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多摩川の捨て猫と3人のおじさんの絆に涙……愛猫家・後藤由紀子の『おじさんと河原猫』レビュー

リアルサウンド

20/9/25(金) 18:23

 愛猫たまを亡くしてからというもの、猫に関する書籍を手にすることが多くなりました。自然に欲しているということでしょうか。やはり16年毎日抱っこしてきた対象が急にいなくなってしまうというのには、慣れるまで相当な時間がかかるものですね。

自分の身を削りながら猫に愛を注いでいる人たち

 この作品は最初から最後まで、愛溢れるお話。ただの保護猫の話ではありません。余裕のある層の方々ではなく多摩川の河原に住むホームレスの方が、空き缶などを集めてその日に得たお金で、自分の食事もきっとままならない中、猫のごはんを用意しています。

 もちろんボランティアの方々など数人のおじさんが出てきますが、自分の身を削ってまでも猫に愛を注いでいる人たちばかりです。「なんてあったかいんだ」と途中何度も涙しながら読み進めました。

その人たちを当てにした不心得者が猫を捨てに来ることが多いのです。(本書より)

 もともとそんなことをする人がいなければ、こんな過酷な状況で暮らす必要もなかったのです。おうちでぬくぬく優雅な毎日が送れただろうに!と切なくなります。もともとは集落があったそうですがスーパー堤防ができ、高層マンションができ、八方ふさがりになったところ、ボランティアの方々が雨をしのぐ事務用机を用意して、そこを寝床にし発泡スチロールハウスで暖をとれるようになりました。

 それぞれにちゃんと名前を付けられ、ボスと呼ばれる猫もいます。

ほとんどのリーダー猫がそうするように、ボスは他の猫が食事を終えるまで、自分が食べるのを我慢していました。(本書より)

 器が大きいですね。弱っている猫に寄り添ってあげたり、そんな健気な様子にも何度も心が熱くなりました。

猫たちの“救出作戦”が始まる。(本書より)

 このままでは良くないとボランティアの方々と里親探しをはじめました。安心してゆっくり暮らせるようにという思いからです。いつも猫たちのお世話をしている加藤さん、猫たちからの信頼も絶大です。

「猫の世話ばかりしすぎて、奥さんに逃げられた」
「コーラが好きすぎて、糖尿病になっちゃった(笑)」(本書より)

 といつも笑顔の加藤さん。7年間、毎日2回も多摩川に来ていたそうですが、実は体調がすぐれず給餌もいつまで続けられるか不安を抱えていたようです。そんな中の里親探しできっと一安心されたのでは?と思います。

 加藤さんとシロの別れで涙。ボスは捕獲されたクーのことが心配で箱の上から動かなかったところでまた涙。そしてもう一人のおじさんホームレスの高野さんは、13年間猫たちと一緒に多摩川に住んでいました。2019年10月の台風19号で多摩川が氾濫した際、多くの住人が避難しましたが、

自分の世話をしている猫たちがいる。その猫たちを置いていくわけにはいかない。(本書より)

 と猫たちと運命を共にしたおじさんについても触れています。そんな愛情深い人がいる反面、猫を捨てに来る人もいる……。何だかなーと思いながらまたまた涙。

 著者の太田さんは白猫シロと出会います。加藤さんに完全になついていて嫉妬しながらシロを引き取る様子が笑えました。太田さんのおうちには先住人のとらとまるがいましたが長年、野良生活で培ったコミュニケーション能力と順応性で徐々に慣れていきます。

そんな〝空気の読める猫〟シロは、本当は空気を読み過ぎて不器用な猫だったということがだんだんわかってきます。(本書より)

 と分析されています。その後、ぶさいくなぼーと出会ったり三毛猫のマーラが加わりレオーンが加わり、太田家は少しづつ大家族になっていきます。太田家の猫となって7年目、シロは猫エイズと膀胱炎の持病に加え小脳に障害があり闘病生活が始まります。

 詳細はとてもとてもこちらにかけないほどです。涙なしでは語れないドキュメンタリーです。

シロはしあわせがお仕事。(本書より)

 シロは美しくそして本当にいい子だったようです。加藤さんのまねをしてシロに呼び掛けて励ましたり、持ち直して歩いたりもしたのですが、皆さんの看取られながらの最後はオーバーラップしてしまい涙で文字が読めませんでした。是非、読んでいただきたい1冊です。

■後藤由紀子(ごとう・ゆきこ)
1968年静岡県生まれ。静岡県沼津市の雑貨店「hal(ハル)」店主。庭師の夫、長男と長女の4人家族。センスの良い暮らしぶりが雑誌などで人気。著書に『50歳からのおしゃれを探して』『おとな時間を重ねる 毎日が楽しくなる50のヒント』『毎日続くお母さん仕事』『日々のものさし100』など、暮らしまわりにまつわる著書多数。

■書籍情報
『おじさんと河原猫』
太田康介 著
価格:本体1200円+税
出版社:扶桑社
公式サイト

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