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中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界

M&Oplays プロデュース『DOORS』

毎月連載

第31回

M&Oplays プロデュース『DOORS』チラシ(表)

ビビッドな色合いの衣装を身にまとったキャストと、ポップなイラスト。けれどロゴの中から目がこちらを見つめていたり、白地に黒で描かれたドアの向こうには渦が巻いていたりと、どこか不穏な雰囲気も……。そんな倉持裕さん作・演出の『DOORS』のチラシを中心に、M&Oplaysのチラシを多く手掛けている坂本志保さんにお話を伺いました。M&Oplaysのプロデューサーである大矢亜由美さんにもご同席いただきました。

左:中井美穂 右:坂本志保さん

中井 坂本さんはM&Oplaysのチラシを多く手掛けてらっしゃいますね。

坂本 ありがたいことに、たくさんやらせていただいています。

中井 最初のきっかけは?

大矢 坂本さんが元々、岩松了さんのチラシを担当されていて。

坂本 岩松さんとは古くて、「竹中直人の会」に岩松さんが脚本をお書きになっていた頃に竹中さんからお仕事が来て以来、毎回ご一緒していました。「竹中直人の会」ではポスターやチラシのビジュアルのどこかに必ず岩松さんの姿を映り込ませるというコンセプトがあったので、竹中さんの目の中にそっと岩松さんの写真を入れたりしていました(笑)。しばらく経って、岩松さんから演劇集団円の『西へゆく女』という岸田今日子さん主演の芝居のチラシをお声がけいただいて、それからM&Oさんのお仕事もするようになりました。

演劇集団 円『西へゆく女』(2003年)チラシ

中井 竹中さんとお知り合いになったのは?

坂本 私、安斎肇さんのアシスタントというか弟子だったんです。安斎さんのところを辞め、フリーのデザイナーになってほぼ初めての仕事が宮沢章夫さんの「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」のパンフレットで、ラジカルに竹中さんもいらっしゃったのがきっかけです。

中井 では、独立されてかなり早い時期に演劇のチラシを手掛けられることになったわけですね。

坂本 そうです。フリーになりたての頃はまだ小さな判型のサブカル誌だった『宝島』の仕事がほとんどで、その流れで川勝正幸さんからラジカルのお仕事をいただいて。

中井 以前から演劇はご覧に?

坂本 地方にいると演劇を観る機会ってほとんどなくて。上京して入った大学に演劇科があったので、演劇科の先輩に連れられて状況劇場を観たのが初めてです。

中井 初めて観た演劇はどうでしたか?

坂本 びっくりしちゃいました。ラストでテントが開いて、新宿の副都心が見えて……。衝撃を受けて、学生時代は状況劇場だけは観ていました。でもそれ以外はあまり観ていなかったし、演劇の仕事をやろう! というつもりもあまりなく……。

中井 でもなぜか演劇のお仕事が来るようになったわけですね。

坂本 面白いですよね。プロデューサーご本人を前にして言うのもなんですが、M&Oさんのチラシは自由にさせてくれるので、作っていて楽しいです。

中井 M&Oplaysのチラシって、劇団のように「M&Oらしさ」というか、独特の色がある気がします。

大矢 だとしたら、それは坂本さんの色だと思います。

倉持作品と安斎イラストの共通点は「品のあるポップさ」

中井 坂本さんは倉持さんの作品のチラシをいくつか手掛けてらっしゃいますが、打ち合わせには倉持さん自身も参加されますか?

坂本 はい。倉持さんは必ず。

大矢 最初の打ち合わせに参加したいと言いますね。

坂本 でもそんなに具体的な意見を出されるわけではなくて……。

大矢 坂本さんのご提案に「ああ、いいですね」って。

中井 きっと、参加している中で作品のヒントをもらうのでしょうね。倉持さんの思い描く映像にピントがあってくるというか。

坂本 そうだといいですね。

大矢 今回の『DOORS』に関しては、「ちょっと不穏な感じにしたい」というのは倉持が強く言っていました。

中井 たしかに、ポップではあるけれど、「見えないけど誰か後ろにいるかもしれない」と思わせるような雰囲気もありますね。

坂本 そうです、ポップで不穏にしたいということだったので、安斎さんの絵を白地に黒で入れよう、というのは打ち合わせ中に思いつきました。

中井 なぜ安斎さんのイラストがいいと?

