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『SXSW』、2つの角度から提示する日本の音楽 打首、キュウソ、人間椅子、Dos Monos……出演アーティストの傾向を解説

リアルサウンド

20/2/24(月) 8:00

●インディーズ精神を貫く、世界最大規模の「ショーケース」
 アメリカ・テキサス州オースティンで開催される、世界最大級のカンファレンス『SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)』。今でこそ本カンファレンスをきっかけに名を広げたTwitterやAirbnbといったWebサービスを筆頭に”スタートアップ企業の登竜門”として有名だが、その始まりは1987年、アメリカのインディーズ音楽関係者による「オススメのミュージシャンを紹介して、もっと売り出したい」という想いから生まれた音楽祭にある。

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 この、”インディーズのショーケース”こそが『SXSW』の本質であり、カンファレンスの巨大化が進んで映画部門とインタラクティブ部門が追加された現在でも、その軸は変わっていない。『SXSW』はあくまで”スタート”の場所であり、ここからビジネスを広げていくことが出演者の目的となる。だからこそ、今でも”音楽”は『SXSW』の軸となっており、多くのミュージシャンが出演を熱望しているのだ。

●2つの角度から提示する「日本の音楽」
 『SXSW』への出演は原則として応募制であり、ミュージシャンであれば主に2つの参加方法が存在する。一つは『SXSW』へ直接応募することで実現する、単独でのショーケースへの参加、そしてもう一つは『SXSW』内で企業やオーガナイザーが主催するショーケース(イベント枠)への参加となる。

 後者のイベント枠において、今年で25回目という長い歴史を持つのが『Japan Nite』だ。1996年にロリータ18号らを迎えて始まったこのイベントでは、知名度を問わず、『SXSW』に合ったインディーズ精神やDIY精神を強く持つ日本のアーティストがピックアップされる。『SXSW』への出演を皮切りに全米を回るツアーが実施されるのも、『Japan Nite』の大きな特徴である。今年はSullivan’s Fun Club、TRI4TH、eX-Girl、打首獄門同好会、キュウソネコカミ、THE TOMBOYS、春ねむりの計7組が出演する予定となっている。どのアーティストもライブハウスで育ち独自の音楽性を磨いてきた、実にオリジナリティの強いラインナップだ。

 今回のラインナップで意外に感じたのは、打首獄門同好会とキュウソネコカミという、日本ではフェスアクトとして鉄板の人気を誇る2組の参加である。2組とも、様々なジャンルをミックスした激しい音楽性と、日本人の生活に密着した非常にドメスティックなテーマを扱う楽曲に定評があり、ある意味では「ガラパゴス」の極地とも言えるだろう。しかし、だからこそ、そこには日本からしか届けることの出来ない、強いオリジナリティがあり、『Japan Nite』側もその面白さを届けたいと考えて、彼らの出演を決めたのではないだろうか。彼らがどのように言語の壁を超えて自分たちの強みを発揮するのか、そしてどのように『SXSW』の観客に受け入れられるのか注目したい。

 また、メンバー全員が10代という若さながら、これまで脈々と受け継がれてきた日本のオルタナティブロックの系譜をしっかりと受け継ぐSullivan’s Fun Clubや、自らの音楽性を「踊れるジャズ」と大胆に示すTRI4THのパフォーマンスにも期待している。これまでも、NUMBER GIRLや東京スカパラダイスオーケストラといったアーティストを支持してきた『SXSW』の観客であれば、きっとそのスピリットが届くことであろう。

 そして『Japan Nite』の誕生から25年が経った今年、遂に新たな日本発のショーケースが『SXSW』に誕生する。FRIENDSHIP.、TuneCore Japan、Spincoasterの3社が手掛ける『INSPIRED BY TOKYO』である。日本やアジアのニュージェネレーションの紹介を目的とした本イベントには、日本国内から参加するThe fin.、Dos Monos、yonawo、Wez Atlas feat. VivaOlaの4組に加え、京都出身シカゴ在住のSen Morimotoと日系アメリカ人ユニットのMIRRRORを交えた計6組が出演する。

