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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

コロナ禍でドライブインシアター復活の兆─ 3密なし、阿蘇の絶景も楽しめる日本唯一の「Drive in Theater Aso」はいま

隔週連載

第38回

20/6/7(日)

全国の映画館が新型コロナウイルス感染防止策で頭を悩ませている中、今、注目を集めているのがドライブインシアターだ。移動から鑑賞まで、全ての自動車で完結し、最大の問題である「3密」を避けられるからだ。熊本・阿蘇にある日本唯一の常設館「Drive in Theater Aso」では月に1回の定期上映を行い、コロナ禍でも安心して映画を楽しめると人気を集めている。

ドライブインシアターは1930年代にアメリカで生まれ、50〜60年代に一大ブームに。日本では1962年に東京都立川市に誕生した「ドライブイン劇場」が最初と言われ、80〜90年代に船橋ららぽーと(千葉)を始め全国各地に作られた。

Drive in Theater Asoは熊本県西原村の人気観光スポット「阿蘇ミルク牧場」内の駐車場にある。JR鹿児島本線熊本駅から車で約50分、JR豊肥本線肥後大津駅から車で約25分。熊本空港から車で約20分。晴天ならば、有明海まで見渡せ、絶景の夜景や満天の星空のもと映画が鑑賞できる。スクリーン300インチ。定員30台。音はFMトランスミッターから聴く。月に1〜2回の定期上映だが、毎回予約でいっぱいになるという。

きっかけは2016年4月に起こった熊本地震だった。西原村は4月14日の地震では最大震度6弱を記録し、家や建物が崩壊し、人的物的ともに甚大な被害が出た。「当時、熊本市内にいたのですが、西原村の実家の隣は生き埋めになり、亡くなられた方もいらっしゃいました」。こう話すのはドライブインシアターを運営する西原村復興団体「Noroshi(のろし)西原」代表の中村圭さんだ。

中村圭さん(本人提供)

中村さんは熊本・西原村生まれ。熊本学園大在学中に米国フロリダ留学した際に地域づくりに目覚めた。卒業後は地銀ならば、地域に貢献できると地元銀行に入行。行員時代からシェアハウス兼イベントスペース「坪井長屋」(熊本市中央区)を経営し、2年後には脱サラし、コミュニティデザイナーとして起業し、さまざまな形で地域づくりに関わっている。「Noroshi西原」を運営する中、被災者から聴いたのは「地震が怖くて、屋内にいられない。映画館に行きたくても行けない」という声だった。

ならば、外で映画を観てもらえればいいのだ。かねてからのドライブインシアターへの思いもあり、構想の実現に奔走。ただ、当時、全国に常設館はなかったことから試行錯誤の連続だったという。2018年11月、西原同村の俵山交流館「萌の里」臨時駐車場にオープン。萌の里駐車場が工事に入るため、4月からミルク牧場に移転した。

作品は主に、ミニシアター作品を中心に映画をレンタルしているマイクロシアターサービス「popcorn」(リニューアルのため、サービス休止中。初夏再開予定)を活用。これまでハリウッド大作『スパイダーマン:ホームカミング』を始め、インド映画『きっと、うまくいく』、カナダの鬼才、グザヴィエ・ドランが主演を務めたスリラー『エレファント・ソング』などを上映。最近では熊本市在住の松田拓真監督が新鳥町商店街の町おこしのために製作した『少年』、ドキュメンタリー『飛べ、新鳥町』などを上映し、松田監督によるトークショーも行い、大盛況だった。

Drive in Theater Asoの魅力とは何か? 「シアターへと続く道はドライブやツーリングの聖地とも言われ、雄大な山々を登り、阿蘇の絶景が堪能できます。スクリーンにたどり着くまでの時間、映画が始まる前の高揚感、夕日が沈む幻想的な瞬間から、星空の帰り道まで。映画そのものだけではなく、映画のような体験をできることでしょうか」と中村代表。

今後は映画を核に、バーベキュー、キャンプなども複合的に組み合わせ、オールナイト上映することも考えている。「映画館ではできないことをやっていきたい。新しい体験を作り、西原村での思い出を県の内外の人に持って帰って欲しい」と話す。最近では、地元のカフェチェーンからオファーもあり、これまでのノウハウを生かして、出張ドライブインシアターも行っていくという。

ドライブインシアターの動きは各地にもある。旭川市の複合娯楽施設ディノス旭川では5月、駐車場内で仮設のドライブインシアターを設置し、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』を、「MOVIE ON やまがた」でも、のん主演の『星屑の町』を上映した。コロナ共生時代に入り、懐かしい映画文化が見直されるかもしれない。

映画館データ

Drive in Theater Aso


住所:熊本県阿蘇郡西原村大字河原3944−1 らくのうマザーズ阿蘇ミルク牧場駐車場
電話:080-6401-5560(中村さん)
公式サイト:Drive in Theater Aso

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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