坂本 倉持さんの作品ではよく安斎さんにイラストをお願いしていますが、二人のポップさがすごく似ていると勝手に思っていて。ポップだけど品のある感じが合っているなと思って、倉持さんの作品だとすぐに安斎さんを思い浮かべてしまいます。

中井 なるほど! ポップで不穏という狙いが完璧にビジュアルに落とし込まれていますね。

坂本 伝わってます? よかった!

中井 それに白地のチラシって意外と多くなくて、目立つなと思います。

坂本 安斎さんのイラストを黒地にするので、白がいいと思っていました。衣装も映えますし。

中井 衣装はどのように決定を?

大矢 スタイリストさんにも最初の打ち合わせから入ってもらっています。やっぱり衣装って大事ですよね。

坂本 大事です! スタイリストのチヨさんという方が把握力の素晴らしい方で。ずっとご一緒しているのですが、好みが合っているという面もあるのかもしれません。

中井 必ずしもこのままの衣装で舞台に出てくるわけではないというのは、チラシの面白いところですよね。もちろん舞台衣装で写っているチラシもありますが。チラシのビジュアルと舞台の世界が隣同士になるときと、ぜんぜん違ったなというときに別れるという。

坂本 私の場合、チラシの衣装は、舞台衣装よりちょっと現実離れしている感じを考えます。たとえば、赤堀雅秋さんの場合は舞台衣装が絶対に現実的になりますから、チラシとかポスターはもう少しだけおしゃれで夢のある感じにしています。

中井 その関係性が面白いですね。『DOORS』もまさにそうですね、とてもポップな色合いで。

坂本 倉持さんの作品は、衣装でもかなり遊べるので楽しいですね。

中井 この衣装はどう決めましたか?

坂本 まず柄物で、主演二人は暖色系ということと、安斎さんのイラストと合わせますとお伝えしたらスタイリストさんが候補をたくさん見せてくれます。その中から現場に何着か持ってきてくれて、最終的には俳優さんの意向も聞いて選びます。

中井 撮影のポージングはどのように?

坂本 カメラマンさんはつまらないかもしれないなと思いつつ、私はラフをけっこうきっちり描くんです。今回ならロゴに肘を着くというところまで決めてしまう。

中井 ポージングも含めてデザインのひとつという認識ですね。

坂本 その代わり、パンフレットでは自由に動いてもらっているのを使います。撮影は楽しいですよね。チラシ撮影って、役者さんが初めてこの芝居に関わるタイミングでもあって。

大矢 撮影は大事です。だいたい2年前にはオファーをしているので、そこから何もなくて稽古初日だと唐突すぎて……。本番半年前くらいの「舞台がはじまりますよ」というワンクッションがチラシ撮影なので、とても重要だと思います。

坂本 チラシの撮影現場が楽しければきっと稽古にもいい印象で臨めると思うので、なるべく現場を楽しい感じにしたいなと。カメラマンさんも性格のいい方を選ぶようにしています(笑)。

中井 イラストはどう発注されていますか?