 「TOKYO」を掲げるだけあり、ライブハウス色の強い『Japan Nite』とは打って変わって、『INSPIRED BY TOKYO』は都市的で、ストリートカルチャーを感じさせるラインナップが特徴的である。これまでそういった視点でのショーケースがなかったことからも、本イベントが実施される意義は非常に大きい。

 特に注目なのは、すでにアメリカ・ロサンゼルスのレーベル<Deathbomb Arc>と契約を結び、海外での活動も多く重ねているヒップホップ・グループ、Dos Monos。同レーベルからリリース経験のあるDeath GripsやJPEGMAFIAを彷彿とさせるノイジーで実験的な音楽性とキャラの立ったフリーキーな3MCによるラップは、現行のヒップホップシーンの新たな”異物”として、SXSWでも存在感を放つであろう。

 また、すでに拠点を海外にも広げているThe fin.や、長らく海外生活を続けていたWez Atlasなど、東京を一つの軸としつつ、国内外問わず世界の音楽シーンと共振しながら活動しているアーティストのパフォーマンスは、『SXSW』の観客に問題なく受け入れられるであろう。その上で、「TOKYOをキーワードとしたショーケース」として提示することで、アーティスト側も、観客側も、「TOKYO」とは何か? を考えるきっかけになるのではないだろうか。現地メディアでどのように報じられるのかについても注目すると、より一層楽しめることだろう。

 伝統ある『Japan Nite』と新たな『INSPIRED BY TOKYO』。方向性こそ異なれど、インディーズ精神を持つアーティストのショーケースとして、実に『SXSW』らしいラインナップが揃っている。多種多様な音楽性を持つ日本のアーティストに対して複数のショーケースが存在することで、『SXSW』の観客も、新たな視点で日本の音楽を捉えることが出来るだろう。

●レーベルの一員として、あるいは単独で挑むSXSWとその意義
 『Japan Nite』と『INSPIRED BY TOKYO』以外にも、今年は数多くの日本人アーティストが出演を予定している。イギリス・ロンドンのインディーレーベル<Damnably>が主催するショーケースには、同レーベル所属のおとぼけビ~バ~とHazy Sour Cherryが登場する。60年代を彷彿とさせるオーソドックスなバンドサウンドとポップなメロディが印象的なHazy Sour Cherryは今回が初の海外公演となるが、レーベルの先輩でもあり『コーチェラ・フェスティバル』出演も実現しているおとぼけビ~バ~同様に、今回の出演をきっかけに、海外でその名前を見る機会も増えていくのではないだろうか。

 また、さらに単独での出演枠として、人間椅子、大門弥生、山崎千裕+ROUTE14band、CVLTEが名を連ね、アニメ『キャロル&チューズデイ』の”アーティストとしての出演”も決定している。やはりこちらもオリジナリティの強いラインナップとなっており、特に、日本のヘヴィロック界の重鎮である人間椅子の出演はその象徴とも言えるだろう。

 また、自らフェミニストであることを掲げ、「NO BRA! feat. あっこゴリラ」や「#KETSUFURE」といった楽曲でよりオープンな女性像を提示する大門弥生のパフォーマンスは、それまでサブカルチャーを中心に形作られてきた日本人女性のステレオタイプを打ち破る大きなきっかけになるかもしれない。単独枠は、ショーケースとしてのラベルを”貼られない”からこそ、強い個性を遺憾なく発揮出来る場所でもある。

 以上、本当は全ての出演者を紹介したいところだが、今年の『SXSW』における日本人ミュージシャンと、その傾向について紹介してきた。

 冒頭でも書いた通り、SXSWは”ゴール”ではなく”スタート”の場所である。今では定番となった『Japan Nite』の始まりも「世界で活躍するためのきっかけを作る」ことにあった。だからこそ、今回出演するアーティストが、『SXSW』をきっかけに、世界中の音楽関係者と繋がり、新たな活動への足がかりを掴む様子を見るのを、非常に楽しみにしている。

 また、『SXSW』は「未だ見ぬ新たな何か」を発見する場所である。もしこの文章を読んで、知らないアーティストの名前が目に入ったのであれば、ぜひその音楽を聴いてみてほしい。『SXSW』自体が一つの「ショーケース」なのだから。(ノイ村)

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