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GOMESSが明かす、『あい』『し』『てる』三部作完結編で挑んだ“ヒップホップ”の再定義

リアルサウンド

19/4/24(水) 7:00

 GOMESSのニューアルバム『てる』は、2014年の『あい』、2015年の『し』に続く三部作の完結編だ。しかし、これまでの流れをただ踏襲しているわけではなく、DJ BAKU、O.N.O(THA BLUE HERB)といったヒップホップの大物や、の子(神聖かまってちゃん)のようなロック畑のミュージシャンまで、豪華な顔ぶれをプロデューサーに迎えている。ただ、『てる』の核心はそこだけではない。GOMESSが今一度「ヒップホップ」の再定義に挑んだという野心作なのだ。GOMESSが見据える日本のヒップホップのリアルとはなんだろうか。話す言葉のすべてに熱く心地よいフロウがあるGOMESSに話を聞いた。(宗像明将)

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■『あい』『し』『てる』は僕の一番言われたい言葉だった

ーー改めて考えると、『あい』『し』『てる』ってストレートですよね。日本人的ではないぐらい。

GOMESS:そうですね。僕の一番言われたい言葉だったんです。ちっちゃい頃からすごい憧れていた言葉で。でも、なかなか言われることないじゃないですか。お母さんとかお父さん、お姉ちゃん、誰でもいいですけど、自分が好きだなって思う人に、その言葉をかけてほしかったっていう思いがずっとあって。

ーー今回『てる』を制作する過程で、クラウドファンディングも行われたじゃないですか。そこまでして豪華なプロデューサーを招いた理由はなんだったんでしょうか?

GOMESS:今までの作品は自分の見ている世界にあるものをかき集めて作っていて、予算もあんまりなかったから周りにいる仲間の協力があってなんとか形にできていたんですよ。でもそろそろ次の景色が見たいなって。今まだ見えてない世界の人たちと交流するためには何が必要なのかというとお金だったんですよね。

ーーまだ見たことがない世界に突っこんでいこうというモチベーションというのは、どこから湧いてきたんですか?

GOMESS:一番大きなきっかけは、 SEKAI NO OWARIの主催イベントに出させてもらってることだと思います。嬉しい気持ちの裏で、悔しい気持ちがいつもあります。ボーカルのFukaseくんが酔っぱらうと、「お前はどこまで行きたいんだ!早く来いよ!」と言ってくれるんです。もちろん「行きます!」って答えるんだけど、悔しいんです。足りないものが自分にはまだいっぱいあるってことがシンプルに悔しくて。自分をもっと研ぎ澄まして高めて、更に新しい世界を作りたい、もっと進化したいと強く思ってます。今もずっと。

ーーアルバムのタイトルですが、『あい』なら「愛」や「I」や「相」、『し』なら「死」や「詩」と、ダブルミーニングやトリプルミーニングがありました。『てる』だと「tell」や「照る」という言葉が浮かびます。自分の中で「てる」っていう言葉にかけたテーマは何でしたか?

GOMESS:『あい』と『し』のときは深読みできるようにはぐらかしてきたんですけど、『てる』はもうそういうの面倒くさいなと思ってきて。よくあるじゃないですか、「音楽は聴き手の自由だから」みたいな感じで余白を残すみたいな。そういうアーティシズムみたいなのが、最近なんだかうさんくさいなと思って、はっきり言ってこうと思って。『てる』は「何かしてる」、つまり「ing」ですね。

ーー余白は作らない?

GOMESS:うん、はっきり示そうと思いましたね。『てる』は全部自分のこと。『あい』し』てる』は自分の話ばっかりしてる。

ーーGOMESSさんの場合は「日本レコード大賞」で企画賞を獲ったじゃないですか(2015年、朝倉さやとのコラボ楽曲「RiverBoatSong」収録のアルバム『River Boat Song-FutureTrax-』)。そういう権威的な評価を得られた場面もあったのに、やっぱりヒップホップシーンで新しい人達とやるというのは冒険だと思います。

GOMESS:そうですね。特に中高ぐらいの一番人生がつらいなって思っていたタイミングに、一番勇気をもらってたのがヒップホップなんですよね。そのときに聴いていたアーティストを新しいアルバムには入れようというのが、まず第一にあって。DJ BAKUさん、Michitaさん、O.N.Oさんもそうなんです、当時は名義も違うけどDYES IWASAKIさんも聴いてた。あとは、俺はもともとゲームの作曲家になりたかったんです。小学生のときにDTMを始めて、架空のゲームBGMをいっぱい作っていて。今回1曲目(『I am lost』)のsoejima takumaさんは、僕の好きなゲームのサントラを作っている人なので、ゲームの体験会とか行って会って、それで曲ができあがった。僕にとって一番つらかった時期、夢もクソもねぇやって思ってた毎日のなかで、これだけはと好きに思えて、自分の心の癒しだったものを詰めこもうっていうのはテーマとしてありましたね。