坂本 プロットをお渡しして、ラフを見せて。「二人がドアの前にいるかたちにしたいのでドアを描いてほしい、中央のロゴの上はエンブレムっぽくしたい」「いつもの安斎さんの画風よりは大人っぽくしてほしい」とお願いしました。

中井 かつての弟子だけあって、安斎さんを知り尽くしているからこその発注ですね。時計や鍵など、作品のモチーフになりそうな絵もありますね。

坂本 これは安斎さんが自由に描いてくださったものです。中央のふくろうも「エンブレムっぽく」というだけでこれを描いてくださって。安斎さんは一つひとつのパーツをばらばらに、A4の紙いっぱいに部品をたくさん描いてくださるので、それを組み合わせて使っています。安斎さんもデザイナー出身なので、デザインを大事にしてくださる。元弟子ですから、気に入らないと描き直しもお願いしますが、意見をちゃんと聞いてくださいます。ただ遅いのだけがネックで……。

中井 (笑)。表はまずキャストとイラストに目が行きますが、ふと見るとロゴの中に目があるのが不穏ですよね。

坂本 最初は鍵穴を入れてみたのですがちょっとまぬけで、目を置きました。『グレート・ギャツビー』で不穏な眼鏡屋の看板があったのを思い出して、目がいいかなと。

中井 紫というのはどこから?

坂本 これは勘です(笑)。表は不穏さと、あとは役者さんの衣装の色を引き立てたかったのであまり派手な色を使わないようにして、裏返したときにピンクが飛び込んでくるのがいいかなと思って。

M&Oplays プロデュース『DOORS』チラシ(裏)

中井 裏面も、わかりやすさとおしゃれという、なかなか両立しないものが両立しているチラシだと思います。

坂本 私、タイムテーブルがすごく好きなんですよ。タイムテーブルにいちばん時間をかけているくらい。演劇のチラシをみていると、タイムテーブルがぞんざいに扱われているものもあって、もう少しかわいくしてあげればいいのにって思うことがあります。

中井 だいたいが黒い点だけだったりしますものね。『DOORS』のタイムテーブルは点線がリズミカルというか、グラフとか音符のように見えます。ここだけ踊っている感じ。

坂本 うれしい、まさにそうです!

大矢 毎回かわいいなと思ってはいましたけど、坂本さんがそこまでタイムテーブルが好きだとは今知りました(笑)。

制約の中から生まれてくるもの

中井 装丁など、ほかのデザインのお仕事に比べて、演劇のチラシの特殊性はどこにありますか?

坂本 特に書き下ろし作品だと、プロットとタイトルしかない。岩松さんの『西へゆく女』のときは、タイトルと「女スパイの話」ということだけでした。

中井 岩松さんは倉持さんのようにチラシに対して意見を出す人という印象がないのですが……。

大矢 ないですね、おまかせです。

坂本 だから打ち合わせにも同席されないですし、その分自由に考えられます。

大矢 もちろん事前に確認はしますけど、「そう」という感じ。

中井 それだけ信頼しているということでしょうか。

坂本 その辺は聞いたことがなくて。でも、『西へゆく女』のときは、イラストレーターの木村タカヒロさんにお願いして、女スパイにピストルを持たせた絵を描いてもらいました。そしたら岩松さんに「チラシでピストル持ってたから、芝居の中でもピストルを使うことにした」と言われて、ちょっと感動してしまって。

中井 自分の作ったビジュアルが物語に持ち込まれたわけですね。

坂本 チラシが作品に影響しちゃうのは面白いなと思いました。それにタイトルとプロットしかない分、自由に発想できるのはやはり楽しいです。

中井 いざ本番を観てみたら、聞いていたのと違うということも?

坂本 赤堀さんの作品ですね(笑)。

大矢 赤堀さんは設定も、役柄のキャラクターもプロットとはぜんぜん違うということがけっこうありますね(笑)。

坂本 赤堀さんとは『流山ブルーバード』で初めてご一緒しましたが、撮影の時点では赤堀さんは泥棒だったかそういう役と聞いていたのでスタイリストさんとちょっとおしゃれでいかがわしい格好を相談して撮ったんです。公演を観に行ったら、スナックのマスターでした(笑)。

『流山ブルーバード』(2017年)

中井 岩松さん、赤堀さん、倉持さんという三人の演出家はそれぞれ違う個性の持ち主ですが、坂本さんにとってはどんなイメージですか?

