂を吹き込むのが声の役者の存在。ジブリ映画では、いわゆる俳優が多く起用される印象が強く、実写のTVドラマや映画では主役級の俳優が、ちょっとした役でキャスティングされることも多い。誰がどの役で出ていたのか見つけることも、今では楽しみのひとつだろう。たとえば『千と千尋の神隠し』(2001年)では、千尋役の柊瑠美とハク役の入野自由のほかに、千尋から名を奪う湯婆婆と銭婆を夏木マリ、巨大な赤ん坊の坊を神木隆之介、言葉を発しないカオナシ役を舞台俳優の中村彰男が演じていたのは有名な話だ。それ以外にも、湯屋の番台蛙を大泉洋、大根の神であるおしら様を安田顕、さらに豚になってしまうお父さんとお母さんに内藤剛志と沢口靖子が演じていた。

参考:詳細はこちらから

 しかし、ジブリ映画の原点たる『風の谷のナウシカ』(1984年)は、ナウシカを『めぞん一刻』の音無響子役や『アンパンマン』のショクパンマンでも知られる島本須美、ユパを『ルパン三世』の銭形警部で有名な納谷悟朗が務めるなど、洋画吹き替えやTVアニメでも活躍する声優陣がずらりと名を連ね、実写のTVドラマなどで活躍する俳優の名前はほぼ見つけられない。では、今のようなキャスティング傾向に変遷したのはどの作品なのか、ジブリ作品のキャスティングを宮崎駿監督作品に絞って振り返ってみた。

宮崎作品において再キャスティングは“あるある”
 『天空の城ラピュタ』(1986年)は、今や『ワンピース』のモンキー・D・ルフィ役で有名な田中真弓がパズーを演じ、『エヴァンゲリオン』の綾波レイ役でブレイクする以前の林原めぐみの名前も見つけることができる。いくつかの名も無い役を兼ねていて、林原ファンの間では有名な逸話になっている。また『となりのトトロ』(1988年)には、草壁サツキを『タッチ』の浅倉南でもお馴染みの日高のり子が演じるなど、実力派声優陣の名前が並ぶ。その中で異彩を放つのが、お父さんのタツオ役を演じたコピーライター・糸井重里の存在で、このキャスティングは当時も話題になった。『ちびまる子ちゃん』(1990年~)のまる子役で有名なTARAKOも出演しており、TARAKOは『ナウシカ』『ラピュタ』『トトロ』の3作品に出演している。

 『魔女の宅急便』(1989年)の主人公のキキは、『名探偵コナン』(1996年~)の江戸川コナン役を25年にわたって演じる高山みなみが務めた。TARAKOと高山にとってジブリ作品への出演が、当たり役を引き当てるきっかけになったと言えるのかもしれない。また、キキを住まわせるパン屋のおソノさんを戸田恵子、その旦那さんを山寺宏一が演じており、山寺は警官やアナウンサー役も兼ね、持ち前の器用さをここでも発揮している。『アンパンマン』(1988年~)を支えるふたりが、夫婦役だったことも今思うと面白い。

 宮崎監督作品で、いわゆる俳優が多くキャスティングされるようになったのは、『紅の豚』(1992年)からだろう。主人公のポルコ・ロッソを、チャールズ・ブロンソンなどの吹き替えで有名な俳優の森山周一郎が演じたほか、マダム・ジーナをシンガーソングライターの加藤登紀子、ほかに桂三枝(桂文枝)や上條恒彦が起用された。さらに『耳をすませば』(1995年)では、高畑勲監督の『おもいでぽろぽろ』(1991年)で主人公・岡島タエ子の幼少時代を演じて声優デビューした本名陽子が主人公・月島雫役を務め、その相手役・天沢聖司を、当時14歳だった高橋一生が演じている。その2年後に公開された『もののけ姫』(1997年)では、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、美輪明宏、森光子といった誰もが知る大物がずらりと名を連ねた。アシタカを演じた松田洋治は、『風の谷のナウシカ』でアスベル役も演じており、同作には同じくナウシカ役だった島本も出演。島本は『となりのトトロ』でもサツキたちのお母さん役を務めて、ジブリ3作品に出演している。前述の本名陽子もしかり、宮崎作品において再起用は、“あるある”だと言える。

ジブリ作品を足がかりに多彩に活躍
 そして『千と千尋の神隠し』は前述の通りだが、千尋役の柊瑠美は『崖の上のポニョ』(2008年)や『コクリコ坂から』(2011年)にも出演。女優として『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)や、NHK Eテレ『ニャンちゅうワールド放送局』に3代目お姉さんとして出演した経歴を持つ。続いて『ハウルの動く城』(2004年)は、ハウル役の木村拓哉と倍賞千恵子の出演が大きな話題を集めた。ほかに美輪明宏、神木隆之介、我修院達也、安田顕と大泉洋も出演しており、まさしくジブリオールスターズとも言えるキャスティングだ。神木はこの『ハウル』以降、ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)に出演したほか、『サマーウォーズ』(2009年)や『君の名は。』(2016年)といったヒット作に出演して、俳優の枠を越えた活躍は広く知られている。

 『ハウル』から4年を経て公開された『崖の上のポニョ』(2004年)は、それまでとはキャスティングががらりと変わった。長嶋一茂や所ジョージ、山口智子、天海祐希、矢野顕子などが出演。当時12歳で主人公のポニョを演じていた子役の奈良柚莉愛は、昨年からよゐこの濱口優がプロデュースを務める名古屋を拠点としたアイドルグループのVery Merryの神月柚莉愛として、アイドル活動を行っているというのは意外な事実だろう。

 その後『借りぐらしのアリエッティ』には志田未来、藤原竜也、樹木希林が、『コクリコ坂から』(2011年)では主人公・松崎海を長澤まさみが演じ、海の妹の空を現在声優として活躍する白石晴香が演じ、彼女のデビュー作となった。そして面白いところでは、『風立ちぬ』(2013年)で、主人公の堀越二郎の声優を『エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明が務めたことだろう。庵野の起用にはファンの間で賛否が挙がったが、「声ではなく存在感で選んだ」と後に語られている。

 ジブリ映画のキャスティングにおいて、声の存在感はあまり関係ない。必要なのは演技力と、本人の持つ雰囲気がいかに役の雰囲気と合っているかだ。役の年齢により近い年齢の人物がキャスティングされ、もし演技が拙かったとしても、雰囲気が合っていればそれが優先される。誰が演じているか気にせず作品に没頭できるのは、声の存在感が役を邪魔していないからこそ。それでもなお、存在感がにじみ溢れて役とともに強く印象を残すのが、ジブリ作品のキャストの声の力だ。それが名作を、名作たらしめているのかもしれない。 (文=榑林史章)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む