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『美食探偵 明智五郎』『東京タラレバ娘』『偽装不倫』など、東村アキコ作品の映像化が続くワケ

リアルサウンド

20/4/11(土) 6:00

 中村倫也主演ドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)が、ついにスタートする。中村が演じるのは、容姿端麗だが三度の食に命をかける美食家の私立探偵・明智五郎という変わり者。彼のもとには、“食”がキーワードになった事件が次々と舞い込み、キッチンカーで弁当販売を営む小林苺(小芝風花)も巻き込みながら、解決を目指していくのだが……。

【写真】りんごを持った中村倫也のソロカット

 この一風変わった事件ドラマの原作は、『主に泣いてます』『海月姫』『東京タラレバ娘』『偽装不倫』などを生み出してきた人気マンガ家・東村アキコによるもの。これまでも多くの作品が実写ドラマ化、映画化されてきた東村アキコ作品たち。なぜ、これほど彼女の作品が次々と映像化されているのだろうか。

■「ダメな部分」で掴む共感性

 東村アキコ作品の多くが、主人公の欠点をさらけ出すところからスタートしている。本作の明智五郎も周囲から「めんどくさい」扱いをされるなど、「ダメな部分」を最初に明かされるのだ。振り返ってみれば、『主に泣いてます』の主人公も美人だが幸薄なモデル女性、『海月姫』では男性を目を合わせることもできないオタク女性、『東京タラレバ娘』は恋も仕事もうまくいかず居酒屋で女子会で「~してたら」「~してれば」と言い合うばかりの30代女性、『偽装不倫』では周囲から「パラサイトシングル」と言われてしまう婚活に苦戦した派遣社員の女性……と、その「ダメな部分」が実にリアル。だからこそ、多くの読者から「わかる!」「私と同じ!」という共感を呼び、一気に物語のなかに引き込んでいくのだ。かつて漫画の主人公といえば善良で健気で、努力家であることが多かった。だが、東村アキコ作品の主人公は適度に毒づき、したたかに生きていく。そんな人間味溢れる現実的なキャラクター設定があればこそ、その先にある漫画的な展開も“現実のパラレルワールド”として受け入れ、楽しむことができる。

■「今こそ」と思わせる旬のテーマ

 そのリアルなキャラクター設定に欠かせないのが「今」の時代に漂う不安や不満だ。SNSの普及によって誰もが自分の言葉を発信できるようになり、実に多様な声が聞こえるようになってきた。「美人だって苦労している」という声や、同じ趣味でつながることができて「生きやすくなった」という声、逆にネットの口コミ評価によって苦労する声も……。「東京オリンピックまでに幸せになっていたい」という声も、実際に東村アキコの周辺で女性たちによって語られていたことだと、インタビューで答えている(参照:https://www3.nhk.or.jp/news/special/heisei/interview/interview_06.html)。東村アキコの漫画は、そんな日常的に交わされる会話やWeb上で話題になっていることを切り取って生まれている。だからこそ、「映像化するなら今しかない」と思わせるストーリーになっているのではないだろうか。むしろ、小さなコミュニティで囁かれていた話題が、東村アキコの手によって漫画になることで、世間にたゆたう空気として確立されると言えるかもしれない。

■耳の痛い話を「ギャグテイスト」で

 「恋ができない」「仕事もうまくいかない」「結婚できないかもしれない」「めんどくさい大人になってしまっているのでは?」……という「自分は幸せになれないのではないか」という不安を最初に突きつけることになるので、最初は「ウッ」とボディブローを食らったような気持ちになるが、登場人物のテンションがやたらと高く、悲壮感がない。カッコ悪い自分自身へのツッコミも、痛みに対するリアクションも、1つひとつが全力だ。明智五郎のような冷静なキャラクターに対しては、小林苺のようなツッコミ役が代わりに全力投球で絡んでくる。このカロリーの高さこそが、もしかしたら現代人が東村アキコ作品を求めている最大の理由かもしれない。私たちは、生きるということに省エネ化されすぎているのではないかと思えてくるのだ。たとえ「痛い大人」とバカにされても、自分の好きなことを追求し、恋をして、ダメな自分さえを笑いながら、全力で幸せを探しに行くべし! そう、背中を押してくれるエンタメだからこそ、東村アキコ作品は多くの人に求められているに違いない。

(佐藤結衣)

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