ーー『あい』『し』『てる』の三部作って、聴いていて重い球だと思うんですよ。自閉症を含めて、GOMESSさんの抱えてきたものは、音楽活動をするなかで徐々に癒えるものでしょうか?

GOMESS:癒えていると思いますよ。でも、別に音楽活動は関係ないと思います、生きてたらみんな癒えるから。ただ、人生最悪の時に俺を救ってくれた音楽がヒップホップだったんですよ。ヒップホップは聴いてるだけで強くなれる気がした。この話はすごくしておきたかったんですけど、『てる』で一番大事なのは、「ヒップホップ」っていうテーマを抱えてることなんですね。

ーーずっとヒップホップをやってきたじゃないですか、GOMESSさんは。

GOMESS:今「ヒップホップとはなんぞや」っていうその定義をすることを、みんながしなくなってきてしまっている。確かにいろんな観点から見ることができるものだし難しいんですけどね。音楽に絞ってもスタイルも多様化してるからと定義を語ること自体微妙な感じになってて。例えばですけど、Run-D.M.C.とXXXTentacionを並べて聴いたときに「同じ音楽なの?」って俺は思うんですよね。全然違う音楽じゃんって。音楽性でヒップホップとは一言で言えなくなった。でも、みんながそれをわけずに「ヒップホップ」って呼び続けているのは、やっぱり理由があると思うんです。それは、ヒップホップっていうのは精神に近いところにあるからで。ギャングが、なぜ「仲間が死んだぜ」とか、そういう話ばっかりしてるかって言ったら、それが手本になるからだったりするんですよ。声をあげられずに仕方なく生きている人たちがいっぱいいて、だからその中で声を上げて「俺はこんな人生なんだ、こういう暴行を受けてきたし、こういう処遇を社会で受けてきた、マジでこのままでいいのかよ」って現状への警鐘を鳴らすのがヒップホップだと俺は思うんです。

 「じゃあ日本のヒップホップはどこにあるの?」って考えたときに、精神病棟だと思ったんですよ。ダルクや児童相談所、あるいは家の中にもいるか。学校にも会社にも路上にも、傷ついた人がこの国にだっていっぱいいるんですよ。その中で誰かが声を出してリーダーにならなきゃいけない。外からじゃなくて内側のその中から。それがリアルを歌うヒップホップの理由だと思うんですよ。

ーーそういう話を踏まえて聴くと、1曲目の「I am lost」は、soejima takumaさんのプロデュースだけどいわゆる「ゲーム音楽」のイメージとはだいぶ違いますね。生まれてきて自分がなんでここにいるんだ、ぐらいの感覚から始まるじゃないですか。

GOMESS:僕はゲーム的だと思ってて。もともと「MOON」とか「MOTHER」とか、存在のあり方をテーマに織り込んでいるようなゲームが好きで、soejima takumaさんが音楽を作っている「あめのふるほし」とかもそういうニュアンスで。一曲の中でどんどんと物語が展開していくような楽曲にしたいとかなり細かくディスカッションしながらあの形にたどり着きました。

■人生最大のターニングポイントになった、優しい母への思い

ーー2曲目のDJ BAKUさんのプロデュースの「光芒」は、どういう経緯でコラボが実現したんでしょうか?

GOMESS:BAKUさんとライブでの共演が決まっていたとき、直前に主催者の人が計らってくれて、ご飯の席を作ってくれたんですよ。でもそのときは「一緒に作りましょう!」とか軽々しくは言えなくて(笑)。尊敬してたので。で、セッションして、マジで気持ちよくて、その帰り道に言ったんじゃないかな? 「俺もっとやりたいです!」「いいよやろうよ!」みたいな(笑)。O.N.O さんも出会いは突然というか、ある日の僕のRUBY ROOM TOKYOのライブを最前で見てくれて、終わった後に「俺のトラックでやったらどうなるんだろう?」と言ってくれて「それはもうすごいことになりますよ!」みたいな話をしてそれから。

