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『食べる女』で女性たちを取り巻く“食”と“性” 沢尻エリカ、前田敦子らの“食べる”から読み解く

リアルサウンド

18/9/29(土) 8:00

 年齢も、職業も、恋愛に対する考え方も、人生における価値観も異なる8人の女たちが、おいしいものを心置きなく、好きなだけ食べる。“女の本音満載の宴”を通して、現代に生きる女たちの“今”を描く映画『食べる女』が公開を迎えた。

 物語は、主演の小泉今日子演じる餅月敦子(通称:トン子)の家に集う同じ町で暮らす女たちにフォーカスしながら進む。沢尻エリカ演じる小麦田圭子(通称ドド)や、前田敦子演じる白子多実子、果てにはドドや多実子らが行くバーに来ていた女性として広瀬アリス演じる本津あかりが登場する。群像劇としてそれぞれの女性の“食”にまつわる人生を描くが、そこにいる女性はトン子と関係があったりなかったり様々だ。トン子を軸に物語は進むが、深く描かれるのはトン子の周りで暮らすドドや多実子たち。トン子はその生活を見守り、そしてエッセイとして書き留めていくのだった。

■胃袋を掴まれたドドの場合

 本作は“食事のシーン”と“ベッドシーン”が特筆されるべきポイントだろう。そして描かれる女性の人生が、一辺倒ではなく様々なバリエーションがあり、キャラクターとしての深さがあることが挙げられる。独身女性の中でもキャリアがあり、年齢も若くないドドはいわゆる結婚適齢期であろう。しかしドドはマンションを買い、1人での人生を悠々自適に謳歌していた。ある日、タナベ(ユースケ・サンタマリア)と出会うまでは。ドドにとっての食はタナベの作る手の込んだ魚料理だ。食事を作ってもらい、共にするうちに身体の関係まで許してしまう。最後まではっきりとした関係性は提示されないが、タナベがドドに好意を寄せていることは明白だ。そして胃袋を掴まれたドドはその好意を跳ね除けることができなかった。沢尻はこの役で、タナベを跳ね除けられない自分との葛藤を静かに演じる。感情的でなく、クールなドドは沢尻の顔立ちとも相性の良い役である。「かわいらしい」印象の10代から、「クールで艶っぽい」30代の沢尻は本作で先輩女優と肩を並べ、存在感を放った。

■食事に相性の悪さを感じる多実子の場合

 一方、多実子は今その手で自身の恋愛を終わらせようとしている。交際相手から結婚したいと告げられたにも関わらず、浮かない様子であった。その多実子の彼もまたタナベのように料理にマメな男性だという。しかし多実子はなびかない。関係性もどこか刺激がなくしっくりきていないという。ドドが胃袋を掴まれたことと対照的に、食事を作ってもらっても相性の悪さを感じている多実子。食事の相性は、人生のパートナー選びにまで響いてくる。前田はそんな多実子のくすぶる心の内を天真爛漫なキャラクターで真逆に振り切って演じる。悩みは多いが忘れようと必死で飲み歩く。そんな姿にリアルな現代女性の影を感じずにはいられない。結婚したばかりの勝地涼との共演シーンも多く、本作が前田のキャリアを語るに重要な役割を果たしていることは明らかだ。

■“ステーキのような女”を志すあかりの場合

 そしてひき肉料理ばかり作っていたことで振られてしまったあかり。安い女にはならない、ステーキのような女になると決意しステーキ肉を買う。しかし最後にいざ恋仲になった友太(小池徹平)にも結局ひき肉料理を作ってしまうというオチ。自身の価値のアップデートには失敗するが、個性を活かしてより良い恋人に恵まれた。複数の男性とのベッドシーンなど、体当たりの芝居が印象的な広瀬。身体の関係にルーズな役でも前のめりの演技で立ち向かい、清純派としてだけではなく着実にキャリアを積んでいる。古着屋の店員という個性的なファッションも着こなし、イメージの幅を広げた。

【画像】劇中のあかり(広瀬アリス)と友太(小池徹平)

 彼女たちを取り巻く“食”は“性”とも密接に絡みあう。食事を摂るという“生”の部分と、生命をつなぐ“性”の部分、そして本能的に求めあう“食”が奇跡的に一致すると、あれほどのプライドの高いドドでさえタナベを受け入れてしまう。しかし不倫しかしてこなかった多実子がやっと手に入れた普通の恋愛でさえ、これらの“食”や“性”が一致しないとお別れに繋がってしまうのだった。あかりのように“食”にこだわりがなく、ルーズになりがちだと“性”の部分もルーズになりがち。彼女たちの生活は、食事を通して恋愛観や人生観まで筒抜けであった。

 しかしその素直な表情が食事を楽しむ際の喜びでもある。人は思っている以上に食事から得られる情報が多い。几帳面さ、好み、体型も推測でき、アレルギーなどの身体的な特徴までわかる。この“食”というはっきりとしたテーマで描くことで、ドドや多実子は通常の群像劇以上に深堀りされたキャラクターとなった。

 沢尻や前田、広瀬はそれぞれ映画やドラマ俳優としてのキャリアも長い。彼女たちの卓越した表現力は、匂いも味もわからない映画という媒体で“食”を描くというハンデを悠々と乗り越えた。そして小泉や鈴木京香といったベテランと共演し、より一層の魅力を増したように感じる。本作の女優陣は実力派がそろう。群像劇という一人ひとりがフォーカスされる構成の中で、誰一人埋もれることなく、作品を支えきったように感じる。劇場ではその美味しそうな“食べっぷり”にぜひ注目して欲しい。

(Nana Numoto)

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