Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ヴィジュアル系シーンとメロコア/パンクの関係性 MUCCからR指定 七星によるgivesまでを整理

リアルサウンド

20/4/13(月) 12:00

 2019年12月29日に活動を「凍結」したR指定。 そのベーシストの七星が、オーディションに応募してきた那緒(Gt)と伊織(Dr)を迎えて2月に活動を開始したのがgivesだ。2020年2月に公開された「帝王切開」のデモ映像では、いわゆるメロコアを思わせる高速ツービート曲とともに、七星が“スリーピース”というコンセプトを語っている。

(関連:V系シーンを代表するバンド R指定とは何だったのか? “凍結”前ラストライブから感じたこと

 他に公開された曲も、メロコアやメロディックパンクに通じる音楽性のものが多い。2010年代を代表するヴィジュアル系バンドのメンバーである彼が、このような音楽性・編成の新バンドを結成した意味を、ヴィジュアル系と、メロコア/メロディックパンクの関係性を整理しながら考えていく。

 ヴィジュアル系の世間的なブームは、1990年代にピークを迎え、LUNA SEAの「終幕」などに象徴されるように2000年に収束していった。そして、日本のメロディックパンクシーンを牽引したバンド・Hi-STANDARDも、2000年に開催した『AIR JAM 2000』を最後に活動休止期間に入った(2011年に復活)。奇しくもヴィジュアル系とメロディックパンクの両方で、シーンの象徴となるバンドが2000年に活動を休止したわけだが、その後、Hi-STANDARDの影響を受けた、とくにスリーピース編成のバンドたちはむしろ勢いを増した。MONGOL800『MESSAGE』(2001年)や、HAWAIIAN6『ACROSS THE ENDING』(2003年)などの名作が生まれ、いわゆる青春パンクやメロコアとして主に若い世代に浸透していった。

 彼らの熱く真っ直ぐな雰囲気は、繊細で耽美なヴィジュアル系の世界観とは真逆だったと言える。入れ替わるように人気が出たという状況も加わってか、彼らに批判的な態度のヴィジュアル系ファンやバンドマンもいた。MUCCの逹瑯(Vo)は、インタビューで「ヴィジュアル系っていうシーンが廃れて来て、メロコアの人気がグイグイ上がってきたとき、当時のいわゆるパンク系の音って好きじゃなかったもん」と発言していたこともある(引用:BARKS)。それだけでなく、彼らは「青き春」(2003年、『是空』通常盤初回プレス分付属のボーナスCD収録)で、粗い録音のメロディックパンクにのせて〈青い春の詩は聞き飽きた〉と歌っている。「絶望」「茫然自失」といった曲を演奏していた当時の彼らが、青春パンクブームに批判的になったのも無理はない。

 ただし、その後に彼らは態度を改める。同じインタビューで逹瑯は「でも、メンバーと話してみると、みんなすっげぇいいヤツで、すっげぇちゃんと考えて音楽やってて、真面目で」とも発言している。音楽的にも、『是空』の時点でメロコアを彷彿とさせる「商業思想狂時代考偲曲(平成版)」を発表。マイナー調のメロディと高速ツービートを合わせたこの曲は、HAWAIIAN6などと共通するところがある。その後も「謡声(ウタゴエ)」(2006年)といったメロコア調の曲を発表しており、こうした要素は彼らの一部となっている。

 MUCC以外にも、ヴィジュアル系シーンでメロコア/青春パンク要素を取り入れた曲は珍しいものではない。MUCCのもつラウドや歌謡といった要素に近しいものだと、ぞんび「クソったれが」(2018年)がわかりやすい。メタルコアにメロコア調のサビをかけあわせた、欧米でいうイージーコアに近いサウンドに、いわゆるヨナ抜き音階のメロディをのせた一曲だ。歌謡+メロコアという点では、R指定「修羅場」(2010年、『人間失格』収録)も挙げられる。メタリックなギターフレーズが頻出するのがヴィジュアル系ならではだ。2000年という、シーンの変換期に結成されたWaiveの「いつか」(2004年、『INDIES』収録)は青春パンクを思わせる曲で、時代の影響が感じられる。影響という意味では、Hi-STANDARDのカバー経験がある西條洋介.(Gt)が創設メンバーのケミカルピクチャーズがいる。バンドとしての音楽性は広く、メロコアが核ではないものの、「溺れる魚」(2012年、『世界を撃った男』収録)という高速ツービートのメロコア曲もある。BEE-315は見た目も音楽性もメロコア/メロディックパンクバンドだが、ヴィジュアル系バンド・メトロノームのリウ(Ba/Vo)が在籍している。

 他にも例はあるが、とはいえ、メタルなどに比べると、メロコアはヴィジュアル系でメジャーな要素とはいえない。こうした状況に、givesが加わることになる。七星はgivesのコンセプトについて、こう述べている。

「なんか現代の音楽って隙間なく音符を埋めてやるぜみたいな音楽になってきてると思うんだ体感上。でもなんか自分が好きだったルーツとかそういうことを考えたときにもっと音数少なかったな。って思っちゃってどうしても」(引用:YouTube)

「激しいロックとかよりは、ポップなものが好きでした。(中略)キャッチーでメロディアスなものが好きで、それは今でも変わらない」(引用:club Zy.)

 2010年代後半、ヴィジュアル系ではシーンの縮小が話題にあがることも少なくなかった(参考:Real Sound)。一方で、メロコアシーンからは、WANIMAや04 Limited Sazabys、ヤバイTシャツ屋さんなど多くの人気バンドが生まれた。もちろん、音楽性だけがシーンの動向を決めるわけではない。たとえば、彼らの人気を後押ししたフェス文化が『AIR JAM』と通じていたというのもあるだろう。それでも、その雑食性で1990年代から音楽性を大きく拡張しながらも、一定の音楽的なトレンドがあるヴィジュアル系で、改めて“スリーピース”と“メロコア”に正面から向き合うことで見えてくることもあるはずだ。(エド)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む