ーーそれにしても『てる』は、DJ BAKUさんにO.N.Oさんとすごい顔ぶれですよね。

GOMESS:作曲家の人選はこだわりましたね。みんなが「あー、そこね」ってなる奴は入れない。人生で一番辛かった時期に好きだった人、あの時に出会っていたら好きだったろうなって思えるアーティストを主軸に考えました。中でもMichitaさんの音楽には過去に何度も救われました。ビートが一本ガツンと柱としてあって、その周りに美しい旋律が景色のように舞っていて、言葉がドラマを展開する。それってすごくヒップホップ的だと思うんです。最近エモ系のトラックメイカーが増えてるけど、彼の本質はビートにあるから他とは全く違うなって。だから、彼をアルバムに組みこむときには絶対にヒップホップのアルバムにしようと思いました。あと、MichitaさんとO.N.Oさんってふたりとも北海道だけど、同じアルバムで共演って全然ないよなと。だから、そこをひとつにぶちこむみたいな。ヒップホップの好きなところって、遠く離れていてもつながっていくことだから。1枚のアルバムに色々な面子が集まった、ドキドキをくれるアルバムになったかなって思いますね。

ーーMichitaさんのプロデュースの「Candle」では、GOMESSさんが仲間の死を歌っていますね。

GOMESS:ビートが先にあって、何回も聴いていく中で、俺が15歳のときに病気で死んだ、ラップを教えてくれた奴のことを思い出して。そいつのことを歌にしたいなってずっと思ってたので。あんまりきれいな曲にしたくないって思いがあって、Michitaさんとだったら、きれいにならずに歌える気がするなって思って書きましたね。

ーー「魔女狩り」のプロデュースは、神聖かまってちゃんの子さんですが、ヒップホップのトラックっていうよりは、の子さんがYouTubeにアップする神聖かまってちゃんのデモ音源みたいですよね。

GOMESS:大正解だと思います(笑)。の子さんには、SEKAI NO OWARIの主催イベントで毎年会ってたんですけど緊張しちゃって全然話せなくて。どうしてもなんか一緒にやってみたいなと思って、の子さんにTwitterでDMしてみたんですよ。そしたら「今日と明日レコーディングしてるからおいでよ」って言われて、こじあけて。川沿いを歩きながらしゃべって。の子さんが「俺たちみたいな奴らが、この世界でもっと聴かれなきゃいけないんだよ。でも、この世界は現実逃避がしたいから俺たちみたいな音楽は聴いてくれねえんだよ」みたいなことを言ってて、俺も本当にずっとそう思ってたから、「やっぱりこの人しかいない!」みたいな気持ちになってしまって、「マジョリティなんて概念殺してやりましょうよ!」みたいな。「魔女狩り」はマジョ狩りなんですよね。実は、の子さんが送ってきたまんまの2Mixに、ラップをミックスしてるんですよ。エンジニア泣かせだったんですけど、それが一番俺との子さんがぶつかってる感じがするかなって思って。

ーー今日の取材は藤本九六介さんが同席してくれているんですけど、Paranel名義でも「ai」「tell」をプロデュースしていますね。

GOMESS:「ai」はもともと、Terumasa Setoという男が作曲して、藤本九六介がParanelっていう名前で編曲したんですね。Terumasa SetoとParanelっていうのは「人間失格」のチームなんですよね。自分の中ですごく大事なふたりで。

ーータイトル曲としての「tell」というのは、アルバムのタイトル曲であり最後の曲であり、「自分も変わっていくものなんだ」っていう、ある種の達観みたいなものがありますよね。そういう視点は先にあったものでしょうか、それとも曲との共鳴で生まれたものでしょうか?

GOMESS:「tell」は「てる」を補完するための曲なんですよ。アルバムの『てる』って、現在進行形と言ったじゃないですか。だから続いているということがわかる曲になればいいなって。こだわったところといえば、最後の曲「tell」と1曲目「I am lost」はリピート再生したときに、次にくるじゃないですか。そのときに「I am lost」の聴こえ方が変わればいいなと思って作りましたね。もちろん『あい』の最初の「普通のことができないから」に戻ってもいいようにしてあるし、『し』の最後の「箱庭」から『てる』の「I am lost」に行ってもいいようにしてあって、ちゃんと三部作を並べて聴いても大丈夫なようにこだわっていますね。

ーー「蝉」のプロデュースは、解散したGOMESS BANDじゃないですか。いつ録った音源なんですか?

