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Netflixで鑑賞可能なアメリカの大人向けアニメのオススメは? 映画評論家・小野寺系が5作を厳選

リアルサウンド

20/5/5(火) 10:00

 Netflixで観られるアニメーション作品は様々あるが、ここで取り上げるのは、魅力的なアメリカの大人向けアニメーション作品だ。

参考:Netflix、バブル終了で転換期へ? “ストリーミング戦争時代”にいかにメガヒットを生み出すか

 日本のアニメは多様な表現を持っているが、一定の傾向があるのもたしかで、たとえば中高生が主人公の作品が多く、30代以上の大人が自分の問題と重ねて楽しむことのできる作品が限られていたり、独特の絵柄が受け付けないために敬遠している視聴者も少なくないだろう。

 だが、とりわけアメリカでは、大人のためのアニメーションがジャンルとして確立している。そんな世界を、手軽に観ることのできるNetflixで楽しんでほしいというのが、この記事の趣旨である。ここでは、海外のアニメーション作品にあまり馴染みがなかったり、実写映画は好きだがアニメーションには興味が持てないという人のために、アメリカのアニメファンである筆者が厳選した作品を5つ紹介したい。

1.『ボージャック・ホースマン』

 2014年からスタートし、2020年に好評のまま全6シーズンの幕を閉じた、「アニメーションのアカデミー賞」といわれるアニー賞などを獲得しているアニメシリーズ。すでに伝説的な存在となっていて、Netflixでは早めに観ておきたいタイトルの一つだ。

 学生時代からの知り合いである、コメディアンのラファエル・ボブ=ワクスバーグと、イラストレーターでコミックアーティストのリサ・ハナウォルトによって創造された、擬人化された動物たちと人間たちが同じ知能を持って共存しているという世界観のコメディーなので、気楽な気分で見始めてしまうところがあるが、実際に描かれているのは、人間の生き方を深く追求するような文学的内容だ。これに最も近い小説は、アメリカ文学を代表するといわれる、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』だろう。

 主人公はボージャックという名前の馬。『フルハウス』のような、家族を題材にしたシチュエーションコメディーのTV番組で、90年代に一世を風靡した俳優でもある。影響力が落ちてしまったいまでも、成功の象徴であるL.A.の高級住宅地に住み、プールがあるデッキから街を見下ろして、酒やドラッグ、セックスに溺れる破滅的な毎日を送っている。その結果、いつも自分の周りの人々を傷つけて自己嫌悪に陥る……という繰り返し。

 心機一転し、ショービズ界でもうひと花咲かせたいボージャックは、自身の回顧録を出版しようとする。そのために雇われたのが、ベトナム系アメリカ人である若い人間の女性のゴーストライター、ダイアンだ。境遇も性格も異なるふたりには、繊細で傷つきやすく、暗い子ども時代を過ごしたという意外な共通点があることが明らかになっていく。そしてエピソードが進むごとに、彼らは人生(馬生)の道を何度も踏み外し、その度に深く苦悩していくことになる。毎エピソード、シチュエーションコメディのような気の利いたラストを迎えるわけでなく、いつも気まずく、苦い現実を噛み締めることになるのだ。

 人生の最も輝かしい瞬間が過ぎ去ったとしても、人は老いていく身体を引きずって生きていかなければならない。固まってしまった性格も生き方も変えられず、忍び寄ってくる苦い現実を少しずつ受け入れていく。それは、おそらくわれわれも多かれ少なかれ、経験していくことである。そんな重苦しい絶望のなかで、もがき続けるボージャックやダイアンたちに希望はあるのか。ぜひ第6シーズンのラストまで観て、自分の生き方の答えについても考えてみてほしい作品だ。

2.『トゥカ&バーティー』

 『ボージャック・ホースマン』のリサ・ハナウォルトの過激なコミック作品を基に、今度は鳥を擬人化したキャラクターたちが登場するアダルトアニメ作品。コメディアンのティファニー・ハディッシュとアリ・ウォンを声優に迎え、それぞれオオハシ、ウタツグミの30歳女性が、幸せを求めて生きる姿を描いている。

 物語の中心となっているのは、ちょっとネガティブな性格であるウタツグミのバーティ。彼氏との倦怠期を迎えていて、会社ではセクハラやパワハラに遭っている。そんな人生を変えようと必死なバーティは、現状を打破しようとして失敗する日々を送り、親友のオオハシ、トゥカの、ときにうざったくなるほどの底なしの明るさに救われている。

 女性の就労についての難しさなど、『ボージャック・ホースマン』同様に深刻な要素を描いているが、主人公のトゥカがこれ以上ないほどテンションが高くエネルギッシュなため、作品自体の印象は明るく、後続の作品ということもあり、ヴィジュアル的な完成度も飛躍的に高まっている。

 注目したいのは、女性主人公の作品として先端的だという部分だ。これまでアニメーション作品では、女性が客体として描かれることが多かった。女性主人公の作品でも、男性の目を意識して魅力的に見えるように作られていたり、女性の赤裸々な感情や欲望は“罪だ”とばかりに、ぼかされている場合が少なくない。

 そんななか『トゥカ&バーティー』は、ときに過激で真に女性キャラクターたちが主体になって突き進んでいく作品だ。そんな彼女たちの姿は、鳥ではあるものの、どんなアニメーション作品よりも人間らしい血が通っている。だからこそ、彼女たちに降りかかる人生の試練が自分のことのように共感できるし、応援したくなってくるのだ。

