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“本当の友達”ってどんな人? ピクサー最新作『あの夏のルカ』監督が語る

ぴあ

『あの夏のルカ』

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ディズニー&ピクサーの最新作『あの夏のルカ』が本日からディズニープラスで独占配信をスタートした。本作は、イタリアの港町を舞台に、海の世界で暮らすシー・モンスターの少年ルカとアルベルトの友情と冒険の物語が描かれるが、監督を務めたエンリコ・カサローザは、ほかのピクサーの監督たちと同じように自身の想いや人生を作品に盛り込んで創作にあたったようだ。

ヒット作を連発し、オスカーなど映画賞の常連でもあるピクサーは、ストーリー開発にたっぷりと時間をかけ、細部まで検討し尽くした上で映画づくりにあたっているが、その根底にあるのは、フィルムメイカーの極めて個人的な想いや体験だ。

ピート・ドクターは幼い娘と過ごした日々をベースに、『モンスターズ・インク』で女の子ブーを前に右往左往するモンスターのマイクとサリーの物語を描いた。そして、娘が思春期になると“この年代の子の頭の中はどうなっているんだろう?”と思い『インサイド・ヘッド』を制作した。リー・アンクリッチは自身の子供たちが成長して巣立っていくのを目にして“家族という大きな流れの中に自分はいるのだ”と思い『リメンバー・ミー』に着手した。自分たちが感じていること、これまでの人生で学んだことが、多くの人を魅了するピクサー作品の原点なのだ。

イタリアで生まれ育ったカサローザ監督は「僕は自分の進むべき道を見つけるのに、時間がかかってしまったんです」と振り返る。

「高校を出たあとは法学を勉強していたんです。でも勉強している時間よりも……絵を描いている時間の方が長かった(笑)。両親にも『いまの自分は間違った方向に進んでいる気がする』と相談したこともあります。イタリアでは大学に通うのにそれほど学費がかからないのですが、美大は私学なので進学するとなれば親に大きな負担をかけることになってしまいます。

そんな時にふと『アニメーションの道があるじゃないか!』って思ったんですよ。ディズニーの黄金期のアニメーターたちについて書いた本(1981年に出版された『ディズニーアニメーション 生命を吹き込む魔法 ― The Illusion of Life ―』)を手にしたこともきっかけのひとつでしたし、1980年代のイタリアでは日本のアニメーションがたくさんテレビで放映されていて、それを観るのも大好きでした。それにアニメーションであれば、自分の描いた絵を動かすことができる!

そんな時に友達がニューヨークでアニメーションを学んでいることを知りました。故郷を離れることは悲しかった。でも夢を追うために故郷をあとにしてアメリカに渡ったわけです」

自分のやりたいこと、夢を追って広い世界に出てみたい。そんな監督の過去が本作には生かされている。映画の主人公ルカは、海の世界で暮らすシー・モンスターの男の子。親からは人間の世界は恐ろしいから行ってはダメだと何度もクギを刺されているが、新しい世界に行ってみたい、もっと広い世界に出てみたいという気持ちを抑えることができない。そんなある日、彼は人間の世界で暮らすシー・モンスターのアルベルトに出会い、海を飛び出して冒険に出かけることになる。

やがてルカとアルベルトは様々な経験をしながら友情を深めていく。ポイントは単に“仲良し”になるだけでなく、真の友達に出会うことで、それぞれが自身の気づいてもいなかった可能性を見つけたり、自分の弱さを発見することだ。カサローザ監督は「自分以上に自分のことを思ってくれる、自分よりも自分のことをわかってくれている人がいる。それが友人だと思う」と力をこめる。

「映画の中で、ルカが“できない、できない”と思っている時にも、アルベルトは“君ならできるよ!”って言ってくれる。本当の友達は"君は本当はこんなことができるんだよ”って教えてくれる存在でもあると思うんです。誰もが人生の中で、アルベルトのような友達が必要なんだと思います。

この映画のルカとアルベルトは、僕と親友が数年前に話したことが基になっています。僕らは“どうして僕たちの友情は特別なものになったんだろう?”って考えたんです。そこでは僕らは、お互いを成長させ、お互いに学び合い、ふたりが違う道に進んだとしても友情を共に連れていくことができたからだって話になりました。僕にもアルベルトみたいな友達がいたから、自分の夢を追うことができた。僕は“もし親友に出会わなければ、いまの自分はあっただろうか?”とも考えるんですよ」

劇中のルカとアルベルトは“名コンビ”になるだけでなく、それぞれが迷ったり、立ち止まったりしながら自身の進むべき道を見つけ出していく。もちろん本作はピクサー作品なのでコミカルなシーンやハラハラする場面がふんだんに盛り込まれており、アニメーション表現はフルCGだが、監督の大好きな日本のアニメーションを観ているような感覚になる。

「リアルな動きではなく、“絵が動いていること”に喜びを感じられるアニメーションにしたくてスタッフとは何度も何度も話し合いをしながら制作にあたりました。物語を進める上で絶対に必要か? と考えるとカットされてしまうようなシーンでも、絵を動かす喜びに満ちたシーンは入れるようにしています。

この映画をつくるにあたってスタッフみんなで改めて様々なアニメーションを観ました。『未来少年コナン』でコナンが走るシーン、『ルパン三世 カリオストロの城』でルパンが塔から塔へ飛び移るシーンの動きとタイミング!……宮崎駿監督はシンプルなデザインで絵を動かしまくることに魅力を感じます。『マインド・ゲーム』や『カイバ』の湯浅政明監督はクレイジーな天才ですよね!大ファンです!他にも『ウォレスとグルミット』なんかも観ました。

これらの作品はどうしてこんなにも魅力的なんだろう?と考えると“完全にスムーズではない動き”が大事なんだと思ったんです。だから僕たちもこの映画では、絵をスムーズに動かし過ぎないようにして、時に動きをシャープにしたり、日本のアニメのように手足をバタバタさせると手や足がたくさん描かれているようにしたり……様々なアニメーションを観て、そこにある要素を参考に創作していきました」

今回のインタビューはリモートで行われたが、カサローザ監督の自宅には『…カリオストロの城』の巨大なポスターが飾られており、『となりのトトロ』も本作をつくる上で重要な1作になっていると笑顔を見せる。

「トトロは子どもの世界を描いたパーフェクトな作品で、あの作品に描かれているマジックをピクサーの世界に持ち込むことができたら……そんなことを思いながら『あの夏のルカ』をつくりました。だから、そんな僕たちの想いを少しでも感じてもらえたらうれしいですね。ちなみに、宮崎監督の新作の完成を本当に楽しみにしてるんですよ!『宮崎監督、健康には気をつけてください!』とメッセージをおくりたいですね」

『あの夏のルカ』
ディズニープラスにて見放題で独占配信中
(C)2021 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

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