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氷川きよし、なぜ『ゲゲゲの鬼太郎』OP&EDに抜擢? 50年受け継がれてきた主題歌から考える

リアルサウンド

18/10/28(日) 8:00

 現在放送中のTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(フジテレビ系)第6シリーズは、アニメ放送開始50周年を記念して、これまでオカッパだった猫娘が八頭身美人の“ねこ姉さん”として描かれていたり、鬼太郎がオリジナル本来のキャラクターに近く、あまり人間に寄り添わなかったり、第1シリーズ、第2シリーズで鬼太郎の声を務めていた野沢雅子が目玉のおやじの声優を担当していたりなど、大胆なリメイクが施されていることで以前から話題になっている。その『ゲゲゲの鬼太郎』で、現在OPテーマ「ゲゲゲの鬼太郎」を歌唱しているのが、演歌歌手の氷川きよしだ。10月から放送が開始された新章『西洋妖怪編』では、OPテーマだけでなくEDテーマ「見えんけれども おるんだよ」の歌唱も担当している。

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■〈ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー〉はカエルの輪唱
 1968年に放送がスタートしたTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』は、当初は高度経済成長期に加速した消費社会へのアンチテーゼが込められていたが、その時代ごとに脚色が加えられて放送されてきた。しかし、OPテーマ「ゲゲゲの鬼太郎」だけは、50年前から曲自体は変わっていない。作詞を原作者の水木しげる、作曲を坂本九「見上げてごらん夜の星を」などを手がけた作曲家いずみたくが担当。以来50年にわたって、メロディと歌詞はそのままに、歌い手とアレンジを変更しながら歴史を重ねてきた。これまでにOPテーマを担当した歴代の歌手は、熊倉一雄、吉幾三、憂歌団、泉谷しげる、ザ50回転ズと、特徴的な癖ある歌声の持ち主が名を連ねる。しかし、その声質こそが、OPテーマを歌う上での肝になっていた。というのも、これまでのシリーズすべてにおいてアニメのOP映像では、冒頭の〈ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー〉というフレーズに合わせて、必ずカエルが歌っている画が当てられているのだ。『ゲゲゲの鬼太郎』というタイトルにおける“ゲゲゲ”の由来については諸説あるものの、歌詞における〈ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー〉というフレーズは、カエルの鳴き声を表現しているのだろう。

 氷川きよしは、歴代OPテーマと比べると、キーが高く柔らかい歌声の印象だ。しかし、これまでと勝るとも劣らないものになっているのは、氷川の声質に合わせたアレンジにあるように思う。氷川きよしが歌う「ゲゲゲの鬼太郎」は、まるで時代劇のような笛の音色から始まり、一転して聴き馴染みのあるイントロが流れる。オーケストレーションされたサウンドは、随所にジャズ調のピアノやマンドリンの音色などの要素も確認でき、これまでよりもどこか軽快で上品だ。それは演歌界における、氷川の存在感にも似ている。さらに曲の後半には、巧みに構成された追っかけのコーラスがあり、それがまるで「かえるのうた」の輪唱のようだ。ポイントとなるのは、笛のメロディ。これが時代劇や演歌を想起させることで、氷川と楽曲を絶妙に引き寄せている。50年歌い継がれる楽曲、緻密な編曲、そして氷川の声という三種の神器が揃ってこそ、初めて成立するのが、氷川きよしがいま歌っているOPテーマ「ゲゲゲの鬼太郎」だと言えるだろう。

■氷川きよしが引き継いだ、50年受け渡されてきた駅伝のたすき
 EDテーマ「見えんけれども おるんだよ」は、実にユニークな楽曲だ。まるでGSのようなエレキギター、怪しさを醸し出すストリングスとシンセ。三味線や太鼓の音色も印象的で、間奏では三味線やジャズピアノ、管楽器のソロもあり、後半にはなんとブレイクビーツまで飛び出す。作曲は、氷川が歌う「ゲゲゲの鬼太郎」をアレンジした田中公平が手がけている。この田中公平は、伝説のアニメ『トップをねらえ!』を皮切りに数多くのアニメ作品の劇伴を担当し、近年はアニメ『鬼平』の劇伴やTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』第1部OPテーマ「ジョジョ ~その血の運命~」を作曲したアニメ音楽界の大御所だ。歌詞の中に呼子、白うねり、袖ひき小僧、目々連など、妖怪の名前がずらりと登場するのもポイント。歌う氷川の声も、どこかユーモアを交えながら楽しそうで、それを聴いた子どもたちが、嬉しそうに口ずさむ様子も目に浮かぶ。作詞を担当したのは、水木しげるの実娘である水木悦子。実は、水木しげるが作詞した第1シリーズのEDテーマ「カランコロンの歌」と、今回の「見えんけれども おるんだよ」は、どちらにも“妖怪はどこかにいるんだよ”という共通したテーマ性がある。50年の時を経て、原点をオマージュしながら、OPとEDの歌詞で水木親子が共演しているという点も、どこかドラマチックに感じてならない。

 ビートたけしに命名された時から、チャレンジの連続だった氷川きよしのキャリア。デビュー翌年の2001年には、KIYOSHI名義で河村隆一プロデュースによる「きよしこの夜」をリリース。以降KIYOSHI名義の活動を断続的に続けながら、昨年はGReeeeNとのコラボ曲「碧し」や、TVアニメ『ドラゴンボール超』(フジテレビ系)の主題歌「限界突破×サバイバー」をリリースして、氷川ファンだけでなく『ドラゴンボール』ファンも驚かせた。この流れに加えて、本人が『ゲゲゲの鬼太郎』の大ファンだと公言しているのだから、「ゲゲゲの鬼太郎」を歌うのは必然だったとも言える。これまで日本レコード大賞など数多くの賞に輝き、18年連続で『NHK紅白歌合戦』に出場するなど様々な功績を残しつつ、子どもたちにも認知されている国民的演歌歌手は他にはいない。50年にわたり駅伝のたすきのように受け渡されてきた、「ゲゲゲの鬼太郎」という楽曲を引き継ぐだけの実力とインパクトが、氷川きよしにはあるのだ。

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」の編集を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、これまでにインタビューした本数は、延べ4,000本以上。日本工学院専門学校ミュージックカレッジで講師も務めている。

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