3.『リック・アンド・モーティ』

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をパロディ化したSFアニメーション。平凡な少年モーティと天才的マッドサイエンティストのおじいちゃんリックが、ともに宇宙に飛び出し他の惑星に行ったり、異次元をさまよったりと、冒険を繰り広げていくシリーズである。

 リックは、いつも口から謎の緑色の液体を垂れ流し、研究や冒険のためなら孫の命を危険にさらすことなど何とも思ってない、倫理観がぶっ飛んだキャラクターだ。モーティはいつでも、そんなヤバいおじいちゃんに振り回され異常な事態に放り込まれていく。

 物語は、“邪悪な『ドラえもん』”だと考えれば分かりやすいかもしれない。『ドラえもん』の栗まんじゅうの回を覚えているだろうか。「バイバイン」という、5分ごとに物体の数を自動的に2倍にしていく未来の道具を使ったことで、食べきれなくなった栗まんじゅうは増殖を続け、それらが天文学的な数になり地球が危機に陥る。追い詰められたドラえもんは、無責任にも倍々に増え続ける栗まんじゅうを宇宙の彼方に飛ばして見て見ぬ振りをすることにする。『リック・アンド・モーティ』は、そんなカオスな状況を毎回のように描いている。

 この作品のすごいのは、SF作品として容赦なく複雑な設定を視聴者にぶつけてくるところ。異なる選択によって分岐してしまった平行世界に住んでいるリックとモーティたちが出会うエピソードなどは序の口で、エピソードが進むごとに内容はそれを応用したような要素を描いていく。

 しまいには、数千、数万の異なる次元からひとつの次元に集結した、おびただしい数のリックとモーティたちが住む惑星が登場することに。そこでは様々な職業についたリックとモーティが都市を形成している。そして、その都市のなかでやさぐれたベテラン警察官が善悪の葛藤に直面するというドラマが描かれるエピソードは、もはや複雑すぎて何を見ているのか分からなくなってくる。このめまいを覚えるような狂気のサイエンス世界を、ぜひ体験してほしい。

4.『ミッドナイト・ゴスペル』

 狂気の世界をさらに先へと進ませた、異常ともいえる作品が『ミッドナイト・ゴスペル』である。子ども向けながら超現実的な内容が大人たちの支持を集めた『アドベンチャー・タイム』のペンデルトン・ウォードが、メーターを振り切った大人向けの作品として異様な世界を追求している。

 主人公は、奇妙でカラフルな惑星に住み、宇宙に自分の放送を流すことが趣味の青年クランシー。彼はネタ集めのために高度に発達した機械を使って、ゲームをプレイするように自分がなりたい姿のアバターに姿を変え、様々な惑星の様々な時代を直感で選び、女性器のようなかたちの転送機から射出されることで、そこに住む人々にインタビューをしに行くのだ。

 描かれるのは、ビートルズのアニメ映画『イエロー・サブマリン』(1968年)のような、鮮やかで無秩序な60年代のサイケデリックな世界。とにかく画面内で、あらゆるものや色彩が絶えず動き続け、LSD常習者の幻覚を見せられているようなアニメーションが展開する。

 だが、中心になっているのは、あくまでインタビューである。宗教やドラッグなど、多彩なゲストにインタビューした内容を、トリップ感ある映像で見せていくというのが、この作品の趣向なのだ。リチャード・リンクレイター監督の『ウェイキング・ライフ』(2001年)にも近い。

 本当に異世界を旅してきたように、ドッと疲れてしまう作品なので、これは1話ずつ間をおいてゆっくり楽しむことをおすすめする。

5.『FはFamilyのF』

 長寿ファミリーアニメ『ザ・シンプソンズ』の脚本家のひとりであるマイケル・プライスが、家族のテーマをより深く掘り下げた作品だ。70年代のアメリカの住宅地に住む平凡な家族を描くこのアニメは、時代なりに家父長制がいまよりも強く、保守性が強調されているのが特徴。

 父親は権威を誇示しようといつも怒鳴っているばかりいる。しかし、ある日会社を解雇されると、彼は途端に立場を失ってしまう。失職した夫は、妻が外で社会的成功をつかもうとすると、それを苦々しい思いで見つめることに。そしてついには、彼女が失敗することを望んでしまう。

 シーズン3では、ベトナム帰りの軍人とベトナム出身の妻の家庭が登場し、ここでも強い家父長制が描かれる。その異常な状況が暴かれる場面は、一瞬心臓が止まるかと思うほど、リアリティがありショッキングだ。

 アメリカにとどまらず、日本を含めこのような男性上位的な価値観によって、これまで多くの歴史がかたちづくられてきた。そしてそれは現代にも色濃く残っている。そんな社会で生きることは、女性にとって不幸であることはもちろん、皮肉にも男性をも苦しめていくことになる。この作品は、人々を不幸にする病巣をとらえ、意味のない男性優位主義を糾弾する内容になっている。

 筆者がアメリカの大人向けアニメーションが好きなのは、広い視野から社会や文化を描いていること、その一方で徹底して個人主義を貫いているからだ。

 楽しいことばかりでなく、苦難や不安がともに存在しているのが現実の世界だ。そんな制御しきれない、猛獣のような存在に対し、どう向き合っていくのかということを、われわれは日々感じて生きている。今回セレクトした5本は、作品の物語から、あるいは作品を作っているクリエイターの姿勢から、そんな現実の障害に対して背を向けるのでなく、個人として突破する道を示してくれるものになっていると感じるのである。(小野寺系)

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