坂本 岩松さんのチラシは文学的な感じ。写真も、作品にもよりますが、あまり役者さんに表情を作らせたくないなと思うことが多いです。

中井 岩松さんはまさに「表に出ているものはあてにならない」という作品ですしね。

坂本 赤堀さんはまだ2回なので、ちょっと把握しきれていませんが、『白昼夢』の観劇後に安斎さんとカメラマンの方と話していて「岩松さんは文学だけど、赤堀さんは映画だね」という話をしました。『白昼夢』のときは夢の中のようなぼんやりしている感じを出したくて、わざとピンボケの写真を撮ってもらってチラシにしました。

中井 『白昼夢』はすばらしかったですね。全員に対して「やっぱりこの役者さん、いいな」と思える作品ってなかなかないです。

大矢 ご本人も手応えを感じていたみたいです。あの作品は、コロナの状況もあって、実は皆さんに頭を下げて出演者を減らしています。でも制約のある作品づくりを赤堀さんが受け入れてくれて、そこで勝負してくださって、しかも素敵な作品になった。かっこいいなと思います。

坂本 チラシを作った芝居が面白いと、すごく嬉しいです。

大矢 『DOORS』も当初の想定からキャストの人数を減らして、作品も書き下ろしに変えたものです。『白昼夢』も『DOORS』も、コロナがなければ生まれなかった作品です。

坂本 倉持さんは二面性というか、『鎌塚氏』シリーズのようなコミカルなものと、シリアスなものと両面ありますよね。

中井 確かにそうですね。

大矢 チラシについても、コロナに関わらず現実的にクリアしなくてはいけない問題がたくさんある中で、坂本さんは芸術性先行にはならず、ちゃんと聞いてくださるのがありがたい。

坂本 デザインは発注してくださる対象ありきの、他人のふんどし商売なので、意向の中でどれだけいいものを作れるかですよね。

中井 チラシは今後どうなると思いますか?

大矢 やっぱりできる限り作りたいです、紙のチラシは。デジタルだとどうしても「芝居が始まるぞ」という実感が持てないですよね。みんなが集まって写真を撮って、それが紙になってという工程を経て稽古に入るというのを長年やってきたので、もはや儀式のようなもので(笑)。手間のかかる工程を省略していくと「あれ、いつはじまったっけ?」という感覚になります。

坂本 デザイナーとしてはそう思っていただけるとありがたい。

中井 観客側としても、仮チラシのまま本番がきてしまうと「本当にやるのかな?」という気持ちになってしまいます。チラシが好きだから、仮チラシのまま、あるいは紙のチラシがないまま公演が始まると、さみしくなってしまいますよね。

大矢 やっぱり「やりますよ!」という実感、覚悟がチラシにはあります。演劇って試写もなくてチラシしかイメージを伝えるものがないから、とても大事だと思います。

坂本 演劇の方って、チラシを大事にしてくださるから嬉しい。音楽なんてもうほとんど作りませんものね。

中井 演劇は、もしかしたらいま、唯一紙のチラシが残っているジャンルなのかもしれませんね。

構成・文:釣木文恵 撮影:源賀津己

公演情報

M&Oplays プロデュース『DOORS』
日程:5月16日(日)~30日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
※群馬、新潟、富山、大阪、名古屋、福岡公演あり 作・演出:倉持裕
出演:奈緒、伊藤万理華、菅原永二、今野浩喜、田村たがめ、早霧せいな

プロフィール

坂本志保(さかもと・しほ)

三重県出身。安齋肇氏のアシスタントを経て、85年に独立。岡崎京子、ナンシー関、町山智浩、竹中直人らの書籍の装幀や演劇ポスターやパンフレットなどを多数手がけている。近年手掛けた演劇公演の宣伝美術に、『そして春になった』(20)、『鎌塚氏、舞い散る』(19)、『クラッシャー女中』(19)、『ロミオとジュリエット』(18)などがある。

中井美穂(なかい・みほ)

1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めるほか、「鶴瓶のスジナシ」(CBC、TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より読売演劇大賞選考委員を務めている。

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