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「配給会社別見放題配信パック」必見作品は? 他配信サービスでは観られない作品も

リアルサウンド

20/6/20(土) 10:00

 4月に発足した「ミニシアターを救え!」プロジェクトなど、コロナ禍の感染拡大の影響で休館を余儀なくされ、経営の危機に陥った映画館を救うための試みが現在さまざまな形で行われている。そうした中で大きな打撃を受けているのは映画館だけではない。新作映画が公開できないことで、中小規模のいわゆる独立系映画会社も、極めて困難な状況になっているのだ。無論、映画配給会社がなくなってしまえばいくら映画館が存続したところで上映する映画は底をついてしまう。そこで立ち上げられたのは「Help! The 映画配給会社プロジェクト」だ。

参考:詳細はこちらから

 そのひとつとして5月にスタートしたのが「配給会社別見放題配信パック」。株式会社アップリンクが運営するオンデマンドサービス「UPLINK Cloud」を介して、日本国内のミニシアターなどで上映されている中小規模作品を配給する各配給会社の作品の中から選りすぐりのタイトルがパックとなってまとめて配信販売されるというものだ。いずれも3カ月間の視聴期限付きで、値段も作品数も配給会社ごとにまちまち。また配信期間の延長特典付きで、寄付もできるパックも6月中まで販売されている。

 第1弾では5社の96作品(参考:独立系配給会社別の見放題配信パックスタートへ ジャン=リュック・ゴダールやホン・サンス作品も)が、そして5月下旬にスタートした第2弾では8社の137作品が配信(参考:独立系配給会社別の見放題パック第2弾配信 『立ち去った女』『昔々、アナトリアで』など全137作)されており、そのラインナップはヨーロッパ系の名作とよばれる部類の作品から近年の作品、さらにはアジア映画やドキュメンタリーなど実にバラエティに富んでいる。すべてを網羅しようと思うと233作品で27,300円もかかるわけだが、これだけ良質な作品を日本に紹介してくれる配給会社を救えると考えれば、それだけの価値があるといえよう。とは言っても、残り2ヶ月ですべてを鑑賞しきるのもなかなか大変なことだ。ここでは各配給会社のパックごとに、必見の作品を紹介していこうと思う。

 まずは「クレストインターナショナル」の12作品から。ほとんどがAmazon Prime Videoでレンタル視聴が可能な作品ではあるが、12作品で2,480円かつ視聴期間の長さを踏まえればこちらのほうがメリットは大きい。ポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ晩年の傑作『アンジェリカの微笑み』は、とても100歳を超えた長老が撮ったとは思えないほど瑞々しい傑作であり、アラン・レネの遺作となった『愛して飲んで歌って』も実に愛すべきフランス映画らしい一本。ホン・サンスの近年の4作品も一気に観られ、ジャン・ルノワールの不朽の名作『ピクニック』もあるとなれば、まずこのパックから試してみるというのもいいだろう。

 「ザジフィルムズ」の30作品はいかにもシネフィル受けするラインナップで、もはやこのラインナップを眺めているだけでも満足感が高く、それがいつでも観られる状態にあるということを考えれば、2,980円はあまりにも安い。ジャン=リュック・ゴダールの『女と男のいる舗道』は、数年前にかなり魅力的な画質のBlu-rayがリリースされたが、意外と観る機会の少ない一本。また先日リバイバルされていたアラン=ロブ・グリエの作品群や、イングマール・ベルイマン、アニエス・ヴァルダ、さらにはヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』まで入っており、映画の勉強をしている若い人には最高の教科書となるに違いない。

 このペースで紹介していくときりがなく、読んでいる時間に1本ぐらいは映画が観れてしまいそうなのでスピードアップして各配給会社のパックごとに必見の作品をピックアップしていきたい。「セテラ・インターナショナル」の21作品からはリマスターされたルネ・クレール作品はもちろんのこと、近年の作品ではヤン=オーレ・ゲルスターの『コーヒーをめぐる冒険』は非常に観やすい掘り出し物といえる佳作だ。「ミモザフィルムズ」の12作品ではフィリップ・グレーニングの『大いなる沈黙へ ―グランド・シャルトルーズ修道院』が必見。「ムヴィオラ」はアジア映画好きにはたまらないラインナップが並ぶが、ここはやはりソフトを購入しなければなかなか観られないワン・ビンの『鉄西区 三部作』『鳳鳴ー中国の記憶』『収容病棟 前後編』などを押さえてほしい。

 第2弾ではさらにバリエーションが豊富となり、あらゆる映画ファンをカバーするラインナップが揃ったといえよう。「彩プロ」の作品群は邦画やヨーロッパ映画はもちろん、韓国映画にアメリカ映画、ドキュメンタリーと充実。ヨルゴス・ランティモスの出世作『籠の中の乙女』と、キム・グエン監督の『きみへの距離、1万キロ』は、この機会に是非とも観ていただきたい作品だ。「アンプラグド」のパックは作品数が少ないながらも、号泣必至の『あなた、その川を渡らないで』やトルコの野良猫たちを映した『猫が教えてくれたこと』など、多様なドキュメンタリー作品が揃い、様々な国の文化を知ることができるはずだ。

 「エスパース・サロウ」の16作品もなかなか魅力的。ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』の修復過程を追ったドキュメンタリー『メリエスの素晴らしき映画魔術』はもちろん必見なのだが、世界中の興味深い廃墟に潜入したニコラウス・ゲイハルターの『人類遺産』がとにかく凄い。こちらもソフト化はされているものの、主要な配信サイトでは見かけない貴重な作品だけに、その映像表現はもとより映し出される建造物が放つ哀愁に呑みこまれてほしい。また、ヨーロッパ映画らしい濃密なドラマ性を求める人には「オンリー・ハーツ」の30作品がぴったり。ヌリ・ビルゲ・ジェイランの珠玉のミステリー『昔々、アナトリアで』や、ショーン・ベイカーの『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』、アモス・ギタイの『幻の薔薇』など、このパックも必見タイトルを挙げれば枚挙にいとまがない。

 7作品で700円というリーズナブルさも魅力な「サンリス」のパックには、フランス映画らしいエスプリがふんだんに織り込まれたドミニク・アベル&フィオナ・ゴードンの『ロスト・イン・パリ』や、イルディゴー・エニェディの金熊賞受賞作『心と体と』と同じくエニェディの代表作『私の20世紀』のレストア版がおすすめだ。「シンカ」のパックには金獅子賞受賞作『ローマ環状線 めぐりゆく人生たち』、韓国映画ファン必見の「ハーク」パックにはオム・テファの『隠された時間』、「マジックアワー」のパックにはベネディクト・エルリングソンの傑作『馬々と人間たち』や、このタイミングで観ておくべきドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』が。ラインナップを観て気になる作品が一本でもあったら、同じパックの中から新たに好みの作品が見つかることだろう。

 かつてミニシアターブームが全盛だった90年代は、ミニシアターごとに劇場のカラーというものが確かに存在していた。けれどもいつの間にかミニシアターブームは過ぎ去って、メジャー映画ですら系列のカラーが崩壊し、ジャンルやキャスト、監督といった面以外で複数の異なる映画を括るものが少なくなったように思えてならない。今回のこの配給会社ごとの配信パックという取り組みは、それぞれの会社のカラーがはっきりとわかる、実に面白い試みだ。これがきっかけで、再びミニシアターブームが巻き起こってくれたら何よりであるし、いずれにしても映画を取り巻く環境が少しでも元気になってくれれば、ただそれだけでいい。 (文=久保田和馬)

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