GOMESS 活動当時ですね。ほぼ完成してるみたいな曲が20曲ぐらいあるんですよね。そのときのまんまの音源を使いました。ミックスはエンジニアにしてもらってるんですが、俺ん家で録った音質の悪いデモをそのまんまの感じでってお願いして。

ーーそして歌詞は、お母さんが子供に虐待をしている……?

GOMESS あっ、そういう風に映りますか? 違うんですよ。僕があまりに毎日パニックばっかりで、死にたいって泣き叫んでて。親は嫌じゃないですか、子供に死んでほしいわけないから。必死にそれを止めたりするというのを何年も繰り返していく中で、親も疲弊しますよね。真剣であればあるほどね。お母さんは優しい人だから心を痛めてしまって、ある日、全て終わりにしようかって提案をしてくれたんです。そのときの思い出を書いてますね。暴力なんて振られてないし、それは誤解のないように言っときたいです。あの日壊れかけたお母さんを見て、「俺のせいだ」って。「もうこんな思いをさせたくない」って思って。そこが俺の人生の一番のターニングポイントだったと思ってて。

■これはヒップホップの棚で死んでいいアルバムじゃないと思う

ーー「障害」のプロデューサーは津田直士さんですが、X JAPANのプロデューサーですよね。これはどういうきっかけなんですか?

GOMESS:もともと共通の知り合いがいたんですけど、急に電話で「津田さんって人がいてGOMESSくんに会いたいと言ってるんだけど」って言われて。トントン拍子で話が進んで、その知り合いの主催イベントで共演することになったんです。当日初対面でセッションしたんですけど、それが本当に良くて。「ああ、この人は歌詞に反応してメロディからリズムから、一緒に会話ができる人なんだ」ってびっくりして、この人のピアノはちょっと特別だなと思いまして。「障害」の原曲はもう4年前に書いた曲で、すごく大切にしてきた曲だったんだけど、津田さんになら託せるだろうと直感で思えたんです。幸せなことですね。

ーー津田さんといい、O.N.Oさんといい、なんでそういう人たちが、GOMESSさんに注目してくると思います?

GOMESS:音楽があったから生きてこれたっていう人、結構いるじゃないですか。その純度が高いからじゃないですか?自分で言うのもなんですが、自分でも驚く時あるんですよ。ライブとかで思いが強く乗りすぎて、泣いたり怒ったり本気になりすぎちゃう瞬間。あの感じが毎回のようにライブで出てきちゃうのは変だなあ怖いなあって思います。プラスして、自分を客観視して評価するなら、音を本当に細かく聴いている。ハットがクローズなのかオープンなのか、どのタイミングで鳴ってるのか。キックがどこで鳴ってるのか。サブベースがどこで鳴ってて、ベースはこううねってるのに対して、キックはどういうリズムなのか。ギターはどうカッティングしてるとか、言い出したらキリないですけど、とにかく細かく聴いてラップしているなあって。楽器として口を一番冷静に操れるし、そこに自分でも自信を持ってる。それと、英語的なニュアンスでのライミングを日本語の語感の上で実現している。そういうところが「他と違うな」みたいなポイントになっていたらいいな(笑)

ーーDYES IWASAKIさんプロデュースの「Poetry」でも、今いなくなってしまった仲間への思いを歌っていて、「Poetry」から最後の「tell」への流れがだんだん穏やかになっいく。その透明度がすごく高いですね。

GOMESS:「Poetry」はね、自分の話をしてるんですよ。死んだ自分のことを歌ってるんです。自分のことをずっと励まそうとしてきた自分に語りかけてるんですよね。

ーーとなると、ラスト2曲って自分のことを自分で歌っている?

GOMESS:そうですね。

ーーでも、自分で自分のことを歌うのって、 J-POPになると、ものすごく押しつけがましいものになりますよね。

GOMESS:そうですね(笑)。

ーー『てる』が押しつけがましくならないのは、GOMESSさんだからなのか、ヒップホップだからなのか、どちらだと思いますか?

GOMESS:本当の意味でのヒップホップだからだと思いますよ。2パックを聴いて、みんな押しつけがましいと思うのかな、って話ですよね。

ーーじゃあ、『てる』ってアルバムで、本来のヒップホップを体現したっていう実感はありますか?

GOMESS:ありますね。これは一個のヒップホップだと思って聴いてほしいし、だからこそヒップホップの棚で死んでいいアルバムじゃないと思う。そのためにも音楽的なジャンルは壊し続けてきた。どこにあってもこれはヒップホップだから「これが手に入れば大丈夫だよ」と思っています。(宗像明将)

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